でも、とイザークは心の中で呟く。
 キラが自分と結婚してくれる意思があることは確認している。でも、自分からきちんとそうして欲しいと口にしたことはなかった。
「……ここは、きちんと告げるべきだろうな」
 自分たちの中では既に確固とした事実としてあるとしても、けじめは必要だろう。
「周囲への牽制もしておかないとな」
 アスランは大人しくなったものの、キラを狙っているものは他にもいる。
 だからこそ、母やアスハの者達がここで話をまとめようとしているのではないか。
「ロマンチックと言うにはほど遠いかもしれないが、キラには我慢してもらうしかないか」
 探せば周囲にプロポーズにふさわしい場所があるかもしれないが、探している時間があるかどうか。
「……ディアッカかミゲルなら、知っているかもしれないな」
 あの二人はマメだから……と呟くと、イザークは立ち上がる。
「後は……花、か?」
 エザリアが父にプロポーズされたときには両手いっぱいの花束を贈られたという。
「……それも何とかなるだろうが……キラにバラは似合わないな」
 同じ花であるならば、いっそユリの方がいいかもしれない。それも純白のだ。
「取りあえず、ディアッカを捕まえるか」
 自分の考えだけで物事を進めたいのは山々だが、そのために独善的になってはいけない。だから、助言ぐらいは求めてもいいだろう。
「隊長にお時間があればいいのだが……」
 ダメならばカナードか、レイを捕まえよう。
 ムウもいいのだろうが、彼の側にはカガリが付いていることが多い。彼女に口を挟まれるのはあまり嬉しくない。だから、申し訳ないが除外させて貰おう、と思う。
「……あぁ、アイシャさんに声をかけてみてもいいな」
 彼女であれば女性の視線からあれこれアドバイスをしてくれるだろうし、と心の中で付け加える。
 どちらにしても、一世一代のことだ。
 キラのためにも失敗はしたくない。
 だから、自分で似きる限りのことはしよう。そう心の中で呟くと、イザークは行動を開始した。

 フレイがぐったりとした様子でベッドに突っ伏している。
「ご苦労様」
 言葉とともに、キラは彼女が好きなミルクティーを差し出した。もちろん、キラがここで淹れたものだ。
「……パパがあそこまでバカだとは思わなかったわ……」
 まぁ、立場もあるのかもしれないが……とフレイはそれでも体を起こす。
「キラと話をさせろって……丸め込めると思っていたのかしら」
 自分たちの味方に付けようとしたんだろうけど、そんなこと、あたしがさせると思っていたのか……と彼女は付け加える。
「お金だけはくれたけど、ずっと放っておいて……迎えに来るどころか探そうともしなかったくせに」
 これは確認したから嘘ではない、とフレイは怒りを隠せないようだ。
「それに比べたら、バナディーヤの人たちは凄く親切だったわ」
 ナチュラルなんて嫌いだった人もいただろうに、と彼女は続ける。それでも、自分に無理難題を押しつけようとはしなかった。
「……きっと、家族だから、だよ……」
 キラは取りあえずこう言ってみる。
「でも、家族だからっておかしいでしょ?」
 キラの兄弟達を見ているとそう思える、とフレイは即座に反論をしてきた。
「うちを基準にするのは、ちょっと間違っているよ」
 取りあえず、兄弟達の過保護ぶりは普通じゃないから……とキラは苦笑を浮かべる。本来であれば最年少のレイも同じように溺愛されそうなのに、うちでは逆だから、とも付け加えた。
「それは、キラが女の子だから、でしょ」
 女の子は誰からも守られるべき存在だし、とフレイは笑う。
「だから、いいのよ」
 レイだってカナードさん達に可愛がられているんだし、と彼女は付け加える。
「カガリさんだってそうじゃない」
「……まぁ、そうかもしれないけど……」
 カガリは可愛がられているけど、甘やかされていないだろう。
 でも自分は……とキラはそっと心の中で付け加える。
「女の子は、誰であろうと大切にされるべきなの! もっとも、それと義務を果たすのは別だけど」
 カガリは義務を果たすために頑張っているから、ちょっとかっこいいと思えるのよね……とフレイは付け加えながらミルクティーに口を付けた。
「おいしい」
 次の瞬間、こう言ってくれる。
「これだけは自信があるから」
 他のことは人並みにはできると思うが、カナードにはかなわないのだ……とキラはため息を吐く。
「カナードさんは別格よね」
 あそこまでやれる人は凄いわ、とフレイも素直に頷いてみせる。
「頑張らないと、ダメだよね」
 もう、戦争のことは考えなくていいのだから、とキラは口にした。
「そうね」
 せめて、女の子として恥ずかしくないくらいには作れるようにならないと……とフレイも同意をする。
「……女の子って、別の意味で大変かも」
「でも、それでこそ女の子よ!」
「そうだよね!」
 それに、そちらの方に集中していれば、イザークと離れている間も寂しさを忘れられるだろうか。
 そんなことを考えていた。