調べていけばいくほど、あり地獄にはまっていくような気がするのはどうしてなのか。
「っていうか……どうあがいても答えを握っているのはあの人だけ、だよな」
 現在、プラントで一番偉いと言える人物。
 問題なのは、どうしてと言うことだ。
 どう考えても接点はないのに、とそうも思う。
「まぁ、俺もキラのことを全部知っているわけじゃないしな」
 自分が知っているキラは、本当に一部だ。後は、他人から聞いた話でしかない。それがキラの全てではないだろう、と思う。
 それに、とディアッカは付け加える。
 彼の心の傷がどれだけ深いものだったのかも、他人にはわからないのだ。
「……とはいうものの、キラにもう一度会いたいって言うのは事実だし……あいつも心配しているから、な」
 だから、こうして探しているのだが、とディアッカは大きくため息をつく。
「どうして、議長の名前が出てくるんだよ……」
 それも、キラの痕跡を消そうとするように、だ。
 まるでそれは、キラを何かかから隠そうとしているようにも見える。
「そういや、あの時だって……」
 カガリのことが聞きたい、と言っていたわりには、気が付けばキラの話をさせられていたような気がするのは錯覚か。
 ひょっとしたら《カガリ》のことの方が口実で、キラについて知りたかったのかもしれない。
 だったら、どうして直接そう言わなかったのか……という問題が出てくる。
「……かといって、本人に確認するわけにはいかないだろうしな……」
 今の自分では、面会の約束を取り付けることも難しい。あちらから呼び出してくれれば、話は別だろうが。
「そんな事態は、できれば避けたいしな」
 ただでさえ微妙な立場の人間としてみれば、あまり目立ちたくない、と思ってしまう。思ってしまうのだが、やはり真実は知りたいのだ。
「我ながら、矛盾しているよな」
 まぁ、人間なんて矛盾の塊みたいなものだし……とディアッカはぐいっと伸びをしながら呟く。
「と言うところでお仕事に行きますか。そろそろ交代要員を送ってくれないと、うちの隊員が切れるな」
 これに関してだけは、隊長は大丈夫だと思えるのはいいことなのかどうか……と苦笑を浮かべる。一番要注意な人物が噴火しないのであれば、後しばらくは何とか現状を維持できるだろう。
 しかし、それだって永遠ではない。
 軍人として訓練を受けている、とはいえ休息は必要なのだ。
「俺個人としても、本国の方がいいしな」
 いろいろと調べるには、やはり……と心の中で付け加える。だが、それは決して口に出してはいけないセリフだろう。
「待っている女がいれば、もっといいんだが……あいつは絶対来てくれないだろうしな」
 かといって会いに行ける日が来るのか……と代わりにこんなセリフを口にしながら移動を開始した。

 同じようにあり地獄に陥りつつある人物がオーブにもいた。
「……何というのが……厄介だね」
 モルゲンレーテにハッキングを仕掛けた犯人に関しては、当事者達に任せた方がいいだろう。だから自分はプラントからもたらされた情報を元に《アル・ダ・フラガ》という人物について調べていたのだが、とバルトフェルドはため息をつく。
「それにしても、こんな人物から良くもまぁ、彼のような人物が生まれたものだ」
 それとも、あれは父親に対する反抗心から来た性格だったのか。あるいは、父親が死亡した後に培われたものなのか。
 どちらが正しいのかはわからないが、それでも記憶の中の《彼》が自分たちの知っている《ムウ・ラ・フラガ》という人物だ。それに関してはかまわないと思うのだが……
「凄い、というしかないね、本当に」
 彼の父親が執ってきた手法やその結果が……とバルトフェルドは呟く。
 しかし、とも思う。
 どう考えても、彼だけでは不可能なのではないかという事例も多々ある。
「これを、どう見るか……なのだろうね」
 彼に協力をしていた人物が進んでそうしたのか、それとも嫌々ながらも断れない理由があったのか。
 そして、一番気にかかるのはこれだ。
「……ユーレン・ヒビキ、ね」
 キラ達の実の父親。
 先日のハッキングの目標。
 そんな相手とアル・ダ・フラガが関係していた。
 それを『偶然』の一言で切り捨てられるような思考を自分は持っていない。
 いや、自分でなくてもそうだろう。
「……と言うことは……モルゲンレーテに残されているデーターが、全ての元凶なのかもしれないな」
 キラが姿を消したこともそれと関係があるのかもしれない、とも付け加える。
 カガリが無事なのは、彼女が現在、オーブの代表首長だからだろう。あるいは、彼女が《ナチュラル》だと言うことも関係しているのかもしれない。
「と言うことは……キラのご両親の安全も考えておいた方がいい、と言うことかもしれないな」
 ライブラリーからデーターを入手できないとわかれば、関係者に目標を変えることは自明の理だ。そして、現在彼等は無防備だと言っていい。
「子供達のこともあるしな」
 あれから、マルキオの孤児院にはそれなりの監視装置を設置してはある。だが、それなりの訓練を積んだものであればそれをすり抜けることは十分に可能だろう。
 だから、その場で対処できる人間を配置しておきたい。
 それに、あそこにはまだラクスもいるのだ。
「それに関しては……カガリ達と相談だな」
 自分ではどうにもできない。
 それに、その程度のことは彼女に任せてもいいだろう。そう判断をして、バルトフェルドはこう呟いた。