いくら叩いても敵の数が減ったような気がしないのはどうしてなのか。
「あいつら……恐怖心を持ってないのか?」
 それ以上に奇異に感じられるのは敵の動きだ。
 どれだけ優れたパイロットでも完全に恐怖心を消すことはむずかしい。それは人間である以上しかたがない。だからそれに飲み込まないように訓練をするのだ、とアカデミーの教官に言われた。
 そうできているからこそ、今、自分はそれなりの実力を手にしている。
 しかし、そんな自分たちの動きと地球軍のそれは違うのだ。
 問題は、何を違うのかと言われてもうまく説明できないことかもしれない。
「……まぁ、どうでもいいことか」
 必要なのは、この戦闘に勝つこと。
 そして、自分がイザークよりも優れていると周囲――特にキラとその周囲の者達――に認めさせることだ。
 そのためには地球軍の態度はありがたい。
「さっさと片を付けるだけだ」
 そうすれば、きっとキラと話をする時間もあるだろう。
 そのための障害についてはその時に考えればいい。
 ある意味、障害があるからこそ強くなる思いというのもあるのだ。
「それがわからないわけではないだろうに」
 言葉とともに引き金を引く。目の前で敵の機体が四散していった。
「このままでは埒が明かないな……」
 確かにこれが自分に与えられた役割だが……とアスランは周囲を見回す。それでは消耗戦が続くだけではないだろうか。
「……要するに、結果がよければいいのだろう?」
 この戦闘を自分たちの勝利で終わらせればいいのではないか。
 そのためには……と周囲を見回す。
「頭を抑えればいいか」
 モニターに敵の旗艦らしい機影が映る。それを見つけた瞬間、アスランはにやりと笑った。

 ここまで波状攻撃をされると、バッテリーの消費が気にかかる。
「問題は、補給のタイミングだな」
 戦力が限られている以上、適時バッテリーの交換を行わなければいけない。それでも、自分たちはまだ外部バッテリーがあるだけましなのではないか。
「問題は、ミゲルか」
 一番先にバッテリーの残量がなくなるとすれば、内臓電源しか持っていない彼ではないかとイザークは思う。
 それとも、現在の機体はその点を改良されているのか。
 どちらにしても、バッテリーの問題が解決されたわけではない。だから、交換をしなければいけないはずだ。
「しかし、これだけ物量作戦で来られると、タイミングを計るのもむずかしいな」
 自分たちではまだ、全体の戦局を見ることはでいない。だから、その判断をバルトフェルドに任せなければいけないのではないか。
 その事実が悔しくないと言えば嘘になる。
 しかし、どう逆立ちをしても経験だけはすぐに手に入るものではないのだ。だから、これからそれを手に入れていけばいい。今は、今の自分にできる最善を尽くせばいいのではないか。
「それでも……レセップスの護衛をオーブから来た人たちがしてくれているから楽といえば楽なのか」
 自分たちは攻撃にだけ集中できるから、とそんなことを考えていたときだ。
「あのバカ!」
 オープンにされている回線からミゲルの罵声が響いてくる。
「ミゲル?」
 何があったのか、と思わず問いかけた。しかし、そちらだけに意識を向けているわけにはいかない。今でも地球軍はその圧倒的な人材で攻撃を続けているのだ。一瞬でも気を抜けば、こちらがやられかねない。
「アスランが持ち場を離れた!」
 まったく何を考えているんだ、あいつは! とミゲルは怒りを隠せない口調で吐き捨てる。
「まったく……今、ここで持ちこたえることが作戦上必要だとあれほど念を押しておいたのに……」
 いったいどうして、と彼はさらに言葉を重ねた。
 イザークだって、それはわからない。自分は彼ではないのだ。
 ただ、推測できないわけではない。
「……自分の立場を強くするには、ここで手柄を立てるしかないとでも判断したのか?」
 その根底にはキラの存在があるのだろう。
「だからといって、独断専行が許される状況だと思っているのか!」
 バランスが崩れればどうなるのか。かつての彼はそれを推測できていたはずなのに、どうして今は違うのか。
「……ともかく、本隊への報告を……」
 バルトフェルド達の判断を仰がなければいけないだろう。
「わかっている。ニコル!」
 アスランの分の穴埋めを頼む! と後方にいた彼に向かってミゲルが声をかけている。
「……わかりました……」
 この状況では、彼もあれこれ考えている暇はないとわかっているのだろう。素直に頷いて見せている。
 問題なのは、手薄になった防御ラインを支えきれるかどうかだ。
「支えきらなければいけない!」
 少なくとも、バルトフェルド達が作戦を開始するまでは!
 イザークは唇を噛むとそのまま意識を敵へと戻した。