「キラ。それにフレイ」
 部屋の中に入ってきたカガリが真面目な口調で呼びかけてくる。その彼女の背後にはカナードやラクスの姿もあった。
「急だが、明後日、移動をするぞ」
 この言葉にキラは目を丸くする。寝耳に水とまでは言わないが流石に急すぎないか。そう思ったのだ。
「と言っても、オーブに戻るのはもう少し後になる。ジブラルタル、だったか?」
「えぇ。バルトフェルド隊長もあちらに行かれるそうですし、わたくしもそろそろ本国に戻らなければなりませんから」
 ジブラルタルにはマスドライバーがあるから、と彼女は続ける。
「そう、なんだ」
 フレイの言葉ではないが、現実を目の当たりにすると、寂しさを感じてしまう。
「心配するな、キラ。私たちも一緒だ」
 当面のことだが……とカガリが笑みを浮かべた。
「まぁ、一度はオーブに戻らなければいけないなが」
 その後はきちんと手続きを踏んで貰おうか、とそのまま視線を移動させる。それに釣られるようにキラもまた視線を向けた。
「イザーク……」
 そこには憮然とした表情の彼がいる。
「ご要望なら、ジュール家所有のシャトルでカグヤに乗り付けてやるが?」
 母の趣味でものすごい装飾過剰になっているが……と彼は苦笑混じりに付け加えた。
「あぁ、あれか……確かに凄いよな」
 どうやら思い当たるものがあるらしい。ディアッカがあきれているのかなんなのかわからない口調で呟くと頷いてみせる。
「そんなに凄いの?」
 いったい、どのようなシャトルなのだろうか。その気持ちのままキラは問いかけた。
「外見は普通のシャトルだけどな……内装が凄いんだよ。なんて言うのか……ホテルのスイート・ルームって感じ?」
 もちろん普通の座席もあるが、とディアッカは教えてくれる。
「何、それ……」
 流石に想像の範疇を超えていたからだろうか。フレイが複雑な表情で呟いた。
「睡眠不足は美容と健康の大敵なんだと。少しでも居心地がいい環境を追及していったらそういうことになったらしいぜ」
 ほとんどエザリア専用になっているが、キラのためなら貸してくれるのではないか、とそうも彼は付け加える。
「エザリア様のことですから、シャトルそのものの性能もよろしいはずですわ」
 彼女がこだわったというのであるのであれば確実ではないか。ラクスもまた口を挟んでくる。
「母上は、そちらが専門だからな」
 だから、かなり手を入れていたようだ……とイザークもそれに関しては否定しない。
「取りあえず、それでなかったとしても正式に迎えに行く。だから、安心して待っていろ」
 こう言って微笑んでくれる彼に、キラもまた素直に頷き返す。
「大丈夫よ。変な虫は近づけないから」
 友人達もみんなそうだから、とフレイは笑う。それも何だかな、とキラが考えていれば、カガリが追い打ちをかけるようにさらに言葉を重ねる。
「もちろんだ。ちゃんと叩きつぶしてやる」
 もっとも、自分が手を出す前にカナードがそうするだろうが……と彼女は笑った。
「それって、無敵じゃねぇ?」
 感心したようにディアッカが口笛を吹く。
「ところがそうでもないんだよ。バカにはそれが通用しなくてな」
 なまじ、それなりの家柄だから余計に厄介なのだ。カガリがため息とともに付け加える。
「アスランみたいなバカが他にもいたのか?」
 感心したように言われても嬉しくないと、キラも思う。
「アスランのバカとはまた違うがな」
 というよりも、アスランのように頭がいいからこそ厄介な状況に陥るのと違う……とカガリが付け加えた。
「あいつは、カナードさん達に自分が疎まれていることすら認識できないくらい、バカ、なんだよ」
 しかも、大西洋連合よりの人間だから厄介なのだ……とため息を吐く。
「今回のことがあるからな。自分たちの立場を回復しようとして、キラを手に入れようとしている可能性はある」
 もっとも、アスハとしてはそれを受け入れるつもりはない。
 キラが幸せになれる選択肢を自分たちは取りたいと思っている。
 カガリはそういって言葉を締めくくった。
「そうよね。キラは幸せにならないといけないわね」
 今までの分を取り返すためにも、とフレイも頷く。
「当たり前だ。俺がちゃんと幸せにする」
 だが、オーブ国内のことは手出しができないな……とイザークがどこか悔しげに呟いた。
「だから、心配するな。私たちがきちんとキラを守ってみせるって」
 婚礼道具だのなんだのも用意しないといけないしな、と今までとは打って変わった口調でカガリが言葉を口にする。
「言っておくが、キラのウエディングドレスは、オーブで用意するからな?」
 オーブの慣習ではそうなっている、と彼女はさらに言葉を重ねた。
「母上があれこれ画策していると思うが?」
 第一、キラに似合えば誰が用意しようと構わないだろう。イザークは言い返す。
「いや、これだけは譲れない!」
「でも、エザリア様だからなぁ」
「そうですわね。事前にきちんと話し合われた方がよろしいですわ。ウエディングドレスをアスハで用意するのであれば、お色直しのドレスはジュール家の方で用意すると言ったように」
 ラクスがさりげなく妥協案を口にしてくれる。そのあたりで収まってくれるといいな、とキラはこっそりと呟いてしまう。
 だが、カガリの様子を見ればむずかしいかもしれない。
 後でカナードに相談しないといけないだろうか。そんなことも考えていた。