不安そうなキラとは逆にアスランは実に嬉しそうだ。それはきっと、誰にも邪魔されずにキラと話す機会を与えられたからだろう。 最初から自分たちの同席を認めればよかったのに。その表情を見つめながらカナードは心の中で吐き捨てる。そうすれば、ここまで事態はこじれることはなかっただろう。 まぁ、アスランにそれを言っても無駄か……とそう思いながらも、カナードはさりげなくキラをかばえるような位置に移動をする。 同じようにアイシャとミゲルもさりげなく体勢を変えていた。 ここにイザークがいないのは、アスランを刺激しないため……と言うだけではなく、彼に暴走させないためと言うこともある。自分たちだけではなくアスランの側にラクスとニコルを付けるから、という条件で諦めさせたのだ。今頃、ラウやフレイ達と共に別室の監視カメラからここの状況を確認しているはずだ。 「キラ……」 アスランに声をかけられた瞬間、キラの肩が震える。怖れているわけではないのだろうが、彼の存在を恐がっているのだろう。 「大丈夫だ、キラ」 その仕草を見た瞬間、アスランは信じられないというように目を丸くしている。 全部自業自得だ。 そう言ってやりたいが、我慢しておく。 「うん」 キラが小さい頃のようにカナードの左袖を握りしめてくる。その意味をアスランもわかっているはずだ。 「……アスラン、僕に、何の話があるの?」 少し声が震えているが、それでもしっかりとした口調でキラは言い返す。 「キラ! 俺は、お前と話がしたいだけだ……」 前もそう言っただろう、と彼はそれでも静かな口調で言い返してくる。 「そうして、また僕の友達を悪く言うの?」 自分の三年間を否定するのか? いや、それ以前に自分自身を否定するようなことを言うの? とキラは真顔で問いかける。 「そんなつもりはない」 ここまで来れば、自分がどれだけキラを傷つけるような言動をしてきたのか、アスランにもわかるのではないか。 「俺は……一番幸せだったあのころを、取り戻したかっただけ、だ」 母も既にこの世にいないから、とアスランは視線を落とす。 「……おばさま?」 レノアがどうしたのか、とキラは問いかける。彼女には何も教えていないから、今でもレノアは優しかったおばさん、というイメージを抱いているのだろう。 しかし、ここで彼女のことを口にするのは卑怯ではないか。そうアスランに言いたい。 二人の会話を邪魔しないなどと約束しなければよかった。 そうすれば、不用意な発言をするバカを思いっきり罵倒してやれるのに。 カナードは心の中でそうはき出す。だからといって、一度約束をしたことを破るような愚かなマネはできない。せめてもの意思表示として、カナードは彼をにらみつける。 「……ユニウスセブンに、いた」 研究施設がそこにあったからな……とアスランはカナードの表情に気付かずに――それとも無視しているのか――言葉を重ねた。 「……そう……」 キラの声が、先ほどとは別の意味で震えている。 「だから……俺に残されているのは、キラだけなんだよ……」 そう思っているのはアスランだけだ。 周囲を見れば彼の力になろうと思っている者達はそれなりにいるはず。その多くは《ザラ》に取り入ろうとするものかも知れない。だが、ほんの一握りとはいえ彼自身のことを好きで手助けをしたいと思っているものだっているはずなのだ。 それを見つけられないのは、あくまでもアスランが自分で自分の目をふさいでいるからだろう。 「それは、違うよ」 同じ事を考えていたのか。キラはこう口にする。 「キラ?」 「アスランが、そう思いこんでいるだけ、だよ。あの時も、そう言ったけど……」 言葉がとぎれとぎれなのは、きっとどういえば彼が理解をしてくれるのかを考えながら話しているからだろう。 「アスランは、友達を捜すための努力をしたの?」 キラは静かな口調でさらにこう問いかける。 「……しても、意味がないだろう?」 アスランが少しいらついたような口調で言い返す。 「月にいた頃だって、そうだったじゃないか。俺が《ザラ》の息子だと知った瞬間、俺におもねる行動しか取ろうとしない連中だけだった」 そして、自分で墓穴を掘ってくれる。 「そうなの?」 自分が知っているからキラも知っているのだろうと、アスランは考えていたのではないか。 しかし、自分はあえてキラにも何も言わなかった。 知らなければ、キラが傷つくことはない。自分が代わりに目を光らせておけばいいだけだ、と判断をしていたからだ。 「いったいいつ?」 キラの問いかけで、アスランはようやくそのことに気が付いたらしい。忌々しそうな視線をカナードに向けてきた。それに対し、カナードは鼻先で笑い返してやる。 「それでも……アスランと本当に友達になりたいって思っていた人もいたはずだよ?」 ただ、アスランが気付かなかっただけだ……とキラは口にした。 「それに、最初はそう言う目的だったかも知れないけど、一緒にいる間に考えを変えてくれた人だっていたかも知れないでしょ?」 そう言う人を探すために、アスランはいったい、どのような努力をしたのか。キラはさらに言葉を重ねる。 「ザラという家名が重いものだっていうのは、僕にも推測できるけど……でも、それならばジュールやクラインだってそうなんでしょ?」 違う? とキラはラクスへと視線を向けた。 「そうですわね。エルスマンもアマルフィもそうですわ」 これらの家ほどではないが、レイの後見をしてくれているデュランダルもプラントでは名門と言っていい……とラクスは教えてくれる。 「でも、ラクスにはお友達がいるんだよね?」 キラはさらに問いかけの言葉を口にした。 「たくさんとは申しませんが、キラさまにとってのフレイ様と同じような方はおりますわ」 もっとも、すぐに見つけられたわけじゃないが……と彼女は続ける。 「……どうして、アスランにはそれができなかったの?」 キラは再びアスランに視線を戻すとまた問いかけた。 「キラ……俺は……」 ここまで毅然とした態度をキラが取ると思っていなかったのか。アスランは言葉を失っていた。 |