他の者達と相前後するようにバルトフェルド達も帰還した。
「さて」
 イージスから降りてきたアスランをにらみつけながら、彼は周囲の者達に合図を送る。それだけで彼らは申し合わせたようにアスランを拘束した。
「今回は言い逃れできないとわかっているな?」
 この問いかけに、アスランは悔しそうな表情を作る。
「私は!」
「君がどのような考えて動いていようと関係はない。現在、一番重要なのは、君の行動で我々が危険にさらされた、と言うことだよ」
 おかげでクルーゼ隊長やカナード君まで前線に出なければいけなくなったではないか……とバルトフェルドは口にした。
「いや、それだけではないな。一番、戦闘に関わらせてはいけない存在に助けて貰うことになったか」
 本来ならば、守られなければいけない存在に、だ……と少しだけ顔をしかめながら付け加える。それだけで、誰が何をしたのかアスランにもわかったのではないだろうか。
「君がきちんとこちらの指示通りの行動を取ってくれていれば、そのようなことは起こらなかったはずなのだがね」
 キラがそのような行動に出たのは、側にラウがいなかったからだ。
 不安に駆られて、半ばパニックに陥りながらもあのような行動を取ったキラについては感謝のしようもない。だが、後できちんとしたケアをしなければいけないだろう。
「……私は、自分がしなければいけないと判断をしたことを行ったまでです」
 アスランはなおもこう言い返してくる。
「結果的にこちらの勝利だったのですから、それで構わないと思いますが?」
 この言葉に危険を感じないものはいない。
「君にとっては、同僚も自分のための駒なのかね?」
 自分さえよければ他の者達の命はどうなってもよかったというのか、とバルトフェルドは言い返す。
「そのようなことは言っておりませんが?」
「しかし、君の行動がみなを危険にさらしたことだけは事実だ」
 結果論ではなく、君の行動によって引き起こされた混乱の方が自分たちには重要だ……とバルトフェルドは言いきる。
「と言うわけで、また営巣に逆戻りをして貰おうか」
 今回のことは、本国にも報告しておく……と告げたところでバルトフェルドは視線をアスランを拘束している者達に向けた。
 それに頷くと、彼らは歩き出そうとする。
 しかし、その瞬間、反対側からイザークとキラの姿が近づいてくるのが見えた。
 確かに、医務室から食堂や談話室へと向かうのであれば、ここを通るしかない。だから、イザークの判断をとがめるわけにはいかない。たんにタイミングが悪かった、というだけだろう。
 これは早々にアスランを隔離しなければいけないな、と思ってバルトフェルドがそう指示を出そうとしたときだ。
「キラ!」
 アスランがそれよりも早く彼女の名を呼ぶ。
 その声に、キラが体を強ばらせたのがここからでもわかった。

 時間は少し遡る。
「どうする? 部屋に戻るか?」
 襟元を整えながら、イザークはキラに問いかけた。そうすれば、彼女は小さく首を横に振ってみせる。
「なら、食堂にでも行くか?」
 温かな飲み物でも飲めば、少しは気持ちも落ち着くかもしれないぞ……と微笑みかけた。キラは首をかしげた後、小さく頷いてくれる。
「キラ」
 言葉とともに手を差し出せば、素直に重ねてきた。その手を引いて、そうっと立ち上がらせる。
「もう少ししたら、ディアッカ達も帰ってくるだろうからな」
 デッキにいる誰かに、手が空いたらそちらに来てくれるように声をかけてもらえないか、頼んでおくか。そうすれば、彼らの無事も確認できて、キラも安心できるだろう。
「みんな、無事だよね……」
 予想通りと言うべきか。彼女は不安そうな口調で問いかけてくる。
「ディアッカ達はぴんぴんとしていたぞ。ムウさんも含めてな」
 ラウ達も負傷をしたという連絡は入っていなかった……とさりげなく付け加えておく。
「ここにいるよりは情報が早いかもしれないな」
 食堂の方が……とさらに言葉を重ねれば、彼女は小さく頷いてみせる。
「行こう」
 この言葉とともに促せば、キラも静かに歩き始めた。
 ここから食堂までの間にデッキがあるからキラを一人残しておかなくてもいいな。そう考えていたことも事実。キラのためと言いつつ、自分が少しでも彼女を手放したくなかったのだ。
 だが、その事実をすぐに後悔することになってしまった。
「キラ!」
 取りあえず顔見知りの整備クルーに声をかけようとしたその瞬間である。今一番聞きたくなかった声が周囲に響いた。
「……あいつ、戻ってきていたのか……」
 タイミングが悪い。そう思ったのは、腕の中のキラが彼の声を耳にした瞬間、体を強ばらせてしまったのだ。
「どうした、キラ」
 今まで、彼女がこのような反応をしたことはない。
 もっとも、それはあの男がキラを強引に連れ出すまでのことだ。
 あの時、キラの目の前でラウが大けがをしてしまった。そのことで、キラの心がどれだけ傷ついたかも覚えている。そのせいで、アスランに恐怖を感じるようになってしまったのではないか。イザークはそう推測をする。
 アスランに対しては自業自得だとそう思う。
 しかし、自分の非を認めずにキラを傷つけるような言動を取ったらただではすまない。
 だが、それよりも先にキラをここから連れ出す方が先ではないか。
「大丈夫、だ。俺がここにいるだろう?」
 何があっても、自分がキラを傷つけさせない。だから、安心しろ……と囁く。
「取りあえず、戻ろう」
 今はアスランに会わない方がいい。そういえば、キラはどうするべきかというような表情を浮かべた。
「カナードさん達が戻ってから、ゆっくり時間を取ればいい。まだ事後処理が終わってないからな」
 こう付け加えれば、取りあえず納得をしたようだ。
 だから、そのまま戻ろうとする。
 しかし、それを実行に移すことはできなかった。