話がある。 そういわれてアスランから呼び出されたのは先ほどのことだ。 「……何を考えているんだ、あいつは」 その話を聞きつけたディアッカがこんな呟きを漏らす。 「俺が知るか!」 自分の方が理由を知りたい! とイザークは怒鳴り返した。自分があの男と進んでなれ合いたいと思うはずがないだろう。そうも付け加える。 「わかっているがなぁ」 なら、どうしてイザークと話をしようと思ったのか……とディアッカは首をひねる。 「まさか、決闘なんていいださねぇよな、あいつ」 戦争も終わったし、後始末も自分たちの手からは離れている。だから、今ならばどちらかがかけても誰も何も言わないのではないか。そう判断したとしてもおかしくはないだろう。 「……それこそ、ありがたくないな」 イザークは盛大にため息を吐く。 「キラが悲しむ」 自分がケガをしても、アスランがケガをしても、だ。 「まぁな。キラは優しいからな」 誰がケガをしても悲しむ。まして大切な人間であればなおさらだろう。 「それがキラのいいところだ。甘いというのであれば、周囲の人間がフォローをしてやればいいだけだろうが」 その優しさを守るためならば、どれだけ努力をしても構わない。そんな風にも思う。 「キラのフォローをしてくれる人間はたくさんいるし、な」 自分としても、キラは今のままでいて欲しいと思うぞ……とディアッカも頷く。 「……それで、どうするよ?」 行くのか? と彼はすぐに表情を変えると問いかけてきた。 「行くしかあるまい」 下手に放っておいて、とんでもない行動をされるのは困る。今自分たちを取り巻いている状況であれば、すぐに動けない可能性があるし……とイザークは答える。 そのせいで、キラに万が一のことがあっては困るだろう。 「だよな。それしかないか」 まぁ、自分もできるだけ近くまで付き合うから……とディアッカは口にする。 「ディアッカ?」 「そこまでバカとは思いたくないが……何かあったら、フォローできるだろう?」 本当は第三者も立ち会わせたいところだが、そこまではむずかしいだろう。彼はさらに言葉を重ねながらこう告げた。 「そこまでしなくても大丈夫なのではないか?」 「そう思いたいんだが……アスランだからな」 最近の言動を考えれば用心に越したことはない。そう言われてしまえば、イザークも反論はできない。 「隊長はともかく、ミゲルには一応声をかけておいた方がいいだろうな」 何かあったときにフォローをして貰うために……と彼は付け加える。 「……気に入らないとはいえ、同僚だった男にここまで警戒をしなければいけないとはな」 本当に厄介な状況になったものだ、とイザークはため息を吐く。だからといって、引き下がることができないこともあるのだ。 「さっさと諦めればいいものを」 思わず、こう呟いてしまう。 「それができないから、厄介なんだろう?」 「……わかっている」 ここまで来れば意地などと言うものではない。妄執だ。だからこそ、キラをあの男に渡せないのだ、とイザークは拳を握りしめた。 「……アスランが、ですか?」 その話はラクスの耳に、も届いていた。いや。ディアッカ達から話を聞いたニコルが教えたという方が正しいのかも知れない。 「何を考えていらっしゃるのでしょうか、あの人は」 しかもイザークを呼び出すなどとは……とそうも付け加える。 「それは、僕にもわかりません」 最近のアスランが何を考えているのか、と彼は言葉を重ねた。 「それはわたくしも同じですわ、ニコル様」 もっとも、最初からわかっていなかったかも知れない。そこまでしようと思っていなかったのだ。あくまでも、アスランとの婚約は義務であって、自分の望みではない。だが、それはしかたがないとわかっていた。 それに、自分は自分の立場を優先していたし……と心の中で付け加える。 それが自分を支持してくれている人たちのためだったとわかっていても、今はそれは間違っていたのかも知れないと思う。 もう少し、アスランのことを知ろうとする努力をするべきではなかったか。 もちろん、後の祭りだ、と言うこともわかっている。 「今更、それを言ってもどうしようもありません。重要なのは、アスランがこれ以上罪を重ねないことですわ」 そうすればキラを傷つけることもないだろう。 「わかっています。取りあえず、ディアッカの他にミゲルもイザークと同行してくれることになっています」 自分はキラの方に回ってくれ。そう言われたのだ……とニコルは口にする。 「ラクスさまに同行して頂く方がキラさんに不安を与えないのではないかと思いまして」 彼女の側にはレイもいるから、と彼は続けた。 「そうですわね。レイ君がいますわね」 だから、ニコルが会いに行っても違和感はないのか。ラクスはそう判断をする。 「では、参りましょう」 少しでも早いほうがいいのではないか。そう判断をしてラクスは腰を上げる。 「お手数をおかけします」 そんな彼女に向かって、ニコルは頭を下げた。 「気になさらないでください。大切なお友達のためですから」 このくらいは何と言うことはない。この言葉とともにラクスは彼に微笑んでみせた。 |