建物の内部は、予想に反してさほど荒らされていない。
「何が目的だったんだ?」
銃をかまえながら、イザークはこう呟く。
「……そう言えば、メンデルでは昔、コーディネイト技術の研究が行われていたって聞いたな」
だとするなら、ここがそうなのかもしれない、とディアッカが言い返してきた。
「その可能性はあるか」
ならば、ここを襲った『バイオ・ハザード』というのも本当かどうかわからないな、と心の中で付け加える。
そういう施設であれば、無条件でテロの対象にする連中がいるだろう、とそう考えたのだ。もちろん、施設だけではなく研究者も同様だろう。
「そういや……クルーゼの奴はここで何をしていたんだ?」
あの時……とディアッカが問いかけてくる。それがいつのことを刺しているのか、イザークにもわかった。
「残念だが、俺は聞かされていない」
聞かされていれば、少しは状況が変わったのだろうか。そんなこともふと考えてしまう。
「そうか……こっちはこっちで大変だったしな」
キラの様子がおかしくなって誰かさん達がおろおろしていやがったし、なだめ焼くのおっさんはケガをして寝込んでいたし……とディアッカは付け加える。
その言葉に引っかかりを覚えたのは自分だけではないだろう。
間違いなく、ディアッカもここであったことが連中――特に《キラ》――に重要な影響を与えていると考えているのではないだろうか。
だとするのであれば、ここを襲撃した理由もそれに関わっているのか。
「厄介だな」
それこそ、キラを探し出して保護しなければ、彼の身に危険が及ぶと言うことかもしれない。その可能性も否定できないではないか、と思うのだ。
「イザーク?」
何がだ、とディアッカが問いかけてくる。
「連中の目的がわからない、と言うことが、だ。コロニー建設従事者達の居住区が目標だ、というのであればまだしも、な」
こんな廃墟を襲う理由がわからない。そう付け加えれば、ディアッカは眉間にしわを寄せる。
「そうだな」
そのまま、彼はゆっくりと口を開く。
「あるいは、ここにあるデーターかもしれないな」
残っているのであれば、の話だが……と彼は続ける。
「かもしれないな……」
言葉とともに、イザークはさらに奥へと足を向けた。その後をディアッカが付いてくる。
この先に何が、待っているのか。
それを知りたいような知りたくないような、そんな複雑な感情を自分が抱いていることにイザークは気づいていた。
「いいかね。治療が終わるまでは、必要以上の接触は禁止だよ」
からかうようなギルバートの注意に、キラは体をこわばらせる。
「わかっています」
不本意ですが……とそれでもレイは平然と言い返してきた。その冷静さにギルバートは苦笑を浮かべる。
「規則正しい生活を心がけるように。ただ、しばらく免疫等の体のバランスを故意に崩すからね」
もちろん、ごまかそうとするのはなしだよ、と口元に浮かべた笑みから苦いものを抜き去った。
「……はい」
まるでいたずらを指摘されたような表情でキラが返事を返してくる。
「俺が監視をしているから大丈夫です」
意識があるうちは、だが……とレイも付け加えた。
「本当に仲がいいね、君達は」
と言うのとは微妙に違うのだろう。だが、少なくともレイはキラの面倒を見ているときは楽しそうに見える。それはそれでいいことなのだろう、とは間違いなく思える。
「その中に加えてくれとはいわないが……少し、私にも話をさせてもらえるかな?」
キラの中に眠っているかもしれない《ユーレンの遺産》を確認したい。
もっとも、それがなかったとしてもキラと話をするのは必要だと思える。特に、彼の精神状態を考えれば、だ。
「……ギル」
彼の言葉に答えを返してきたのはキラではなくレイだった。それに関してはまだ仕方がないのかとも思えるが、どこか面白くないとも感じてしまう。
きっとそれは、自分とレイの間に微妙な壁がある、と言うことが気に入らないと言うことか。
つまり、キラの処遇に関してレイはまだ自分を信じていないと言うことなのだろう。
「お願いですから、キラを口説かないでくださいよ」
しかし、レイの口から出たのはこんなセリフだ。
「おやおや」
心配していたのはそちらの方か、と思わず笑い声が漏れてしまう。
「そんなことを心配していたのかね」
こう言うところは可愛いままだ。いや、今までとは違ったかわいらしさだと行っていいのかもしれない、と思う。
「君のものを取るような悪趣味な真似はしないよ。純粋に、キラ君と話をしたいだけだ」
いろいろと聞きたいことがあるだけだしね、とギルバートは付け加える。
「もっとも……もし可能なら、いずれ私たちを手伝ってくれれば嬉しいとは思っているが」
この平和を、少しでも長く保っていくために……と言えば、キラの肩が小さく揺れた。それは先ほどの反応とも微妙に違う。
それはどうしてなのか。
全てを諦めきっているようなキラの中にも、諦めきれないものがあるのか。
ギルバートはこんなことを考えていた。
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