ひょっとして、自分の判断は間違っていたのだろうか。
 いや、そんなことはない……とアスランは心の中で呟く。だからこそ、さらに攻撃が激しくなってきているに決まっている。
「この先に、こいつらの指揮官がいるに決まっている!」
 頭さえ叩けば、指揮系統が失われ連中に隙ができるはず。そうなれば、後は一息に叩きつぶせばいい。
 アスランはそう口にする。
 しかし、それはむずかしい状況だと言うこともわかっていた。
「それでも……やらなければいけないんだ……」
 でなければ、自分がイザークよりも優れていると証明できない。
 証明できないからこそ、カナード達は自分をキラの側に近づけないのだ。それどころか、イザークとキラを婚約させようとまでしている。
「そんなこと、許せるはずがないだろう!」
 キラは自分の側にいればいい。
 自分よりも先にイザークと出会っていたからなんだというのか。
 キラにふさわしいのは自分だろう。
「キラは、俺の側にいるべきなんだ!」
 自分だけを見ていろとはいわない。でも、自分を一番に考えなければいけないのだ。
 アスランはそう考えながら、引き金を引く。
 年長者が聞けば子供の考え方だと鼻で笑われるだろう。しかし、アスランにはそれが当然のことと思えるのだ。
「だから!」
 そのためならば、ナチュラルの命なんてどれだけ散らしても構わない。
 自分がそう考えているとキラが知ればどれだけ悲しむか。アスランはそれすらも気付いていなかった。

 ダコスタからの緊急通信の内容に、バルトフェルドは苦い笑みを口元に刻む。
「あぁ、構わないよ。本人の好きにさせたまえ」
 どこかの坊主に比べれば可愛いものだ、とそう付け加える。
「ただ、後できちんとケアできる体制を整えておいた方がいいだろうな」
 もっとも、専門のカウンセラーはバナディーヤにはいない。だから、ジブラルタルに要請しなければいけないだろう。
「わかりました。それに関してはこちらで」
 バルトフェルドに任せてもどのみち、実際に動くのは自分なんだから……とダコスタは言葉を返してくる。
「ばれているわね、アンディ」
 アイシャが即座に言葉を投げつけてきた。
「まぁ、な。どうせ、他のことでごたごたするだろうことはわかりきっている」
 半分はラウに押しつけてやろう、と彼はさりげなく付け加える。
「それでこそ、アンディよね」
 この言葉はほめているのだろうか。それとも、と悩みたくなるようなセリフをアイシャは口にしてくれた。しかし、それもいつものことだから気にはならない。
「話がそれだけならば切るぞ。あのオコサマが引っかき回してくれている現状では、どう陣形を立て直せばいいのか見極めるのがむずかしいからな」
 そして、ラウ達が本当の頭を叩きに行っているのであれば、そちらともタイミングを合わせなければいけないだろう。
「……本当、みんな好き勝手に動いてくれて……」
 なんでこんなに厄介な状況になっているのだろうか、と彼は思わずぼやきの言葉を口にする。
「人のことは言えないでしょ、アンディ」
 そんな彼に向かってアイシャが小さな笑いと共に言葉を返してきた。
「ダコスタ君にどれだけ迷惑をかけてきたと思っているの?」
 そういわれて、彼も苦笑を浮かべるしかできない。
「因果応報というわけだ」
 なら、妥協するしかないだろうね……と彼はため息を吐く。
「今回のことで、あるいはこの戦争が終わるかもしれないしね」
 多少の問題は無理矢理にでも乗り越えるしかないだろう。この言葉とともにバルトフェルドは表情を引き締める。
「ダコスタ君。あちらからの連絡があったらすぐにこちらにも合図をくれたまえ」
 それによって行動を開始しよう。それまで、イザーク達が持ちこたえてくれればいいのだが……と心の中でそう呟いた。

 キラの行動に関しては、ラウの耳にもしっかりと届いていた。
「本当にあの子は……」
 どうして、そのような行動を取ったのか……と彼は呟く。
「……兄さん」
 カナードが困惑混じりの口調で彼に呼びかけてくる。
「どうかしたのかな?」
 珍しいことが続くものだ、と思いながらもラウは言葉を返した。
「レイを疑いたくはないのですが……その薬、副作用はないのですよね?」
 この問いかけにラウは記憶を振り返る。
「ごく普通の薬だったと思うが?」
 どうかしたのか? と逆に聞き返す。
「普段のキラであれば、絶対にこのような行動は取りません。ただ、以前、市販薬を飲ませたときに軽い酩酊状態になって似たようなことをしでかしてくれましたので……」
 だから、今回もそうではないのか……と彼は続けた。
「ふむ……どの成分があの子にそのような作用をもたらしたのかわからない以上、何とも言えないね」
 後で確認するしかないか、と心の中だけで付け加える。
「それよりも、一番の癌を取り除くことを優先しよう」
 アズラエルを捕らえることができれば、彼の背後にいる者達もあぶり出せるのではないか。そうできれば、少なくともキラに関してのあれこれは解消できるかもしれない。
 彼女が平温に暮らせる世界を作り出すこと。それが自分たちにとって一番重要なことだ。
 あの人が、自分たちにしてくれたことを考えれば、まだまだ足りないのかもしれないが。しかし、あの優しい少女は自分たちも幸せにならなければいやだというのだろう。
 だからこそ、今度の作戦は成功させなければいけない。
「さて……目標の位置は確認できたかな?」
 即座に意識を切り替えると周囲の者達にこう問いかける。
「補足してある。どうやら、護衛のMSもいるようだが」
 キサカが即座にこう言い返してきた。
「問題ない」
 では、レセップスに連絡を……と彼は続ける。

 その瞬間、一瞬だけだが世界が静寂に包まれた。