「んっ……」
 小さな声と共にキラは寝返りを打つ。そのまま、キラの腕がイザークの腰にからんできた。
「……キラ……」
 嬉しいが困る、とイザークはため息を吐く。
「俺だって、男なんだぞ?」
 信頼してくれているのは嬉しいが、男としては辛い状況だぞ、とそうも呟いてしまう。
「まったく……これがディアッカなら据え膳を食っているところだろうが」
 キラの同意もなしにそんなことはしたくない。
 だから、と心の中で呟きながら深く息を吐き出した。
「同意を得ない場合、母上やカナードさん達にどんな目を合わされるかわかったものじゃないからな」
 それでも、キラさえ味方に付いてくれれば大丈夫だろうが、この状況ではどうなるかわからない。
 第一、今はそのような状況ではないだろう。
「こうなると、二人きりになったのは失敗だったか?」
 フレイがいれば気分転換もできたものを……と心の中で呟く。だが、状況確認もまた必要なことではあった。
 そう考えれば、しかたがないことだ……とはわかっている。
 キラを起こさないためには自分が動くわけにはいかなかったのだ。
 それがわかっていても、この状況は……と考えてしまうあたり、自分はまだまだなのだろうか。そんなことも考えてしまう。
「隊長であれば、平然としていらっしゃるんだろうが……」
 イザークの脳裏から二人が兄妹だという事実が完全に消えている。そのことに、気付かないほど、イザークは動揺していたといった方がいいのだろうか。
 その間にも、キラは寝心地のいい場所を探すかのように何度も身じろぐ。
「……キラ……」
 頼むから……とイザークは困惑した表情で呟く。
 それでも、キラを起こしたくないのは全てがまだ終わっていないからだ。同じ心を痛めるなら、せめて一度ですませてやりたい。
 しかし、このの状況は……と一番最初の問題に戻ってしまう。
「早く、フレイが戻ってきてくれればいいのだが……」
 結局はそういう結論しか出てこない。他力本願と言われようと、それは一番丸く収まる方法なのだから、と心の中で付け加える。
「だから、お前は安心して夢の中にいればいい」
 その夢が平穏なものであればなおいい。できれば、その中に自分もいればいいのだが。
 こんなことを考えながら、イザークは気分転換にそうっとキラの髪に手を伸ばす。そして、静かになで始めた。

「……取りあえず、営巣に放り込んでおけ」
 告げられた真実がショックだったのだろうか。一転して憔悴した様子のアスランの顔を見ながら、バルトフェルドはそう命じた。
「じっくりとこれからのことを考えさせればいい」
 もちろん、警戒はしっかりとさせてもらうが……と彼は続ける。
「それで構わないかね?」
 確認のために当事者であるカナード達に問いかけた。
「そいつが逃げ出さないんであれば、構いません」
「そうだな。キラに危険が及ばないなら、どうでもいい」
 個人的には、そこいらに放り出して一人でバナディーヤに帰ってこさせたいくらいだが……ときつい一言を口にしたのはカガリだ。どうやら、今までことではまだ納得できないらしい。
「大丈夫ですわ、カガリさん」
 にっこりと微笑みを浮かべながら、ラクスが彼女の肩に手を置いた。
「わたくしが格子越しにしっかりとアスランの非を説いて見せますもの」
 実は彼女もまだまだ納得していなかったのだろうか。ある意味、ものすごく怖いことを口にしてくれる。自分であれば、そのような状況――相手がラクスではないとしても、だ――は願い下げたい。しかも、相手の方が弁が立つのであれば、なおさらである。
「まぁ。女性に口で勝てる男は滅多にいないからな」
 ぼそっとこんなセリフを呟いてしまう。
「……なら、私も同席して構わないか?」
 カガリがぼそりと問いかけの言葉を口にする。
「そうして頂けると楽しいですわね」
 色々な意味で、とラクスはさらに笑みを深めた。
「カナード君?」
 どうするかね? とバルトフェルドは問いかける。
「しかたがありません。ダメだと言っても、あの二人は口にしたとおりのことをするでしょうし……俺が付き合いますよ」
 キラの方にはムウに行ってもらうことになるが、フレイがいるならばイザークの方も納得をしてくれるだろう。彼はそう結論づけたようだ。
「そうだねぇ」
 それが一番無難だろう。
「取りあえず、お嬢さん方に危険が及ばなければそれでいいわけだしね」
 アスランに関しては、多少手荒なことをしたとしても問題はないだろう。いっそのこと、拘束衣でも着せてやろうかと考える。
「キラ君に関しては、しばらく現状のままで構わないな?」
 イザークのことだから、二人きりになっても彼女に不埒なマネなしないだろう。
 まぁ、多少は気の毒な状況になっているかもしれないが。それが当を得ているとは本人も気付いていない。
「誰か、オーブの方々を迎えに行ってくるように」
 心配はいらないと思うが念のために、だ。バルトフェルドのこの一言でデッキ内は日常へと戻っていった。