目の前でミゲルがいらついているのがわかる。
「ミゲル……」
 その理由も想像が付くが、できればあまりそれには触れて欲しくない。そう思うのは自分勝手な考えなのだろうか。ディアッカはそう悩む。
「大丈夫だ。俺様を信じろ!」
 鬱陶しいのが嫌なだけだ、と彼は笑う。
「だから、それが怖いんだって……」
 ここで下手につついて、あいつの感情の矛先があちらに向けられたら困るんだ……とディアッカはため息を吐く。
「イザークのお姫様になんかあってみろ? 即座にオーブとの関係が悪化するぞ」
 それ以前に、ラクスやアイシャと言った女性陣にこてんぱにされるだろう。ついでに、ラウが無条件で危険地域に飛ばしてくれるだろう、とも考える。
「そうなんだけどなぁ。鬱陶しいんだよ、あいつは!」
 見ていて、ものすごくいらつく! と口にしながら、ミゲルは手近な壁に八つ当たりをしていた。
「鬱陶しいというか、いらつくのはイザークも同じだがな。あいつはきちんと仕事をこなしているし……気持ちもわかるからな」
 すぐ側に相思相愛の最愛の少女がいるのに、任務に追われてなかなか顔を見に行くこともできない。バナディーヤにいたときは護衛の名目でべったりだった相手から引き離されれば、多少いらつくだろう。
 しかし、それを周囲にぶつけないだけ妥協範囲だ……と彼は続ける。
「でも、あいつは……な」
 与えられた仕事にミスは多いし、いきなり落ちこむし……見ていて怒りすらわいてくるんだ! とまた壁に蹴りを入れた。
「こうなったら、どん底までまで突き落としてやりたくなるんだよ!」
 その方がアスランにしてもすっきりするのではないか。
 少しだけ、その意見には同意だ。
 でも、と思う。
「それで逆ギレされて、また、キラを連れて逃げ出されたらどうするんだよ」
 これ以上、アスランに彼女を傷つけさせたくない。
 そう思うのは、彼女に対して身内に抱くのと同じ気持ちを抱きつつあるからだろうか。持ったことはないが、妹というのは彼女のような存在かもしれない。
 恋愛感情ではないが大切にしたい相手、というのが一番近い表現だろう。
 同じように、イザークにも幸せになって欲しい。そうすれば、自分に対するとばっちりが減るに決まっているというある意味切実な理由からだったりするのだが、とこっそりと付け加える。
「……それに関しては、お前らが何とかしろ」
 そんな無責任なセリフを言うな、とつっこみたい。
「取りあえず、俺は今のあいつがしゃくに障るんだよ!」
 見ていていらつくんだ! とそう怒鳴る。
「このままだと、俺が本気で爆発するぞ」
 どちらがましだと思う? と言われても、
「キラが無事なこと、だな。でないと、隊長とカナードさんが爆発する」
 そっちの方が問題だろうと言い返すしかできない。
「その問題があったか」
 確かに、それはものすごく怖い。
 でもアスランを放置しておくのも、自分的に我慢がならないのだ。
 ミゲルはこう言って頭を抱える。
「なら、放っておけばいいだろうが」
 見なければいいだろう、と妥協案を口にする。
「……アスランのことも含めて、お前らが何かした場合、苦情は全部俺に来るんだよ!」
 無視できるものなら無視したい! と言われてはもう何も言い返せない。
 それ以前に、ミゲルは自分が何を口にしてもやる気なのだろう。
「はいはい。勝手にしてくれ」
 こうなったら、キラのフォローをできる人員を側に配置する方が確実ではないだろうか。
 そう判断をすると、ディアッカは行動を起こすために彼の側を離れる。
「と言うことで、俺は遊んでくるな」
 あれで、と付け加えられた言葉がものすごく怖い。
「……ニコルかな」
 取りあえず、あちらのフォロー役は……とディアッカはそう呟く。自分でやってもいいが、その場合、根回しをする人間がいなくなる。
 だからといって、イザークにさせるわけにはいかないだろう。
 そんなことをすれば、どれだけ恐ろしい事態が待っているか。想像するのもいやだ、とそう思う。
「取りあえず、イザークをキラの側に行かせる理由を考えるのが楽かな」
 彼女に不埒なことをしようと考えている人間がいるという理由がいいのだろうか。そのあたりはアイシャに協力を求めればすぐに考えてくれそうな気がする。
 でも、イザークには気付かれない方がいいんだろうな。
 となると、口止めもきちんとしておかないといけないのではないだろうか。
「まぁ、二人のためならばそのくらいどうって事ないよな」
 二人が幸せになったところでしっかりとイザークをからかわせて貰おう。そのくらいは友人の役得だろうしな……と思い直す。
「アスラン!」
 お前なぁ、と怒鳴りつけているミゲルの声が耳に届く。
「……あんまり、のんびりとしていられねぇな」
 このままではどちらが先に逆ギレするかわからない。
「まずは、ニコルを捕まえるか」
 こう呟くと、ディアッカは足を速めた。