一通り店を覗き終わったところで、二人は喫茶店へと足を向ける。どうやらここは、食堂ではなくゆっくりと過ごしたいときに使われる場所らしい。座席ごとにさりげなくしきりが付けられていた。
 ここでならば気にかかっていたことを問いかけても怒られないだろうか。
 ラクスであればきっと答えを知っているはずだし……とは思う。
 でも、教えてくれるだろうか。
 その不安はある。
「キラさま?」
 どうかなさいましたか? とラクスが問いかけてきた。
「買い逃したものでもありました?」
 でしたら、また戻りましょうか……と言われて、キラは首を横に振ってみせる。
「気にかかることがあるんだけど……聞いてもいいのかどうかわからないから……」
 きっと、カナード達に聞けば怒られるだろうし……とキラは付け加えた。
「……アスラン、のことですわね」
 それだけでラクスには自分が何を悩んでいるのかわかったようだ。いや、わからない方がおかしいと言うべきなのか、とキラは首をかしげる。
「うん……前は、いやでもどうしているかがわかったんだけど、ここは広いから……」
 誰かが教えてくれないとわからない……とキラはそっと付け加える。しかし、教えてくれる人はいないから、ともため息を吐いた。
「みんなの気持ちもわかるけど……でも、元気でいるのかどうかだけでも知りたいんだ」
 最後の記憶にあるアスランの姿が安和だから、と付け加えれば、ラクスは「しかたがない」というような表情を作る。
「確かに、何もお教えしていないからキラさまも気になるのですわね」
 知っていれば、ある程度納得できるだろうに……とラクスも頷く。
「わたくしの判断でお話ししますわ」
 だから、他のものに怒られるときには付き合って欲しい、と彼女は苦笑と共に付け加える。
「うん……それは構わないけど」
 自分のワガママが原因だから、とキラは素直に頷く。
「そういうところがみながキラさまを好きになる理由ですわね」
 ラクスの言葉にキラは意味がわからないというようにまた首をかしげる。
「だって、自分のことが原因なら、きちんと責任を取るのが当然でしょう?」
 みんな、そういっていたから、それが当然だろうと思っていたけど……とキラは口にした。
「でも、それを実行できる方は少ないですわ」
 今も、そのせいで話が進まないのだし……とラクスは少しだけ忌々しそうに眉根を寄せる。
「ラクス?」
「あぁ、アスランのことでしたわね」
 申し訳ありません、とラクスは話題をそらそうとするかのように彼の名前を口にした。
「取りあえず元気ですわ。もっとも、アイデンティティーの再構築で今までのような言動は取っていませんが」
 それでも、今しばらくはキラと接触をさせない方がいいだろう。みながそう判断している、と彼女は続けた。
「元気なら、いいや……」
 キラは小さな声で呟く。
 自分が彼を傷つけたことは自覚している。
 それでも、彼が元気でいてくれると言うだけで安心できるのはどうしてなのだろうか。
「それに、アスランに会いたいなんて思っていないよ」
 アスランの方が会いたがらないでしょう? とキラは口にする。
「……キラさま」
 その言葉に、ラクスが困ったように呼びかけてきた。
「だって、アスランの一番聞きたくない言葉を投げつけたって自覚はあるもの」
 それでも、自分の中では大切な友人だから、元気で欲しいだけ……とキラは微笑む。
「本当に、キラさまは……」
 可愛らしい! と口にしながらラクスはキラに抱きついてくる。
「フレイ様やカガリさんが、キラさまから目を離せない、とおっしゃった意味がよくわかりましたわ」
 確かに、迂闊に一人にすると誰かにつけ込まれるかもしれない。ラクスはそのままそんなセリフを口にした。
「そんなことは、ないよ」
 自分だってそこまでお人好しではないと思う。キラはそう反論をする。
「わかっていますわ、キラさま。でも、世の中にはものすごく性格の悪い方もいらっしゃいますのよ?」
 そういう人たちは、笑顔で他人を騙す。
 キラは優しいから、そういう人たちに騙されるのではないか。そう思うと心配でならないのだ。
 ラクスはそういってくる。
「そういう風に見える?」
「いえ」
 キラだって、そう簡単には騙されないだろう。
 それはわかっているが、それでも騙されたとキラが気付いたときにどれだけ悲しむか。それを考えればそんな状況にならないようにしてやりたいのだ。
 ラクスがそんなセリフを口にしたときである。
「ラクス! 何、うらやましいことをしているんだ!!」
 周囲にカガリの声が響く。
「そうよ! こっちがつまらないことに振り回されているときに、一人だけ和んでないでよ!」
 さらにフレイがこう言ってきた。
「あら。でしたら、お二人もお時間がおありでしたら参加されればよろしいでしょう?」
 ちょうどお茶の時間ですし……とさらに彼女は付け加える。
「そうさせて貰うわ」
「少しぐらいの息抜きは必要だよな」
 言葉とともに二人もまたその場に腰を下ろす。
「と言うわけでラクス。代わってくれ」
「次は私ね」
 気が付けば、しっかりと順番まで決まっているようだ。
「……僕の希望は?」
 キラは思わず、こう呟いてしまった。