先ほど届けられた報告に、イザークは思いきり不機嫌そうな表情を作る。
「……で?」
 続きを促すかのようにイザークは相手をにらみ付けた。そうすれば、彼は思わず固まってしまう。
「イザーク。一般兵にそれはかわいそうだろう?」
 苦笑とともにディアッカがこう言ってくる。
「ディアッカ?」
 何を言い出すのか……と思いながら、イザークは彼を振り向く。
「お前のその表情、知らない人間にはきついって」
 ザフトに入った頃のままだぞ、と彼は付け加えた。こう言われて、ようやくイザークは自分が今、どのような表情をしているのかを理解する。
「そうか」
 確かに、今までの経験からかなり気は長くなったかもしれない。だが、自分の本質は変わっていない、とそう思っていたのだ。
 もっとも、部下達の前でそんな表情をしたのは初めてだ、と言うことも事実だが。
「悪かったな」
 取りあえずこう口にする。
「それで、報告の続きは? ハッキングが仕掛けられたのは、正確にどこだ?」
 この艦か、それともメンデルの方か……と部下が話しやすいように明確に問いかける。
「どちらとも判断が付きません」
 彼は即座にこう言い返してきた。それはイザークが望んでいた答えではない。
「判断が付かない、とは?」
 怒鳴りつけたくなる自分を必死に抑えながら、イザークはさらに言葉を重ねた。
「ハッキングに関してだけ言えば……対象は技術者達の私物のパソコンにまで及んでおりますので……おそらく、プログラムによるものだ、と思われます」
 彼の口から出た言葉は、さらに自分の予想の範囲を超えていた。
「おそらく、何かのキーワードをねらってこの地域にある全てのデーターベースに突撃したのでしょうが、本艦と例の施設に関してはプロテクトが厳重だったために気づかれる結果になった、と思われます」
 でなければ、本艦のみをねらったものと判断したかもしれない……と彼は付け加えた。
「そうか」
 イザークでも同じような判断を下しただろう。
「……そのプログラムの内容、わかるか?」
 無理だろうと思いつつこう問いかける。
「残念ですが……」
「わかった」
 最初から期待していないのだからそれに関してはあっさりと頷いて見せた。
「もう少し、詳しく解析をすれば、キーワードはわかるかもしれません」
 イザークの反応に何かを感じ取ったのか――それとも、良いところを見せようと思ったのか――彼はこう言ってくる。
「無理はしないようにな」
 結果はともかく、その気持ちは重要だろう。そう思って、イザークは頷いて見せた。

「それにしても、全てのパソコンに侵入して、目的のデーターだけをさらっていくプログラムか」
 そのようなものを作り上げられるとすれば、どれだけの実力が必要なのだろうか。ディアッカにはとても想像が付かない。
「キラなら、わかるのかもな」
 いや、彼なら作り上げられるだろう。そうも考える。
 しかし、彼が今、それを必要とするはずがない。
 調べたいと思うのであれば、ここにいたときに何とかしたに決まっている。第一、あそこのプロテクトはキラ自身が作り上げたものだろう。そんな彼が、わざわざあんなプログラムを作り上げるはずがない。
「どんなデーターが隠されているんだか」
 だが、これだけは間違いないだろう、という事実がある。
 どこの誰であろうとキラはそれを誰かに見られたくない、と考えているはずだ。でなければ、あれだけ入念なロックシステムを作り上げるはずがない。
「副官!」
 そんなことを考えていたディアッカの耳に、自分を呼ぶ声が届く。
「どうした?」
 イザークがまた何かをやらかしたのか……という言葉はあえて口にしない。
「本国から連絡が入っております!」
 この言葉に、ディアッカは首をひねる。
 本国から自分に連絡を寄越すような酔狂な相手がいるとは思えなかったのだ。両親はまだ壮健――しかも、前の戦争での罪科は負っていない――だとはいえ、そこまで親しくはない。
 いや、むしろ煙たがられているのではないだろうか。
 かつての友人達も同様だ。
 それも仕方がないのだが、と彼は心の中で付け加える。そうされても仕方がないことを自分はしたのだ。
「……誰からだ?」
 こう呟きながらディアッカは立ち上がる。
「それが……」
 そうすれば、彼を呼びに来た兵士が複雑な表情を作った。
「誰なんだ?」
 さっさと言え! とディアッカは問いかける。
「……デュランダル議長です……」
 この言葉に、さすがのディアッカも目を丸くしてしまった。