「……ミゲル! 今のうちにバッテリーの交換をしてこい!」
 一瞬だけとはいえ、地球軍の機影が消えた。もっとも、それが陽動だという可能性があると言うことは否定できない。
 しかし、今を逃せば次のチャンスが来るかどうかわからないのだ。
「そうは言うけどな!」
 だが、ミゲルにしても現状がどれだけ危険かはわかっているのだろう。何よりも、この場で指示を出すのは自分だという意識があるのかもしれない。
「動けなくなったら、それこそアウトだろうが!」
 自分たちならば、まだしばらく大丈夫だから! とイザークは口にする。
「そうですよ、ミゲル」
 ニコルもまた、そんなイザークの言葉を後押ししてくれた。
「そうそう。肝心なときに動けなくなったら意味がないだろう?」
 さらにディアッカまでこう言ってくる。
 そうされれば、いくらミゲルでも引き下がらないわけにはいかないようだ。
「お前ら……俺が戻る前にやられていたらただじゃすまないからな!」
 この一言を残して彼はレセップスに戻っていく。
 代わりにオーブのMSが二機、前に出てきた。
「……おいおい、大丈夫なのか?」
 あきれたようにディアッカがこう呟く。
「取りあえず、こっちに来る機体をたたき落とすぐらいは何とかな」
 それに言葉を返してきたのはムウだ。
「もっとも、お前さん達の邪魔になるって言うなら下がるが……今は無理だと思うぞ」
 この言葉は、また地球軍の機影が周囲を覆い始めたからだろう。
「……あなた方をフォローする余裕はありませんからね?」
 ここで彼らを後退させる方が危ない。それはムウもわかっているはずだ。いや、わかっているからこそ彼は今のタイミングで出てきたのかもしれない。
「わかってるって。何とかなるだろう」
 まぁ、機体の損傷は諦めてもらうとしてだ……と彼は苦笑と共に言葉を返してくる。
「キラを悲しませるわけにはいかないからな」
 何が何でも生き残ってみせるさ。そう言って笑う彼ならば大丈夫だろうか。そう思いたいイザークだった。

 いったい、いつ、キラの意識が戻ったのだろうか。
「姉さん……」
 一心不乱にキーボードを叩いている彼女に呼びかけても返事は戻ってこない。仕方がなく側にいたフレイへと視線を移した。
「ごめん……止めきれなかった……」
 その瞬間、彼女はこう言ってくる。
「あんただけじゃなく、ラウさんもいなくて……キラが意固地になっちゃったのよね」
 不安だから、と言って……と彼女はため息を吐いてみせた。どうやら本気で困っていたようだ。
「ラウさんがいてくれたら、きっと止めてくれたんだろうけど」
「しかたがないですよ。フレイさんがここにいてくれたからこそ、この程度ですんでいると思いますよ」
 でなければ、外に飛び出していたかもしれない。そちらの方が問題だろう、とレイは彼女に声をかける。
「本当は、今すぐ止めるべきなのでしょうが……」
 あれだけ集中しているとなれば止めてもいいものかどうか。離れていくらしていたせいか、それに関しての判断ができない。
「カナード兄さんであれば、きっとその判断もできるのでしょうけど、ね」
 どこまで強引に手を出していのかを、とレイはため息を吐く。
「今は止めると厄介だと思うわ」
 それに対して、フレイがこう言い返してくる。
「フレイさん?」
「キラのストレスよりも……いじっているデーターの方が問題なのよ」
 現在こちらに向かっている地球軍の指揮系統に潜り込もうとしているようだから……と彼女はため息とともにはき出した。
「……本当ですか?」
「嘘だったら、よかったんだけどね」
 本当なのよ、とフレイは付け加える。
「むずかしければ諦めたんだろうけど、予想外にすんなりと入れたものだから、ね」
 その事実に、レイの頬が引きつった。
 彼女があの事実を知ったらどんな反応をするか。それは恐い。
「……見つけた!」
 その時だ。不意にキラが弾んだ声でこう呟く。
「……地球軍の機体にウイルスを流したら、怒られるかな?」
 モニターから顔を上げることなく、彼女はさらに言葉を重ねてきた。
「キラ?」
 フレイが思わず聞き返している。その気持ちはよくわかる、とレイですら思う。
「だって……みんなが危険な目に遭っているのは戦闘が続いているからでしょ? だったら、相手を動けなくしちゃえばいいかなって」
 どこか、いつもの彼女と違うような気がする。しかし、どこがと言われてもうまく言葉にできない。
「さっきの薬、副作用はないわよね?」
 どうやら、フレイも違和感を感じていたのか。
「妙にはしゃいでいるようなんだけど」
 普段のキラなら、絶対に言わないセリフだわ……と彼女は付け加える。
「俺も、よくわからないです」
 カナードならばわかるのだろうか。しかし、彼を呼び戻すにしても敵の動きを止めなければどうしようもない。
「……ブリッジに連絡をして、ダコスタさんの判断を仰ぎましょう……」
 そういうしかできないレイだった。