侵入に気付かれないようにゆっくりと進んでいく。 やがて、目の前に広がってきたのはごく普通のプラントの光景だった。 眼下では多くの人々が何も知らぬまま、普段通りの生活を送っているのだろう。あるいは、その中に《キラ》もいるのかもしれない。 「何を馬鹿なことを考えているんだ、俺は」 キラがここにいる可能性は確かにある。だからといって……とは思うものの、どうしてもその可能性を捨てきれない。 それはどうしてなのか。 考えてもわからないのであれば、これは封印すべき考えなのだろう。 「……ヘリオポリスそのものに危害を加えなければいいだけのことだ」 そうすれば、もしここにキラがいても大丈夫なはずだ。むしろ、ここから地球軍を排除した方が、彼女にとっては安全だろう。 「母上が、キラの居場所を教えてくださればいいのに……」 間違いなく、彼女はキラの居場所を知っているはず。だからこそ、自分に来る縁談を全て断っているのではないか。そんなことすら考えてしまう。 ならば、この戦争が終わればきっと母はキラに会わせてくれるだろう。だから、とイザークは視線をこれから自分たちが襲撃する場所へと向ける。 そこでは、何も知らないのであろう者達が普通に作業を行っていた。モルゲンレーテの工場である以上、その中には間違いなく同胞もいるはずだ。 あるいは、地球軍はそんな者達までも盾として使おうとしているのか。 そんなことを考えれば、次第に怒りがわき上がってくる。 「……時間だ……」 怒りが強くなれば、逆に感情は押し殺されてしまうものなのか。イザークは淡々とした口調でディアッカ達に声をかける。 「なら、さっさといただいて帰るか」 それが一番被害が小さいだろう、とディアッカも頷く。 「そう、ですね」 未だに割り切れていないのか――それとも、自分たちと同じチームに組み入れられたのが不本意なのか――ニコルが今ひとつ乗り気ではないような口調で頷いている。 「恐いなら、さっさと尻尾を巻いて逃げ帰るんだな」 ディアッカがあきれたようにこう言い返す。 「誰も恐いなんていっていません!」 即座にニコルが反論をしてきた。それはそれでいいのだが、とイザークは冷たい視線を彼等に向ける。 「お前達……敵に見つかるつもりか?」 この一言に、流石に自分たちが今置かれている状況を認識したらしい。彼等も口をつぐんだ。 「行くぞ」 この言葉に二人は表情を引き締める。それを確認してからイザークは行動を開始した。 しかし、これがある意味、全ての始まりだった。 振動がどこからか伝わってくる。 「……何?」 何があったのか、とキラに抱きついたままフレイが不安そうに呟く。 「わからない……」 いや、今までにこれによく似た経験をしたことがある。しかし、とキラは心の中で呟いた。あれと同じ状況であるはずがないのだ。 「……まさか、ザフトか地球軍の攻撃?」 カズイが声を震わせながらこう言ってくる。 「それこそあり得ないでしょう! ここはオーブ所有のプラントなのよ!」 オーブは中立なのに! とフレイが叫ぶ。 「でも、それ以外に何があるっていうのさ。工場が爆発したわけじゃないだろうし……」 そんなことになっていれば、間違いなく避難勧告が出るはずだ、とカズイが言ってくる。 「……確認してきた方がいいかもしれないな」 サイが呟くように口にした。 「そうだな。避難するにしても、何が起こっているのかわからないと動きようがないから……」 トールもまた頷き返す。 「二人とも、危ないわよ」 そのまま腰を浮かしかけた彼等に向かってミリアリアが慌てて声をかける。 「そうだよ。ここなら、取りあえず安全だし……でも、いっそ、シェルターに移動した方がいいかもしれないね」 何が起こっているのかはわからない。でも、万が一のことを考えればそれが一番ではないのか。キラはそう提案をする。 「キラ?」 いきなりなにを、と誰もが彼女へと視線を向けてきた。 「間違っていたら、それでもいいんだ。でも……この状況だから、ザフトや地球軍ではない《誰か》がここで何かをしているかもしれないし……」 ブルーコスモスのテロが起きている可能性だってあるから、とキラは小さな声で付け加えた。 「あぁ、その可能性があったか」 それならば、十分にあり得る……と誰もが頷く。 「確かに、移動した方がいいかもしれないわね」 ミリアリアの言葉が行動の合図になった。取りあえず、必要だと思えるものを手にする。そして、そのまま移動をしようとしたときだ。 いきなり、ラボのドアが乱暴に開かれる。 「誰ですか!」 乱入してきた者達に対し、とっさにサイが叫ぶ。トールとカズイが、取りあえず女性陣とサイの間に立った。 「キラ・ヤマトは誰だ?」 しかし、そんな彼等に向けてその中の一人がこう問いかけてくる。 「カトー教授が呼んでいる。付き合って貰おうか」 さらに重ねられた言葉に、キラだけではなく他の者達も思い切り不審そうな表情を作って見せた。 |