あんな状況でも、いつしか眠りの中に落ちていたらしい。
「……あれ?」
気が付いたときには目の前にレイがいる。その事実にキラは驚いてしまった。それとも、これも夢なのだろうか。そうも考えてしまう。
「どうした、キラ」
レイがこう問いかけてくる。
「……レイが、いるから……」
帰ってきて、嬉しいのかな……とキラは付け加えた。そのまま、彼の手に頬をすり寄せる。
「貴方は」
本当に……とレイがため息をついた。
「こういう時の方が素直、というのは困ったものだな」
それでも、と付け加えながらレイはゆっくりとキラの手を自分の口元へと引き寄せていく。そのまま、そっと、キラの手のひらへとキスをしてきた。
「……レイ?」
ここでようやくキラの意識は現実を認識し始める。
「本当に? 帰ってたの?」
手のひらから伝わってくるぬくもりがこれが現実だ、と伝えていた。それに気が付いた瞬間、キラはレイの手の中から自分のそれを取り返そうとする。
しかし、レイはしっかりとそれをとらえて放さない。
「レイ!」
放して、とキラは口にする。
「いやだ」
その言葉を、レイは一言で却下してくれた。
「……レイ……」
「今放せば、貴方はまた自分の感情をごまかす。そんなことを認められると思うか?」
いい加減、キラの本音が知りたいのだ、と彼は続ける。
「……本音って……」
「貴方が俺に対してどのような感情を持っているか、だ」
どうして、こうして自分の側にいたがるのか。それが知りたいのだ、と彼はまっすぐにキラの瞳を見つめてきた。その瞳からキラは視線をそらせない。それはどうしてなのだろうか、とも思う。
だが、その答えよりも彼の問いかけの方がキラには重要だった。
「レイをどう思っているか……なんて……」
聞かれても困る。キラは思わずこう呟いてしまう。
「どうして困るんだ?」
その言葉の意味を確認しようとするかのようにレイはさらにこう問いかけてくる。
「……考えても、わからないから……」
今まで考えても、答えが出なかったのだ。だから、今考えても答えが出るはずがない、とキラは口にする。
「何故、わからないんだ?」
自分のことだろう? とレイはさらに詰め寄ってきた。
それはどうしてなのか。
今まで、彼はここまで強引なことをしてこなかったのに……と思いながら、キラは彼を見つめ返す。そうすれば、その青い瞳に自分の姿が映し出されているのがわかった。
キラは『考えてもわからない』という。だが、それは単に自分の感情を『認めたくない』だけじゃないのか。
レイはそう考えていた。
キラは『失うことをおそれているのだ』と教えてくれたのはギルバートだ。そして、その原因を作ったのはラウであろう、とも。
だからこそ、それを癒すのは自分でありたい、と思うのだ。
それとも、とレイは心の中で呟く。
彼は《自分》を失うことを怖がっているのだろうか。だから、自分を『好きだ』という気持ちをキラは認めてくれないのか、とレイは考える。
それでも、自分は彼の気持ちが知りたいと思う。
でなければ、先に進めないのではない。
「……だって……」
「俺は、キラがどのような人間なのか、どうやって生まれてきたのかを知っている。それでも、キラがいいんだ」
自分の側にいて欲しい、とレイは付け加える。
「キラも、そう考えてくれていると思っていたのは……俺だけか?」
さらに問いかければ、キラの大きな瞳が困惑で揺れているのがわかった。その表情から、レイは自分の考えが当たっているのではないか、という確信を深める。
それならば、自分の手持ちのカードを全てさらしてみるべきなのではないか。
ある意味、一か八かのかけだといえるが、そうしなければ彼が手には入らないのであれば見栄なんて捨ててやれる、とレイは思う。
「……レイ……」
実際、キラの瞳にここまで感情が表れている様子を見るのは初めてなのではないか。そうも思うのだ。
「キラの言葉次第で……俺もこれからのことを考えないといけないだろう?」
言外に、キラが自分を拒むのであれば、もう二度とそばには近づかない、と含ませる。
「レイ?」
「俺の方はキラを嫌いになれないからな。だから、側に近づけば欲しくなる。だが、キラにとって見れば……それは辛いだけだろう?」
だから、と付け加えた瞬間だ。キラの手がレイの服を握りしめてきた。だが、その行動に、キラ自身が一番驚いているようだ。
「……僕……」
慌てて手を引こうとしている。その手をレイはそっと引き留めた。
「キラ。どうしたんだ?」
どうして逃げる、とレイは彼に問いかける。この問いかけの答えを探そうとするかのようにキラは視線を彷徨わせた。
「……こわい、から……」
やがて、この言葉だけを唇から絞り出す。
「何がこわいんだ?」
「……いつか、いなくなるかもしれない、から」
大切な人は皆、とキラは口にする。
「俺は……貴方を手放すつもりはない、と言いましたよね? それに……」
「それ、に?」
「最後の時もかならず貴方を連れて行くから」
だから、失うことを怖がるな……とレイはキラを抱きしめた。その腕の中でキラはどうしていいのかわからない、という表情を作っている。だが、レイのぬくもりが彼の中にあった最後の何かを壊す働きをしたらしい。
「……ずっと、側にいて……」
囁きのような声でキラはこう告げてきた。
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