じゃれ合っているうちに周囲の様子がまた微妙に変化してくる。
「……失礼」
ようやく行動を開始しようとした二人に向かって声をかけてくるものがいた。
「何か?」
不機嫌そうにイザークが視線を向ける。それでもひるまないあたり、さすが……というのだろうか。。ディアッカは意味もなくそんなことを考えてしまった。
「ジュール隊長でいらっしゃいますね」
しかも、イザークが何者であるのかもわかっているらしい。
「そうですが、何か?」
機嫌が急降下だ、とイザークの態度を見ながらディアッカはため息をつく。これは後で大変だ、とも。
「議長からの伝言です」
だが、この言葉にはさすがのイザークも態度を改める。もっとも、それは当然だろうと思うのだが。相手が相手だしな……とディアッカは心の中で付け加える。
「何ですか?」
それでも、目の前の相手に敬語を使う必要はないと考えているのか。それとも、いまだに機嫌を損ねたままなのか。イザークの口調は堅い。
それも予想していたのかどうか。待った軌道汁とこを見せないあたりさすがだな……とディアッカは思う。
「明後日、ジュール隊長のご都合がよろしければお時間を頂きたい、とのことです」
もちろん、返事は今でなくてもかまわないが……と相手は付け加えた。
「本日、こちらにお戻りになったばかりだ、と聞いております。これからのご都合もおありかと存じますので、明日の正午までにご返答を頂ければありがたいです」
その言葉の裏に隠されている真意は何なのだろうか。
呼び出されなかった自分ですらそんなことを考えてしまう。ならば、イザークの方はなおさらなのではないか、とも思う。
「わかった。その時間までには返答をさせて頂く」
即答を避けたのは、時間内にできる限りの探りを入れるつもりなのか。もっとも、実際にそれをするのは自分だろうな……という予感がディアッカにはあったが。
「議長にはそのようにお伝えします」
お手間を取らせました……と口にすると同時に、相手はそのままこの場を後にする。
「ディアッカ」
その姿が完全に見えなくなったところでイザークが呼びかけてきた。
「はいはい。で、何を調べればいいわけ?」
もっとも、相手が議長だからうかつなことはできないが……とさりげなく付け加える。
「そうじゃない。貴様、確かメンデルにいたときに議長から個人的な通信を受けていたな。その内容は何だったんだ?」
プライベートのことだから、あえて聞かなかったが……と言うセリフが、あくまでも彼らしい。
「何って……最初はオーブのおてんば姫の話だったはずなんだが……」
さて、何と続けようか。そう考えながら視線を彷徨わせる。そうすれば、議長が乗り込んでいるらしいリムジンが見える。その中には議長と他に二つ、人影があった。
あの議長と一緒にいるのは誰だろう。
ちょっとした好奇心でついつい確認しようと目をこらす。だが、次の瞬間、信じられないというように目を丸くした。
「ディアッカ?」
どうした? と胡散臭そうな口調で問いかけてくる。
「……キラ……」
だが、それに直接答えろ返す余裕など今のディアッカにはない。
見間違いだろうか。それとも……と思いながらもう一度確認をしようとする。
「議長の車に乗っているのか?」
ディアッカの視線に気づいたのだろう。イザークもまたそちらに顔を向ける。だが、既にリムジンは走り去っていた。それでなくても、彼はキラを遠目にしか見たことがないはずだ。一瞬で判別できるとは思えない。
「キラが議長と? まさか……」
一体どこでどのような関係が……とディアッカは呟く。だが、先日の通信のことを考えれば、あり得ない話ではないのではないか。そうも思うのだ。
「ディアッカ!」
一人だけで納得をするな……とイザークが詰め寄ってくる。
「だから、この前の通信の真意は、オーブの姫のことじゃなく、キラの方だったんじゃないのかってことだ!」
それも、キラが議長の側にいるということであれば納得できる。
おそらく、自分からは説明できない状況だったのではないか。いや、キラの性格であれば自分では絶対に告げないだろう、と思う。
だが、いったいどうして。
「ともかく、どうにかして確認しねぇとな」
でなければ、後がこわい、というのはもちろん冗談だ。自分が納得できないだけだ言うこともわかっている。
しかし、いったいどうすればいいのか。
以前ならともかく、今の自分は一介の兵士でしかないのだ。そうそう議長のそばに行けるわけがない。
そう考えていたときだ。
「……仕方がない」
不意にイザークが口を開く。
「呼ばれているんだ。丁度いいから聞いてきてやろう」
自分が、と彼は口にする。
「……それはそれでこわいような気がするんですけど、俺は」
もちろん、イザークがうかつな行動を取るとは考えていない。ただ、藪をつついたら真実ではなく、蛇が出てくるのではないか、とそう思ったのだ。
「ディアッカ?」
何が言いたい、とイザークがにらみ付けてくる。
「……キラがここにいるのかどうかは知りたいが、その理由まではちょっと、と思っただけだよ」
そのことでキラを追いつめることになるのだったら、知らない方がいいかもしれない。そう考えたのだ、とさりげなく口にする。
「まぁ、ここにいるなら、いつかは会えることもあるだろうしな」
キラが教えてくれるかもしれない。この言葉には、イザークも頷いてくれた。
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