そのころ、ラクスはカガリと共にブリッジにいた。
 バルトフェルド達は二人にもキラ達と一緒にいるようにと言ったのだ。だが、それを彼女たちの方が断った。
 キラやフレイであれば守られてしかるべきだ、と思う。
 だが、自分たちは自分たちを守るために戦ってくれる者達の姿を見届ける義務がある。そう思ったのだ。
「……しかし、本気で怒っているな、カナード兄さんは」
 ぼそっとカガリが呟く。
「そうなのですか?」
 自分にはそれはわからない。だが、彼らに近しい存在であるカガリがそういうのであれば、そうなのだろう。
「あぁ。背後からあいつを撃つことはしないと思うが……」
 きっとやりたいのだろうなぁ、と彼女は付け加える。
「えっと、カガリ君?」
 それって、冗談じゃないよね……と頬を引きつらせたのはダコスタだ。バルトフェルドが前線に言ってしまったので、こちらの指揮は彼が執ることになっている。しかし、こう言うときには経験不足が出てくるのだろうか。
「そうすればキラが悲しむからな。あんなのでもまだきらいになれないらしい」
 見捨ててくれれば楽なのに、とカガリはため息を吐く。
「それがおできにならないからこそ、キラさまではありませんの?」
「そうなんだよな」
 だから、自分たちがしっかりしないといけなかったんだ……と彼女は言葉を返してくる。
「でも、キラの場合、わかっていても信じているからな」
 一度信じた相手だから、という理由で……というのはある意味、長所でもあるのではないだろうか。
「問題なのは、それに甘えている方ですわね」
 それが誰であるのか、個人名を口にしなくてもカガリにもわかったのだろう。
「まったく……あいつの方こそ友達はいないのか?」
 イザークですらディアッカがいてくれただろうに……と彼女吐き捨てる。
「ラクスにも友達はいるんだろう?」
「もちろんですわ。わたくし自身を好きで側にいて下る方がおります」
 その中にキラとフレイも含めてもいいだろう。カガリもそう呼んで構わないのか、と後で問いかけてみようと心の中で呟く。
「ですが……アスランからそのような方の話を聞いた記憶がございません」
 今思い出したが、とラクスは口にした。
「要するに、いなかったんだな……」
 キラ以外に、とカガリはため息を吐く。
「だから、あいつはキラに執着をしているのか」
 確かに、アスランのキラに対する感情は執着というのが一番しっくり来る。しかし、それを本人は好意だと認識しているから厄介なのではないだろうか。
 彼を満足させるには、彼以外が目に入らない場所にキラを閉じ込めるしかないだろう。それは今までの言動から十分に推測できた。
 しかし、それはキラを殺すことになりかねない。
 それでなくても、自分たちだってキラに側にいて欲しいのだ。
「……オーブとの関係の前にジュールとザラの関係が壊れそうですわね」
 そうなったら……とラクスは呟く。
 イザーク達の話から推測すれば、エザリア自身がキラを気に入っているらしい。そして、彼女を守るためならば何でもしそうだ。
 だが、アスランにしてもその程度でキラを諦めるはずがない。
 むしろ、意固地になるのではないか。
「もっとも、その時にはわたくしはイザーク様のほうに味方させて頂くことになるでしょうが……」
 父はどうするだろうか、とふと思う。
「必要なら、アスハもあちらこちらに働きかけるさ、その時は」
 キラのためなら、そのくらいの苦労はなんでもない。そう告げる彼女の言葉は、従姉妹に対してのものというには違うような気がする。しかし、それを聞いてはいけないのではないか。少なくとも、本人達が話してくれる気持ちになるまでは……とラクスは思う。
「それであれば、わたくしも楽ですわ」
「もっとも、その前にキラを利用しようとしているバカを叩きつぶさないといけないか」
 おそらく、現在こちらに向かっている連中がそうだろう。カガリは視線を外へと向ける。
「……本当に、キラさまはご両親の研究データーをお持ちではないのですか?」
 ふっとわき上がってきた疑問をラクスは口にしてしまった。
「キラ自身は持っていない……だが、それを取り出すためにはキラの存在が必要なのだ、とは聞いている」
 もっとも、どういう意味なのかまでは聞いていないが……と教えてくれたのは、きっとラクスに対する信頼感からだろう。
「そうなのですか」
 と言うことは、キラの実の両親は彼女の兄弟達を本当に大切にしていたのではないか。だからこそ、自分たちが死んだ後でも彼らがキラを守ってくれると信じていたのだろう。
 それが現実になっているという理由の一端は、間違いなくキラ自身の性格のためだ。
 だから、それを損なおうとしているものは誰であろうと徹底的に排除をする。
 逆に、キラを守ろうとしているものには彼らも手を差し伸べているではないか。
 その事実に気付けなければ、アスランはいつまで経ってもキラの場にいられる権利を手に入れられないだろう。
 だが、アスランはキラを独占することを諦めていない。
「あの人は、精神的に成長していないのですわね、結局」
 おそらく、キラに出逢ったそのころから……とラクスは思う。
 だが、本人はその事実に気付いていない。それがキラにとって――そして、アスランにも――不幸の原因ではないだろうか。
 それからキラを解放するには、やはりアスランを何とかしなければいけないと言うことだろう。そして、それは自分の役目ではないか。
 それがアスランの婚約者である自分の義務かもしれない。自分で決めたことではないが、キラのためには頑張るべきだろう。そう決意をしていた。