目の前でアスランが拘束をされている。しかし、それから抜け出そうと未だにもがいているのは、きっと、まだ諦めていないからだろう。 「カガリ、大丈夫?」 その視線の先には、当然のようにキラの姿があった。 「大丈夫だ、キラ」 最初から無傷ですむとは思っていない、とカガリが微笑みながら言い返す。だから、きちんと準備もしてきたしな……と口にいながら彼女は自分の服をめくり上げた。 「何をしている!」 女性が軽々しく人前で肌をさらすな! とイザークが慌てたように怒鳴る。 「ちゃんとアンダーは身につけている!」 しかも、これは薄いが衝撃を緩和する機能には優れている、とカガリは自慢げに笑った。 「おかげで、あのバカの攻撃でも打ち身ぐらいですんでいるはずだ」 それはキラを安心させようとしての一言だったのではないか。 だが、実際には逆効果だったらしい。 「カガリも女の子なのに……」 キラはこう呟いた。 確かにカガリの肉体はキラと同じで女性だが、その性格は本当に雄々しいとしか言いようがないのではないか。実際、自分の目から見ても漢らしいとしか言いようがない。そこいらの男に負けていないだろう、とも思う。 しかし、キラはそう認識していないらしい。 「それなのに、どうして殴ったりできるの?」 アスラン、と彼女は視線を向けた。その頬が怒りのせいかうっすらと赤く染まっている。 「キラ……」 だが、アスランの方はキラの怒りを認識していないようだ。どこか嬉しげな表情で彼女を見つめている。 「女性に手を挙げるなんて、最低だよ!」 普通なら避けられるんじゃないの? とアスランに言葉を投げつけた。 きっと、キラの脳裏にあるのはカナードの姿だろう。彼ならば、カガリの全ての行動を避けきることができているのだろうか。だとするならば、ラウもそうだろう。ムウは、ちょっとむずかしいかもしれないな、とそんなことも考えてしまう。 「カガリが、僕にとって大切な人だって、アスランも知っているんじゃなかったの?」 キラはさらに彼に向かってさらに問いかける。 「それとも、カガリがナチュラルだからどうでもいいと思ったの?」 アスランってそう言う人だったのか、と彼女はさらに言葉を重ねた。 「……そいつらが俺とキラのことを邪魔するから、だろうが!」 キラが自分の話を聞かないのは、彼らが邪魔をしているからではないか! とアスランは口にする。 「俺は、邪魔者を排除しただけだ!」 それの何がいけない! と彼はさらに付け加えた。 「邪魔者じゃない!」 自分にとって、彼らは誰よりも大切な存在だ……とキラは言い返す。アスランがみんなの言葉に耳を貸さないだけだろう、とも言う彼女の言葉が正しいとレイは頷く。 しかし、アスランはそうではなかったようだ。 「キラが大切にすればいいのは、俺だけだ!」 他の人間で妥協できるのは、せいぜいカナードぐらいだ、とアスランはさらに言葉を重ねる。 間違いなく、それが彼の本音なのだろう。 「僕が誰を大切にするかは僕が決めることでしょ!」 どうして、アスランの意見を聞かなければいけないの? とキラは言い返す。 「僕には、僕の意志があるんだよ?」 「キラは優しいから、どんな人間でも受け入れてしまうだろう?」 それがキラを利用するだけの人間だとしても、とアスランは口にする。その言葉だけならば、もっともらしいと言えるのだろうか。 でも、とレイは心の中だけで呟く。 アスランがしなくても、カナードがきっちりと選別を行っているに決まっているだろう。それに合格をしない人間はキラの側に近寄ることもできない。 第一、アスランの言葉はキラ自身の判断を最初から否定しているではないか。 「それも、僕が決めたことだ! アスランにどうこう言われる問題じゃない」 それで傷ついたとしても、慰めてくれる人たちがいる。それで十分だ、とキラは口にしながらカガリに抱きつく。 「あ、ずるい」 こう呟きながらフレイもまたキラに抱きついた。 普通にそんな行動に出られる女性が少しだけうらやましいと思ってしまうのは自分だけだろうか。そんなことを考えながら何気なく視線をイザークに向けると、彼も同じような表情を浮かべている。 いや、彼だけではなくラクスもそうかもしれない。 それ以上に、彼らはアスランに投げつけたい言葉があるのではないだろうか。 しかし、まだ、キラに任せているのだろう。 彼女の言葉でアスランが思い直してくれればいい。それでなかったとしても彼女の言いたいことを全部いわせてしまった方がいいと判断しているのだろう。 もっとも、それをアスランが聞き入れなかったときがどうなるか。それに関してはわからない。 まぁ、それはアスランの自業自得ではないか。 キラの言葉を聞きながらこっそりと心の中で呟いていたときだ。 「そいつらのせいで、キラがおかしくなったんだろうが! キラはいつだって、俺の言うことを聞いていればよかったんだ!!」 アスランが言ってはいけない一言を口にする。 「……僕は、アスランの人形じゃない!」 トリィならともかく、自分で判断できる意志があるのに、とキラは目尻に涙を浮かべながらアスランをにらみつけた。 「そんなに、アスランの言葉だけを聞く僕が欲しいなら、僕の姿をした人形でも作ればいいでしょう」 それはそれで問題があるような気がするのは錯覚だろうか。 「でも、僕は、そんなことを言うアスランなんて、大嫌い!」 キラがこう叫ぶ。 その瞬間、アスランの表情が凍り付いた。 |