気が付けば、今日の治療は終わっていたらしい。
くだや何かを外されて、いつものベッドに横たわっている自分にレイは気づいた。
それだけならばいつもの通りだ。
だが、今日は何かが違う。
その理由は何なのだろうか……と視線を周囲に彷徨わせたときだ。
「……キラ……」
自分の手を握り締めたまま、ベッドに上半身を預け眠っている彼の姿を確認してしまった。
「どうして……」
自分から触れてくることはほとんどなかったのに、とレイは思う。
もちろん、嬉しくないわけではない。いや、キラからこういう行動に出てくれたという事実は本当に嬉しい。
自分が治療を受けている間に、いったいどのような心境の変化があったのだろうか。あるいは、それを促す《何か》があったのかもしれない。
「……ギル?」
今、自分以外に彼に接することができるのは彼だけだ。
だから、自分の意識がないときに彼が何かを言ったのかもしれない。
「ギルの言葉は……一種の催眠術だからな」
一度だけ生で見たことがある《ラクス・クライン》の歌と同じように……とレイはこっそりと付け加える。
しかし、それがある意味彼女の一番側にいたキラにまで通用するとは思わなかった、というのも本音だ。
もっとも、今のキラの心は傷ついて無防備な状態だと言っていい。
そんな心に《言葉》を届けるくらい、ギルバートなら簡単なのではないか。そうも考えるのだ。
「最高評議会を手玉にとっているんだ。キラ一人なら簡単……でもないのだろうが、なんとでもするか」
彼がこの状況で自分にとってマイナスになることをするはずがない。それだけは確実に言える、とレイは信じている。
ただ、と彼は心の中で付け加える。
本人にその気はなくても、キラにとって見れば刃となり得る言葉もあるかもしれないのだ。
自分が側にいれば、それについて注意をすることができる。だが、今の状況では不可能だと言っていい。
「……ともかく、このままではキラの体にも良くない」
自分の心理的にも、と心の中で付け加える。だから、起こすのは忍びないが、仕方がない……とレイは思う。
「……キラ……」
言葉とともにレイは彼が握りしめている手を小さく揺らす。
どうやら、予想よりも彼の眠りは浅かったらしい。それだけでキラは小さく身じろいだ。
「レイ君……」
そして顔を上げるとこう呼びかけてきた。
「どうせなら、添い寝をしてくれた方が嬉しかったんだがな」
そんな彼に向かってレイはかすかな笑みとともにこう告げる。
「……レイ君……」
即座にキラは困ったような表情を浮かべた。そのまま、困惑したような視線を向けてくる。
「その方が安心できる」
こう言えば、キラが無視できないとわかっていてのセリフだ。
「……レイ君、が?」
「そう、俺が、だ」
かすかに首を横にかしげながらこう聞き返してくる。
「だから、来い」
こう言いながらレイはかすかに毛布を持ち上げて見せた。
「邪魔、じゃない?」
「俺がそうしろといたのにか?」
迷惑なら言わない……と言えば、キラは取りあえず納得をしたらしい。だが、すぐには入ろうとはしなかった。
「キラ」
まだ何か悩んでいるのか、とあきれたくなる。
だが、それを指摘してはキラには逆効果だろう。
「寒いんだが」
だから、こう口にする。
「……ごめん」
この一言はキラは慌てたようにキラは立ち上がった。そして、そのままレイの枕元へと移動をしてくる。
「入れ」
そんな彼をレイはさらに促す。
おずおずとした仕草で、キラはレイの隣に体を滑り込ませてきた。そのまま、彼は小さなため息を漏らす。
「……冷たいな」
あんな恰好で寝ていたのだから、当然と言えば当然だろう。それでも、レイは思わずこう呟いてしまう。
「……ごめん……」
キラは即座にこう言い返してくる。
「そう思うなら、次から気を付けろ。どうせ、食事も取っていないのだろう?」
「……ギルバートさんに、食べろって言われたから……」
レイの言葉に、キラはこんな言葉を呟く。その内容は安心できるものだが、ある意味引っかかる部分もある。
「ギルバート?」
「そう呼べって言われたから……」
自分が知らないうちにあれこれ話をしているのか、とレイは思う。それがいい方向へ向かってくれればいいが、そうでなければ厄介だな、と心の中で呟く。
「そうか」
後で、ギルバートに確認しておこう。
こう思いながら、レイはキラに頷いてみせる。
「仲良くなってくれれば、それはそれでいいかな」
そしてこう付け加えた。
|
|