どうして、予想外の出来事というのは起きてしまうのだろうか。
「……フ、レイ?」
 僕、どうしたの? と問いかけてくるキラに何と言い返せばいいのだろう、とフレイは焦る。
 どうして、今この場にラウがいないのか。せめて、レイがいてくれればうまくごまかしてくれたかもしれないのに。
 それもこれも、全てあの男が悪い! とフレイは心の中で毒づく。
 しかし、それを表情に表すことはできないだろう。
「何、キラ」
 いつもの表情を作ると、フレイはこう問いかける。
「兄さん達、は?」
 不安そうな表情と共にキラは体を起こす。どうやら、完全に目が覚めてしまったらしい。
 きっと、キラの体を考えてレイは弱い薬を与えたのだろう。そして、その間に全てが終わると信じていたに決まっている。
 しかし、それを許さない状況になってしまっているのではないか。
 ラウが呼び出されたことから、それも推測できる。
「ちょっと出てくると言っていたわ。トイレかもしれないわね」
 そのまま誰かに拉致されるとまずいから、レイも付いていったのよ……とフレイは取りあえず口にした。
 これでキラが納得してくれればいい。
 でも、自分のことはともかくそれ以外のことに関しては思い切り聡い彼女のことだ。きっとごまかされてくれないんだろう、とわかっていた。
「……何かあったの?」
 そして、それは間違っていなかったようだ。こういう時の予想が当たっても嬉しくないと思う。
「兄さんが行かなきゃないような何かが起こったの?」
 普段のキラからは考えられないようなきつい声でさらに問いかけられる。
「……聞いてないけど……ひょっとしたら、あの子が何かやらかしたんじゃないの?」
 心の中で『ごめん』と呟きながらフレイはさらに言葉を重ねた。
「カガリがいるんでしょ、ブリッジに」
 彼女が何かをしたのであれば、止められる人間はラウだけではないか……と微笑む。
「そうかもしれないけど……」
 どうやら、この一言には頷かずにはいられないようだ。それでも、まだ何か納得できないという表情を作っている。
「大丈夫よ。本当に危ないのであれば、もっと大騒ぎになっているわよ」
 でしょう? という言葉にキラは小首をかしげてみせる。
 このまま納得してくれればいいのに。
 というよりも納得してくれ……とフレイは心の中で呟く。
「……ねぇ、フレイ」
 キラの口調がいつものものに戻ったように思える。取りあえず納得してくれたようだ、と胸をなで下ろす。
「何?」
 しかし、それは甘かったようだ。
「僕のパソコン、どこだっけ?」
 どうやら、この子は自分で確認をしようとしているらしい。
「ダメよ、キラ」
 今は戦闘中なんだから! とフレイは慌てて彼女の行動を止めようとする。
「フレイ?」
 そんなフレイに、キラは驚いたような表情を向けてきた。
「ここのシステムはアークエンジェルのそれより弱いんでしょう? ハッキングなんかしたら、落ちちゃうんじゃないの?」
 そんなことになったらどうするの? と取りあえず口にしてみる。
「そんなミス、しないもん」
 即座にキラは、こう言い返してきた。
「それとも、フレイは僕がそんなミスをすると思っているの?」
「そういうわけじゃないわよ。でも、戦闘中には何があるかわからないでしょう?」
 万が一、システムの一部が破損するようなことになるとか……と思いついたことを口にしてみる。
「フレイ」
 しかし、それが失敗だったらしい。キラが不審そうな眼差しを向けてきた。
「僕に何を隠しているの?」
 そして、こう問いかけてくる。今度は完全に納得してくれないだろう。
 でも、とフレイはキラを見つめ返す。
「あたしだって何も聞いてないわよ。ただ、ブリッジからラウさんを呼びに来ただけ」
 それがどうしてなのかは聞いていない。
 でも、彼が呼び出されたと言うことは厄介な状況なのではないか。だから、あまりあれこれしない方がいいと思うとも付け加える。
「あたしにも説明していかなかったってことは、キラに知られたくないないって思っているってことでしょ」
 だから調べないでおいた方がいいのではないか。フレイはそうも付け加える。
「でも……調べないと安心できないもん……」
 何が起こっているのか――そして、大切な人たちがどうなっているかを、と言う気持ちはわかる。
 でも、それでキラが傷つくようなことになったら自分が後悔をする。
 それがわかっているから、フレイはすぐに動くことができない。
「大丈夫だよ、フレイ。僕は」
 微笑みながら言われても、頷くことができない自分は過保護なのだろうか。思わず悩んでしまうフレイだった。