キラに会いたい。
 会って話がしたい。
 それだけがアスランの望みだった。
「……許可をする条件に、誰かの立ち会いが必要だとするなら妥協するさ」
 アスランはそうも思う。
 必要なのは、キラと会うこと。そして、会話を交わすことだけだ。
「多分、これが最後のかけ、だな」
 アスランは小さな声でこう呟く。
 自分の言葉を聞いて、彼女がどのような反応をするのか。それによって自分の態度を決めよう。
 キラを自分だけのものにしたいというのは今でも代わらない。
 だが、強引に事を進めて彼女の笑顔が失われるのもいやだ。一番欲しいのは、キラのあの笑顔なのだから。
「もっとも、既に『大嫌い』と言われているか」
 あれがどこまで本心かはわからない。だが、自分が彼女にそう言わせてしまったのは事実だ。
 でも、とアスランは心の中で呟く。
 今でも自分の言動は正しいと思っている。ただ、あの時の状況がキラの精神に悪影響を与えていた可能性だってあるのではないか。
 実際、イザークの腕の中にいた彼女の顔色はどこか悪いように感じられた。
 それなのに、その瞳だけが強い力をたたえて輝いていた。
 そのアンバランスさのせいで、自分はキラから目が離せなかったのかも知れない。
 同時に、そんな状況だったからこそ、キラはあんな言動を取ったのではないか。
 キラを含めた状況が落ち着いた今であれば、あるいは違う反応をしてくれるかも知れない。
 そこに一縷の望みをかけていた。
 きっと落ち着けば、キラは自分を選んでくれるはず。
 しかし、この状況でも彼女がイザークを選ぶというのであれば、自分には望みがないと言うことだろう。それ以上無理強いをしても嫌われるだけだ。
 何よりも、ここで大騒ぎを起こせば、絶対に父の耳にキラのことが入るに決まっている――いや、既に入っているのだろうか――と言うことは推測できる。
 カナード達の言葉が正しいのであれば、パトリックは今でもキラ達のことを排除しようとしているのかも知れない。
 キラがじぶんのものにならないことよりも、彼女の存在が永遠に失われることの方が辛い。
 その結論に達したからこそ、今回のことを計画したのだ。
 イザークに事前に話を通しておいたのもその言ったんである。
「俺に会わせるかどうか。それで、あいつの度量がわかるよな」
 イザークに告げたことをキラ相手にメールで送っておいた。だから、彼女も自分の言葉を目にしているはずだ。
 イザークがキラに告げる告げないにかかわらずキラには自分の希望が伝わっているはず。だからどちらに転んでも自分にはマイナスにならない。
「その後は……それこそ、キラ次第だがな」
 それが一番の何感官ではないだろうか。そう考えてため息を吐くアスランだった。

 アスランの予想通り、キラは彼からのメールを目にしていた。いや、キラだけではなく側にいたフレイとレイもしっかりとそれを目にしていたが、それもアスランには予想の範囲内なのだろうか。
「……何を考えているのよ、あの男!」
 最後まできっちりと目を通したフレイがいつものようにこう告げる。
「……でも……」
 彼女はアスランを嫌っていることはキラも知っていた。それもしかたがないと思う。
 しかし、とキラは思う。
「今回は、いつもと違うよ?」
 アスランの態度が……と付け加えた。
「わかっているわよ!」
 そのくらい、とフレイは言い返してくる。
「でも、どこまで信じられるかわかったものじゃないわ」
 あの男のことだから平気で約束を反故にしそうだ。そうまで言い切るのはきっと、バナディーヤでの一件があったからだろう。
 そのせいでラウがケガをした。だけならばまだしも、アスランがあれこれやってくれたおかげで彼の完治が遅れている、と言うことも事実。
 それでも、だ。
「わかっているけど……カナード兄さんかイザークが付き合ってくれれば、大丈夫じゃないかな、って思うんだ」
 二人一緒だともっと安心だけど……とキラは付け加える。
「姉さんが頼めば二人とも着いていってくれるとは思いますが……でも、俺もあまり賛成できません」
 相手がアスランだから、とレイもため息混じりに口にした。
「それでも、姉さんがそうしたいというのであれば、俺は協力をします」
 でなければ、キラが納得できないのだろう。そうも彼は続ける。
「……レイ……」
 ごめんね、とキラは呟く。それでも、きちんと決着を付けなければいけないのではないか、と思うのだ。自分のためだけではなくアスランにとってもその方がいいのではないかと思う。
「まぁ、それがキラだもんね」
 あの男にそこまで情けをかける必要はないような気はするが……とフレイがため息を吐きながら口にした。
「フレイ」
「いいわ。きちんと決着を付けないとキラも納得できないんでしょう? 今ひとつ気に入らないけど、協力してあげる」
 でも、気を許しちゃダメだからね。そう告げる彼女にキラは小さく頷いてみせる。
「ならいいわ。後は、根回しね」
 自分たちもきちんと状況が確認できるようにしておきたいし。フレイの言葉にレイも同意をするように首を縦に振ってみせた。
「……なら、兄さんに相談してみようか」
 キラはこう口にする。
 既にイザークがカナード達の所に行っているとは思っても見ないキラだった。