「……いったい、どうしておじさんとおばさんが亡くなったと言うんだ!」
 アスランがこう叫んでいる。
「それを聞いて、どうするつもりだ?」
 キラをまた傷つけるつもりか! とカガリが怒鳴り返している。どうやら、事態はかなり厄介なことになっているのではないか、とカナードは顔をしかめた。
「……俺には、聞く権利があるはずだ!」
 彼女たちと共に過ごしたことがある人間には……とアスランは口にする。
 それはある意味、もっともな言葉なのかもしれない。だが、それを口にしているのが《アスラン・ザラ》である以上、どうしても警戒をしてしまう。それはきっと、彼がそのことからキラを傷つけるのではないか、と不安に感じているからだろう。
「レイ」
 自分が口を出すのはたやすい。
 だが、今までの状況を確認しなければ……そう思う気持ちもある。だからカナードは弟を呼んだ。
「はい」
 兄さん、と口にしながらレイが駆け寄ってくる。しかし、ムウとカナードに支えられているラウの姿を見て、彼は思いきり顔をしかめた。
「痛み止めが切れただけだと言っていたが……しばらくはベッドに縛り付けておいた方がいいだろうな」
 見張りは、やっぱり俺に役目なのかね……とムウがため息とともに口にする。
「そうしてもらえれば……ついでに、姉さんを側に置いておけば完璧だと思います」
 即座にレイが言い返してくる。
「その前に……いったい何があったんだ?」
 カガリだけならばともかく、ラクスが本気でアスランをにらみつけているが……とカナードは問いかける。
「姉さんに『大嫌い』と言われただけです。それで自爆をしてくれました」
 まぁ、キラにそんなことを言わせた時点で許せるはずがないが……とカナードは心の中で呟く。しかし、それ以上に彼女がそう言ったことの方が驚きだ。
「そうか、キラが……」
「精神が高揚していたからだ、と思うのですが……原因が何であるのかまでは……」
 俺のミスです、とレイは視線を落とす。
「気にしなくていい。その結果、よい方向に転んだようだからな」
 少なくても自分たちにとっては、とカナードは告げる。
「ともかく、レイはラウ兄さんの側に付いていてくれ。俺はアスランに引導を渡しておく」
 これ以上、キラの精神を逆撫でされては困るからな……と言外に告げれば、レイは素直に頷いて見せた。
「ブルーコスモスの方も何とかけりを付けられそうなんだし、ここで膿は出し切っておいた方がいいだろうな」
 ムウもこんなセリフを口にする。
「でないと、キラの婚約のことでまた文句を言ってきそうな奴がいるからな」
 もっとも、黒幕が失墜したのであれば、連中にしても少しは考えるのではないか。そう付け加える。
「そうだといいですね」
 本当に、とレイも同意の言葉を口にした。どうやら、話だけはカガリあたりから聞いているのだろう。
「ともかく、今、ストレッチャーを借りてきます。兄さん達はカガリさんのフォローをしてください」
 流石に彼女を止めておくのはむずかしい、とレイはため息とともに付け加える。それがどのような意味なのか、確認しなくてもわかってしまった。
「一人で大丈夫か?」
「医務室に行けば、医療クルーがいるはずですから」
 だから大丈夫だ、とレイは笑う。
「そうか。なら、任せる」
 その方が自分もありがたい、とカナードも笑い返した。
「キラがいない以上、俺も遠慮をする理由がないからな」
 あいつの心を傷つけようが何をしようが構うものか、とカナードは付け加える。
「ほどほどにしておけよ」
 少しもそう考えてはいないであろう表情を浮かべると、ムウはカナードの肩を叩いて来た。
「まぁ、ラウをレイに任せられるなら、俺がストッパーになればいいだけだろうしな」
 アクセルの間違いではないのか。
 カナードが心の中で呟いたその瞬間だ。
「いい加減にしろよ、お前!」
 カガリの声が周囲に響き渡る。しかも、先ほどよりも激昂しているような気がするのはカナードの錯覚ではないだろう。
「……何があったんだ?」
 アスランがまた墓穴を掘ったのか、と誰もが声がした方向に視線を向ける。
「……取りあえず落ちつきたまえ」
「そうですわ、カガリ。そんなバカのために貴方が犯罪者になる必要はございません」
 何やら不穏なセリフが聞こえているような気がするが、と眉間にしわを寄せた。
「カナード。こっちは俺たちに任せておいて、お前はカガリの側に行け」
 その方が良さそうだ、とムウがため息を吐く。
「そうしてください、兄さん」
 自分たちよりもカナードの方がカガリの性格をよく知っているだろうから、どうフォローをすればいいのかもわかっているのではないか、とレイも口にする。
「……と言うよりも、自分たちが安全圏に避難したいだけじゃないんですか?」
 ふっとこんなセリフを口にした。その瞬間、二人が取った行動がその答えだといっていいだろう。
「カガリも……少し雄々しくなりすぎたからな」
 自分の教育ミスに原因がある可能性がある以上、何も言えない。
 カナードは小さなため息とともにこうはき出した。