キラを友人達に預けることを条件に、カナードは地球軍の軍人達とともに、彼等が内密で開発をしていたMSが置かれた一角へと足を進めていく。
 本当は、あの場からキラを連れて逃げてもよかったのだ。
 だが、一人連れ去られたキラを心配して駆けつけてきた友人達――おそらく、率先して動いたのはフレイ・アルスターだろう――の存在に気付いてしまった。
 大切なものを失う、と言うことがキラをどれだけ追いつめてしまうかもわかっている。だから、妥協をした……という状況だ。
 それでも、と彼はこっそりと心の中で呟く。
 あれを迂闊な相手に渡すくらいであれば、自分が確保した方がいいだろう。後で、自分以外に使えないようにOSを書き換えてしまえばいいだけのことだ。
 だが、それだけでキラを守れるだろうか。
 そんな不安がないわけではない。
 しかし、連絡が正しいのであれば、彼が既にここに来ているはず。何とかして合流できるようにするしかないだろう。
 最初は何馬鹿なことを……と思っていたがこのような状況を想定してのことであれば、流石だ、というしかない。
 もっとも、それはあくまでも次善策だ。最善な状況というのは、こいつらが自分たちにちょっかいを出さずにいてくれたことだったのだが……と心の中でそっとため息を吐く。
 そのために、ホムラに名前を貸して貰っていたのに……とも。
 だから、地球軍は……と心の中ではき出す。他国のものはどうでもいいという教育を末端まで行き届かせているから、この戦争は終わらないのだ。そうも言いたい。
 もちろん、自分一人でどうこうできる問題ではないことはわかっている。
 だから、すくなくとも、キラとその友人ぐらいだけは守ってやらなければ、と思うのだ。その中でも最優先すべきなのは、もちろん《キラ》だ。
 後一人、自由に動ける人間が側にいれば楽だったのかもしれない。
 そうは思うが、他の者達はそれぞれ自分が担うべき役目に就いている。何よりも、キラの側で彼女を守る、という選択をしたのは自分なのだ。だから、とそうも思う。
 あのいけ好かない女性士官はキラ達を安全な場所に避難させると言っていたが、どこまで信用できるだろうか。。
「……どうかしたのか?」
 自分の隣を歩いていた兵士がこう問いかけてくる。
「銃声が聞こえたような気がしただけだ」
 本当のことなど言う気にもならない。だから、と適当なセリフを口にした。
「気のせいではない……既に、あそこに通じる場所では戦闘が行われている」
 だからこそ、一刻も早くあれらを避難させなければいけないのだ……と言われても、自分たちには関係がない。
 取りあえず、今回のことに関しては、何とかウズミかホムラに連絡を入れなくては。問題なのは、その機会があるかどうか、だ。
 まぁ、なければ作ればいいだけのことだろう。
 心の中でそう呟くと、カナードは微かな笑みを口元に刻む。
 戦闘で混乱をしている最中であれば、いくらでもそのチャンスは作れるはずだ。

 しかし、まさかあそこで《彼》と再会するとは思わなかった。
 本当に厄介な奴が……とカナードは心の中で呟く。だからといって、どうすることもできないというのは事実だった。

 奪取した機体を無理矢理ガモフに向けながらも、アスランは信じられない思いでいっぱいだった。
 考えてみれば、その可能性がなかったわけではない。
 でも、何故……とも思う。
『カナード、さん?』
 目の前の機体の上に立っていた人物に向かって声をかければ、彼は苦笑を向けてきた。だが、彼は何も言わずに、その場にうずくまっていた地球軍の技術士官だと思われる女性を連れて、コクピットに入ってしまったのだ。
 その後、ミゲルのジンと戦闘を繰り広げていたようだがどうなったのだろううか。
「……どうして……」
 彼がここにいたことではない。
 どうして、自分たちと敵対をするような行動を取ったか、がわからないのだ。
「……まさか、キラ?」
 あの可愛い幼なじみを地球軍に人質に取られているのだろうか。
 その可能性は十分にあり得る。
 彼がどれだけあの幼なじみを大切にしていたのかを、自分はよく知っていた。そして、そうしたくなる気持ちも、だ。
「だとするなら……何とかしないと」
 具体的に何ができるかはわからない。
 しかし、クルーゼに相談をすればいい方法が見つかるのではないか。
 キラさえ取り戻してしまえば、カナードには何の問題もなくなるだろう。何よりも、あの二人は自分の目から見ても十分すぎるほど有能なのだ。絶対にプラントにとって必要な人間だと言っていい。
「大丈夫……必ず、俺が助け出してあげるよ」
 キラ、とアスランは小さな声で呟く。
 そのためには、自分が無事に戻らなければいけないのだが。
「しかし、何を考えて開発したんだ、これは」
 こんなもの、ナチュラルが本当に操縦できると思っていたのか。表示されたエラーを修正しながらアスランは呟く。
 それとも、と彼は微かに眉を寄せる。
 これを何とかできるプログラマーがいるのだろうか。
 こう考えた瞬間、彼の脳裏に真っ先に浮かんだのは《キラ》の顔だった。しかし、それをすぐに否定する。
 あの幼なじみは、絶対に戦争に関わることに協力をするはずがない。それでも不安なのは、キラの性格を覚えているからだろうか。
「でも、あいつはお人好しだから……」
 言いくるめられているのかもしれない。
 だとするのであれば、問題かもしれない……とは思う。だが、そこに地球軍がつけ込んだのであれば許せないな。こうも考えていた。