「……いいな? 敵のMSを破壊した結果、何を見ても動じるな」
 バルトフェルドの声が耳に届く。
 それがどうしてなのか、イザークも知っている。しかし、実際に目にしていない以上、あくまでも想像でしかない。
「大丈夫だな、ニコル」
 確認するようにミゲルが問いかけている。
「……わかっては、います……」
 少なくとも、レセップスは守る……と言うのはニコルなりの精一杯の割り切りなのではないだろうか。
「それで十分だ」
 少なくとも、アスランに任せるよりはいい。そう思ってイザークは口を開く。
 もちろん、アスランだってあてにならないわけではない。彼は彼なりにレセップスを守るだろう。そうしなければならない理由があるから、だ。
 しかし、その理由が理由だからこそ、自分は受け入れられない。
 逆に作戦に集中ができなくなる。
 それはアスランも同じ事だろう。
 自分がここにいてはきっと戦闘に集中できない。
 別に相手がどうなろうとも構わないが、そのせいで愛しい少女を含む守らなければいけない者達を危険にさらすわけにはいかないのだ。
 だから、妥協するしかない。
「……あいつもそう考えてくれていればいいのだが……」
 どうしても完全に信じることができないのだ。
「だが、ここにはイザークさんもムウさんもいるからな」
 まさか、足つきにカナードだけではなく彼も乗っていたとは思わなかった。だが、逆に彼も乗っていたからこそ、キラは壊れることがなかったのではないか、とも思う。
 実際、彼が来てからはかなりキラの表情が軟らかくなっていたのだ。
 その事実が悔しいと思わないわけではない。
 でも、アスランの存在と違ってあっさりと受け入れられるのは、きっと、彼らがどれだけキラを大切にしていたのか知っているからだろう。それに、そもそもの経験値が違いすぎる。
 だから、目標にしようとは思っても恨む気持ちにはなれない。
「……あの人達にあきれられないようにしなければいけないが……」
 そのためにも、今はアスランの存在は一時的に意識の外に放り出しておこう。
「……敵さんだぞ」
 そう考えたイザークの耳に落ち着いた声が届く。
「と言うことで、きちんと命じられたとおりの行動を取るように。勝手なことはするなよ?」
 でなければ、戦闘には勝っても肝心なものを奪われかねないからね……とバルトフェルドが指示を出してきた。
「わかっています」
 それは軍人として当然のことだ。そう思ってイザークは言葉を返す。他の者達もそうだと言っていい。
 ただ、アスランの声だけがイザークの耳には届かなかった。
「……作戦通り、俺たちは別行動を取る。合流するまで、誰一人、絶対に死ぬな」
 この言葉を残して、バルトフェルドが離れていく。
 彼の視線を失った今、アスランがどう出るか。それだけが不安要素かもしれない。
 だが、今は軍人としての《アスラン》を信じるしかないだろう。イザークは自分にそういい聞かせていた。

「……さて……」
 どれだけ自分が動けるか。それが問題だな、とムウは眉間にしわを寄せる。
 オーブでそれなりのシミュレーションをしてきたとはいえ、付け焼き刃だと言うことはわかっていた。
 それでも、まぁ、砲台代わりぐらいはできるだろう……と思う。
「しかし……キラには負担をかけたわけじゃないよな?」
 合流してから早急にされた作業は、システムの入れ替えだった。しかも、それを作ったのはキラだという。
 もちろん、キラ自身は戦闘用に作ったわけではない。
 いずれ、プラントの建設や何かでナチュラルがMSを使用する日が来るだろう。そのためには基本的な動きをサポートするシステムが必要なのではないか。彼女はそう考えただけだ。
 それを戦いに流用すると判断したのはカナードらしい。
 だが、その事実をキラが知っているのかどうか。それはわからない。
「確かに、オーブを出たときよりは動かし易くなったがな」
「だから、ちゃんと生き残ってくださいよ」
 そんな彼の耳にカナードの言葉が届く。
「キラも、貴方に死なれたくないから俺が手を出しても何も言わなかったんですから」
 もっとも、それを戦闘用に特化させたのは自分だが……とカナードの声音には苦笑が滲んでいる。
「わかっている。俺だって、キラの花嫁姿を見て、自分が嫁をもらうまでは生き残るつもりだ」
 相手にも約束してきたし……と即座に言い返す。
「第一、お前らがそう簡単に死なせてくれるとは思ってないからな」
 きっと、心臓が止まっていようと無理矢理引き戻されるに決まっている。レイがこの場にいる以上、絶対にそうするだろう……とムウは口にした。
「当たり前です」
 来ましたよ、とカナードが告げる。
「どうやら、こちらを取り囲んで一息に落とすつもりですね」
 もっとも、あちらも空を飛べる機体は少ないようだ。だから、地上戦がメインになる。そうすれば、バルトフェルドの方が有利だろうと言う彼の言葉にはムウも頷く。
「後はあの坊主が自爆しなければいいってことか」
 それが誰のことであるのか、言わなくてもわかるだろう。
「そこまでバカではないと思いますよ。ここには……キラとラクス・クラインがいますからね」
 どちらも、アスランが失うとまずい相手だ。だから、とカナードは言い返してくる。
「取りあえず、できるだけのフォローはしますが……無理はしないでくださいね?」
 奇跡を起こす男だなんて言わないように。
 この言葉を残して、カナードのハイペリオンも戦闘へと参加していく。
「……わかってるって」
 言葉とともに、ムウはビームライフルの照準を、弾幕をすり抜けてきたスカイグラスパーへとあわせた。