「明日からしばらく、様子を確認して……それで異常がなければ治療は完了した、と言っていいだろうね」
 ギルバートの言葉にレイは喜びと困惑が入り交じった表情を作る。
「レイ?」
 どうかしたのかね? と彼が問いかけてきた。
「……すみません」
 即座に彼はこう口にしてしまう。
「怒っているわけではないよ。ただ……もう少し違う反応が返ってくる、と思っていたのでね」
 驚いただけだ、と言われなくてもわかる。レイ自身、どうしてそんな表情を作ったのか、すぐにはわからないのだ。
「ギルやキラを信じていなかったわけではありませんが……本当にこんな日が来るとは思っていなかったので……」
 何度も願いはした。
 同時に、それは決して叶わないのだ、と信じていたのだ。
 だからこうして現実になったとしても、どこか現実味がない。それが表情に出たのだろう、と思う。
「なるほど」
 確かにそうもしれない……と彼も頷いてくれる。
「それもこれも、キラ君のおかげ……と言うわけだね」
 彼がいなければ、治療に取りかかることすら不可能だった……とギルバートはため息とともに口にした。
「そう考えると、ラウが彼に残した傷も必要だった……と言えるのだろうが」
 もっとも、その傷が深すぎて、キラ自身も自分の傷を治すだけでその他のことには気づけないようだが……と彼は続ける。
 それが何を指しているのか。
「……ギル?」
「彼も、失ったものが多すぎて、新しく大切なものを手に入れるのを怖がっているようだよ」
 誰かに好意を持っていたとしてもそれを認めようとしない、と言うことだね……と付け加えられた言葉に、レイは思わずギルバートの顔を見つめてしまった。
「それは……」
 キラも自分に好意を抱いてくれている、と言うことなのか。視線でそう問いかける
「それに関しては、君が自分で確かめなさい。恋愛感情に関してアドバイスはできても、実際に成就できるかどうかは、君次第だしね」
 でなければ、意味がないだろう? という言葉は真実なのだろうか。
「そうですね」
 取りあえず、今までの自分の言動は間違っていなかったのではないか、とは思える。だから、このままで行くしかないのだろう、とも。
「……ところでギル……あちらの方は?」
 キラのことと同じくらい気にかかっていたことについて、レイは問いかける。
「君がそこを出るまでには犯人が突き止められていると思うよ。その後のことは、その後にね」
 言外に、自分が手出しをすることはない……と言われているような気がするのはレイの錯覚だろうか。
「適材適所、という言葉もある」
 裏で動くものは他にもいるのだから、彼等に任せておけばいい。ギルバートははっきりと口にする。
「それよりも……しばらく、君達の安全が確保できなくなる可能性もあるが……大丈夫だね?」
 そちらの方が重要だよ、と彼は続けた。
 キラに他人を傷つけさせるわけにいかない以上、自分が何とかするしかない、と言うことはわかっている。
「はい」
 優先すべきことを間違えないように、というギルバートにレイは頷き返した。

 バルトフェルドからの言葉にカガリは難しい表情を作る。
「……おじさまとおばさまに護衛を付けることは賛成だが……問題は、その口実だな」
 自分たちにとってどれだけ大切な存在であろうと、ヤマト夫妻はあくまでもただの民間人なのだ。そうである以上、うまい口実を見つけなければ他の者達から突き上げが来る……と苦しそうな口調で彼女は付け加えた。
「これはあくまでも詭弁だが……」
 アスランはため息とともに口を開く。
「何だ?」
「あそこに何か施設を作る……という口実を作って、調査の名目で行ってもらうというのはどうだ?」
 もちろん、それなりに調査もどきをしてもらわなければいけないだろうが……とアスランは続ける。
「ただ、そう長いことは無理だろうがな」
 そして、その間に事態を解決させなければいけない。
「一番の問題は、それか」
 自分に味方をしてくれている者達の力では、いったいどれだけの時間がかかるだろうか。それがわからないのだ。
「こんな時……キラがいてくれれば……」
「……カガリ」
「わかっている……」
 自分たちのこんな気持ちが彼を追いつめたのかもしれない。それでも、とカガリは呟く。
「キラさえいてくれれば……と、どうしても考えてしまうんだ」
 だから、とカガリは唇を噛む。
「……キラのために、おじさまとおばさまは守らないとな」
 もちろん、それだけが理由ではないが……とアスランは口にする。
 自分にとって、今現在《家族》と呼べるのがあの人達だけだと心の中で付け加えた。だから、もう失いたくないのだ、ととも。
「かならず、キラは帰ってきてくれる。いつか……」
 そのために自分のできることをしよう……とアスランは呟いた。