人払いをしてもらったからだろうか。通路には三人分の足音だけが響いている。 「……これで、よかったのかな……」 キラはぽつりと、こんな呟きを漏らす。 「あぁ。あいつもお前に振られないと、前に進めないだろうからな」 カナードはこう言いながら、そっとキラの髪を撫でてくれた。 「だから、あいつに現実を突きつけてやるという意味ではよかったんだよ」 「そうですわ、キラさま」 カナードの言葉に、ラクスも頷いてみせる。 「アスランはバカで優柔不断ですから、自分だけでは前に進めませんの。ですから、キラさまに背中を突き飛ばして頂く必要があったのですわ」 彼女にまでこう言われたと言うことはそうなのだろうか。 「それよりもキラさま。お迎えがいらしてますわよ」 悩もうとした瞬間、ラクスが柔らかな笑いと共にこう言ってきた。 「迎え?」 誰、と思いながらキラはラクスが指し示している方向へと視線を向ける。そうすれば大好きな銀色が確認できた。 「……俺たちもかなり過保護だと思っていたが……あいつも負けていないな」 まぁ、そのくらいでなければキラを預けられるか……と言われるのは何なのだろうか。 それでも、イザークが来てくれたのは嬉しい。 「イザーク」 その思いのまま、彼の名を口にする。 「キラ」 ふっと優しい表情を作ると、イザークは真っ直ぐにキラへと歩み寄ってきた。 「よく、頑張ったな」 この言葉とともにそうっと頬に触れてくる。 「……イザーク」 「後のことはミゲルとニコルに任せておけばいい。あいつらなら、任せておいて大丈夫だ」 そう言うことに関しては、彼らは信頼できるから。微笑みと共にイザークは言葉を重ねた。 「あいつも、これで仲間達の存在を今までとは違った意味で認識するだろう」 その後どうするかはアスラン次第だ。その言葉にキラも静かに頷く。 確かに、自分にはもうどうすることもできない。 アスランの希望を叶えることは、自分の幸せを諦めることだとわかっているからだ。最初はよくてもいずれはひずみが出てくるに決まっている。その結果、お互いが憎しみ会うことになっては本末転倒だろう。 それに、自分はどうしてもアスランをそう言った視線で見ることができない。 だから……とキラは思う。 こうする以外、自分にはなかった。 でも、もっと別の方法があったのではないかとそう考えてしまう。 「だから、気にするな。人はどうあがいても完璧な存在になれるはずがない」 その時その時で、最善と思われる方法を採るしかないのだ。 「……うん、そうだね……」 確かにそうだろう。 キラが頷いたときだ。 「納得したのであれば、移動をするぞ。カガリが暴れ出さないうちにな」 今頃、何をしでかしているのかわからない……とため息を吐きながらカナードが口を挟んでくる。きっと、彼はキラが自分で結論を出すまで待っていてくれたのだろう。いや、彼だけではなく他の者達もそうではないか。 「……カガリ、暴れているかな?」 いくらなんでも、この状況でそれはないのではないか、とキラは思う。 「自分だけ蚊帳の外だったからな」 彼女は本気でアスランをぶん殴りたいと考えていたらしい、とカナードは口にする。 「それじゃ、話し合いにならなかったんじゃないの?」 「だから、ムウ兄さん付きで隔離しておいたんだろうが」 仕事も与えておいたし、とカナードは笑う。 「でも、カガリの性格を考えればそろそろだろう?」 無事に終わったと言えば彼女も納得するのではないか。 「……兄さん達よりカガリの方が過保護だよね」 キラはため息とともにこう呟く。 「アスランもだけど、カガリも友達作った方がよくないかな?」 バナディーヤ以来、自分にべったりになっているように思えるんだけど……とキラはカナードに問いかけてみる。 「大丈夫だろう。最近、フレイと仲がいいし……その縁でさらに広がっていくだろう」 自分としては、もう少し女性らしい言動を覚えて貰いたいものだ。ため息とともに彼はこう言い返してくる。 「……うちの母と気が合いそうですがね」 苦笑と共にイザークが口を挟んできた。 「それは悪いことではないが……エザリア様を真似されても困るな」 縁遠くなりそうだ、と口にする彼の言葉に妙な実感がこもっているのはどうしてだろうか。 「大丈夫だとは思いますが……」 「未だに、女性からしかラブレターを貰ったことがないそうだが?」 「……うちの母も、そうだったそうですよ」 それでも父と結婚したのだから、カガリも大丈夫ではないか。 「ムウ兄さんがマリューさんと結婚をしたら、カガリも少しは考え直すんじゃないかな」 キラはキラでこう告げる。 「そう願いたいよ。俺はそこまで面倒を見切れん」 完全にさじを投げていないか。そう言いたくなるようなカナードの言葉にキラは少しだけ眉を寄せた。 「お前がプラントに移るときには、俺も一緒に行くんだぞ? どうやってカガリの面倒まで見られるんだ?」 ムウが戻ってきたから彼に押しつけるさ。彼はそう言って笑う。 「そう言うことだから、心配するな」 そういうものなのか、とキラはまた首をひねりたくなってしまった。 |