自分の姿を見たら、キラは駆け寄ってきてくれると信じていた。
 それなのに、逆に彼女は表情を強ばらせたかと思うとイザークに助けを求めるかのように視線を向けてしまう。
 そんな彼女を当然のように慰めているイザークの姿が気に入らない。
 それは、自分の役目だったのに。
 キラだって、何かあれば自分を頼っていた。それなのに、今は自分から逃げ出そうとしている。
「そんなこと……」
 許せるはずがないだろう。アスランはこう呟く。
 しかし、今はキラの側に行くこともできない。それも気に入らない、と心の中で呟く。
 どうして、誰もが自分がキラの側に行くことを邪魔してくれるのか。
「許せるはずがないだろう!」
 キラは自分のものだったのに。
 彼女が女性であれば、なおさらだ。公的に自分だけのものにできる。
 それが、キラのためでもあるはずなのに。
「イザークよりも、俺の方がキラを幸せにできるんだ!」
 だから、とアスランは呟く。
「それを決めるのは君じゃない。キラ君の方だ」
 だが、アスランの呟きはバルトフェルドの耳に届いていたらしい。こう言い返される。
「……キラが騙されているかもしれないのに?」
 子供の頃の口約束なんてどこまで信用できるのか。それなのに、どうしてキラだけではなくカナードまで自分ではなくイザークを選ぶのか。
 きっとそれは、自分とキラがゆっくりと話をすることが許されないからだ。
 あの時だって、地球軍がちょっかいをかけてこなければきっとキラをマインドコントロールから解き放ってやれたに決まっている。
「そこまで行くと妄想だね」
 あきれたようにこう言われて、アスランの中で何かが壊れた。
「勝手に決めるな!」
 そう決めつけているのは彼らの方ではないか!
 だとするなら、彼らも自分の敵と等しい。
 そんな人間の言葉に耳を貸す義務はない。
 自分は自分の好きなようにさせてもらう、とアスランは心の中で呟く。その気持ちのまま彼は行動を開始した。
「何をする、アスラン・ザラ!」
「大人しくしろ!」
 アスランの腕を掴んでいた兵士達が慌てたように言葉を口にする。しかし、それを聞き入れる義理はない。そう判断をして、アスランは二人の腕をふりほどいた。
「アスラン・ザラ!」
 何をする! とバルトフェルドが怒鳴る。
「その馬鹿者の捕まえろ! イザーク・ジュール!! キラ君を安全な場所へ!」
 バルトフェルドの指示が周囲に響き渡る。それすらも、アスランには納得できない。
 自分がキラに何をするというのか。自分が彼女を傷つけるはずがないだろう。心の中でそう呟く。
 しかし、周囲はそう考えていないらしい。
 アスランとキラ達の間にまるでバリケードを作るかのように周囲の者達が割り込んできたのだ。
「邪魔をするな!」
 そんな彼らを蹴倒すと、アスランはキラだけを見つめる。
 それ以外に、彼は何も考えられなくなっていた。それが異常だと認識することも、既にできなくなっている。本来であれば、このような行動が許されないと言うこともわかっているのに、だ。
 キラに認められたい。
 それだけが、アスランの全てになっていたと言ってよかった。

「キラ!」
 ここにいては危険だ、とイザークはそう囁く。だから、言われたとおりに避難をしよう、とも。
「……ダメ、だよ」
 そんなことをすれば、きっと被害が大きくなる。キラはこう言い返してくる。
「キラ?」
 どうしてそういうことを言うのか、とイザークは聞き返す。
「きっと、僕がはっきりとしないから……」
 アスランは変な方向に暴走しているのではないか。キラはそう口にする。だから、彼の気持ちは受け入れられないときちんと話をした方がいいのではないか。彼女はそうも付け加えた。
 確かに、キラからきちんと引導を渡させるのがいいかもしれない。
「……だが、あいつは今、冷静にお前の言葉を聞き入れられると思うか?」
 今の様子では何を言っても聞き入れないような気がしてならないのだ。
「そうなんだけど……」
 しかし、このままでは……とキラが不安そうにイザークの肩越しに彼の姿を見つめる。
 そんなキラの態度に釣られるようにイザークもまたアスランの方へと視線を向けた。
 まさにその瞬間だ。
「いい加減にしないか! この思いこみ男!!」
 雄々しい雄叫びが周囲に響く。
「……カガリ?」
 それだけではない。目の前でアスランの頬に思い切り彼女のかかとがめり込んでいるのが確認できる。
「どうやら、間に合ったようですわね」
 いや、彼女だけではない。ラクスの声もすぐ側から聞こえてきた。
「アスランが戻ってきたと聞きましたので、万が一のことを考えてこちらに向かっていたのですが……まさか、ここまでバカだとは思いませんでしたわ」
 もっとも、と彼女は笑う。
「カガリさんにはよろしかったのかもしれませんわね」
 彼に対してかなり鬱憤がたまっていたようだ。それを全部ぶつけられているようですもの。そう言って笑う彼女にイザークは苦笑を返すしかない。
「……カガリ、ますます雄々しくなっている……」
 そんな彼に追い打ちをかけるかのようにキラがこう呟いていた。