「いったい、何があったんだ?」
 目の前の光景が信じられない。その気持ちのままディアッカはこう呟く。
「わかりません……地球軍のOSに何かバグでも出たのでしょうか」
 しかしここまで一斉に動きが止まるとは考えられない……とニコルも首をひねっているようだ。
「ウィルスだろう」
 さらり、とイザークがこう言ってきた。
「イザーク、お前……」
 何を知っているのか。ディアッカは思わずそう問いかけてしまう。
「それよりも、気を抜くな!」
 自棄になった地球軍の連中が何をしでかすかわからないぞ、と彼は続けた。
「そうだな」
 確かに、それでレセップスまでたどり着かれる方が心配だ……とディアッカも納得をする。
 同時に、あのワガママ大王がよくもここまで成長をしたものだ、と本人にばれたら怒鳴られるだけではすまないセリフを心の中ではき出した。それも来れも、キラのおかげだろうか。
「……恋っていうのは、偉大だよな」
 ぼそっとそんなセリフをディアッカは呟く。
「何か言いましたか?」
 だから、どうしてそこでつっこんでくるんだ? 聞き流せよ、と年下の同僚に向かって心の中で毒づく。
「MSで生身の人間を攻撃するようなことにならなきゃいいなって、そう思っただけだ」
 それじゃ攻撃じゃなくただの虐殺だろう? とそうも付け加える。
「……そう、ですね」
 確かにそれでは攻撃ではなく虐殺ではないか……とニコルは呟く。
「問題なのは、血迷ったあの連中が何をしでかすかわからないと言うことだがな」
 もっとも、バカでなければそのような無謀な行動を取るとは思えないが……とイザークはため息混じりに告げた。
「問題は、連中がまっとうな思考を残しているかどうかだよ」
 自分たちですら今の状況をすぐには認識できていなかったのだ。地球軍にいたってはなおさらではないか。
 それでも、だ。
 連中がまだ行動を起こしていない今がチャンスだと言うことは否定できない事実だろう。
「と言うことで、バカをちゃっちゃと片づけますか」
 少なくとも連中が動けない程度にはしておこうか……とディアッカは口にする。
「残念だが、坊主達」
 その時、不意にムウの声が割り込んできた。
「一番厄介なののOSはどうやら地球軍の通常フォーマットじゃなかったみたいだぞ」
 キラのウィルスでも動きを止めることができなかったようだな、という一言で、この状況を作り出したのが誰なのか、わかってしまった。
「姫さん、大丈夫かな?」
 ふっとこんな呟きを漏らす。
 彼女が戦闘に関わると言うことにどれだけ恐怖を感じているのかは、今までのことで十分にわかっている。しかし、その彼女が自分たちのために手を出してきたのだ。かなり不安定になっているのではないか。
 もっとも、そんなキラの側にイザーク達が戻れば、きっと彼女は安心するだろう。
 そのためには、さっさとあれらを片づけなければいけない。
「ニコル。ミゲルが戻ったら、フラガさん達のフォローに回れ」
 あれらと直接対峙するのは自分たちが引き受ける。
 言葉とともに、ディアッカはスロットルを握りなおした。

「さて……こちらも動くか」
 ラウは言葉とともに自分の体調を確認する。痛み止めのおかげで動くことに支障はないが、反応は多少落ちている。
「兄さん、大丈夫ですか?」
 その懸念はカナードにも伝わっているのだろう。確認の言葉が飛んでくる。
「取りあえずは、ね」
 もっとも、先陣は君に切ってもらわなければいけないが……と付け加えたことで、自分の正確な状況が彼には伝わったのではないだろうか。
「わかりました。兄さんには一番おいしいところを残しておきますよ」
 苦笑と共にカナードはこう言い返してくる。
「ですから、キラを泣かせるようなことだけはしないでくださいよ」
「わかっているよ」
 それは一番優先すべき条件だからね、とラウも言い返す。
「それでも、小うるさい雑魚がいないだけましだろうね」
 その分、目の前の厄介な相手に集中できる。それだけでも、今の自分にはありがたい、と心の中だけで呟く。
「では、いいですね?」
「タイミングは任せる」
 ラウの言葉に、カナードはためらうことなく機体を進めた。
 彼の実力は宇宙で十分に見せて貰っている。だから安心していいだろうとはわかっていた。
 それでも、できれば彼の手を汚させたくなかった……とこの状況でもまた考えてしまうのは自分の勝手な思いのだろうか。
 キラを守ると言うことは、どのような状況に直面するかわからないと言うことでもあろう。それがわかっていて、自分は彼にキラを任せたのだ。
「感傷だな」
 自嘲の笑みをラウは口元に刻む。
 そのまま彼も機体を前進させた。