レイのぬくもりは心地よい。
 それは間違えようのない事実としてキラの中に存在している。
「……好き、だから?」
 だから、レイの隣にいても自己嫌悪を感じなくてすむのだろうか。
 それとも、彼もある意味、自分と同じ存在だからなのか。
 もしそうならば、自分のこの感情はただの同族意識、ということになるのかもしれない。
「でも、ここは気持ちいいし」
 あちらにいた頃のように自分のことを心配してしょっちゅう覗きに来る人もいない。適度に放っておいてくれる人たちとは付き合うのが楽だ、と思う。
 もちろん、彼等の気持ちがいやだったのではない。ただ、放っておいて欲しい、と思うことがあっただけだ。
「……あそこはあそこで、いい場所だったんだろうけど……」
 帰りたいと思えないのは何故なのだろうか。
「僕には、まぶしすぎたのかな、あの日差しが」
 全てをあらわにしてしまうような日差しが、自分が隠したいことを全部さらけ出してしまいそうに思えたのだ。
 だが、ここの日差しは優しい。
 それは、人工的に作られた世界だからなのか。
「……わからない……」
 ただ、ここの空気が自分に合っている、ということだけは間違いようのない事実としてある、ということだけは真実だ。
 だから、と思いながら、脇に置かれてあったブランケットを引き寄せる。それをかぶるとキラはそのままころんと横になった。
「出ていけって言われるまでは、いてもいいのかな……」
 そんなことを呟きながら、キラは目を閉じる。
 だが、何故かいつもはすんなりと訪れてくれるはずの眠りが今日はやってこない。
 どうして……とキラは目を閉じたまま考える。いつもと何が違うのだろうか、とそう心の中で呟けば、答えはすぐに出てきた。
 いつもは側にいてくれるぬくもりが、今日はないのだ。
 こんなにいい日差しなのに、とキラは小さなため息をつく。
「……レイがいてくれると、もっといいのに……」
 そうすればきっとすぐに眠れるのに、とも呟いた。
 だが、いつからそうなったのだろうか。
 自分は一人でも大丈夫だったのに。それなのにどうして……と。
 いや、答えがないわけではない。
 しかし、それを認めてしまえば、きっと自分は以下のままではいられない……と言うこともわかっている。
 それがこわいのだ。
 その結果、自分の力を際限なく使う状況が来たら、世界をまた混乱に陥れてしまうのではないか。そうも考えてしまう。
「僕は、彼が、好き、なのかな」
 それでも、一度芽生えてしまった感情を打ち消すのは難しい。そんなことを考えながら、キラはこう呟いてみた。

「……あぁ、レイ……呼び立ててしまって申し訳ないね」
 そのころのレイは最高評議会ビルのギルバートの執務室にいた。
「いえ。それで、忘れ物はこれでいいのですか?」
 こう言いながら、数枚のディスクを差し出す。
「あぁ、それらだよ」
 頷きながら、彼はレイの腕からそれらを受け取る。
 それにしても珍しいことだ、とレイは思う。彼がこのような失敗をするのは珍しい、などと言ったものではないのだ。自分が記憶している限り初めてのような気がする。
「では、これで」
 それよりも、今はキラの方が気にかかる。一人にしておくと何をしでかすのかわからないのだ。
 いや、そう思っているのは自分だけかもしれない。
 そういう名目で、自分がキラの側に早く戻りたいだけなのか。
 おそらく、後者だろうな……とレイは心の中で呟く。今のように、いつでもキラの側にいられる時間がいつまでも続くわけがない。だから、少しでも長くキラの側にいたいのだ。
「ちょっと待ちなさい、レイ」
 きびすを返そうとした彼をギルバートが止める。
「何でしょうか」
「これから、ある人物がここに来る。彼についての君の判断を聞きたいのだが……そこの小部屋にいてくれるかね?」
 ひょっとして、そちらの方が目的なのだろうか。
 レイはふっとそんなことを考えてしまう。だから、わざと忘れ物をして自分を呼び出したのではないか。
 その人物、というのは《キラ》と関係しているのかもしれない。とは言ってもそのような人物でプラントにいるのは本当に少数ではないか。
 そして、そのような人物は、間違いなく《彼等》とも関係しているはず。そんな人間にキラのことを知らせるつもりなのか、とレイはかすかに眉を寄せた。
 しかし、ギルバートがそう判断をしたのなら、何か別の理由もあるのだろう。そうも思う。
「わかりました」
 だから、こう口にした。
「頼むよ。キラ君も……いつまでも閉じ込めておくわけにはいかないだろうしね」
 だから、と彼は微笑む。
「もし、君が大丈夫だ、と判断したのであれば、彼等を取り込んでしまえばいい」
 理由は後からでも作れるからね……と付け加える彼に、レイも静かに頷いてみせる。
「では」
 そして、そのままギルバートに指示された場所へと移動していった。