行為の後のキラは、まるで意識を手放すように眠りの中に落ちていく。
「……キラ……」
 そんな彼の姿は、まるで現実を拒んでいるようにも見える。
「貴方が拒んでいるのは、俺、ですか?」
 汗で額に張り付いているキラの前髪をそっと指先ではらってやりながらこう囁く。
「それとも……あの人に会いたいのですか?」
 今はもう、この世界にいない《彼》と、とさらに付け加える。
 もちろん、その問いに対する答えは返ってこない。
 レイ自身、それを望んでいたわけではなかった。ただ、口をついて出ただけだ。
 だからといって、知りたくないわけではない。
 できれば、キラ自身の口から告げて欲しい、と思う。
「それは、ワガママなのか」
 考えてみれば、わがままなんて今までに言ったことがない。言ったところでどうしようもない、と思っていた、というのもその理由の一つだ。
 だが、キラに関わることではわがままばかり言っているような気がする。
 それがいいことなのかどうか、わからない。
 しかし、ギルバートが認めてくれているようなのだからかまわないのか、とも思う。
「……貴方は今の俺を見て何というのでしょうね」
 ラウ、とレイはキラの心に傷を付けた相手に向かって言葉を投げかける。
 同時に彼の存在外までも越えられない壁として自分の前に存在していることも改めて認識してしまう。
「俺は……」
 そんな彼に対しての感情を口にしようとしてレイは言葉を飲み込む。
 代わりに、後始末をするためにキラの体をそっと抱きかかえた。

 まさか、ここがねらわれるとは思わなかった。
 メンデルに機体を着地させながらディアッカはそんなことを考える。
「しかも、よりによってここかよ」
 あの時、イザークと再会した場所、という事実に気づいて、ディアッカは眉を寄せた。
「そういや……ここでおっさんは撃たれて、キラの態度もおかしくなっていたんだよな」
 何かの施設だったと思うんだが……と付け加える。
『ディアッカ!』
 その時だ。通信機からイザークの声が飛び出してくる。
「はいはい……何でしょうか」
『返事は一回でいいと言っているだろうが!』
 どこの家族の会話だ……と言いたくなるような言葉に、ディアッカは思わず苦笑を浮かべてしまう。別の意味で言えば、いかにもイザークらしいセリフなのだ。
「それよりも、何だ?」
 ともかく、何をさせたいのかを確認しておかなければ……と思ってこう聞き返す。
『あそこの施設の中にまだテロリストが潜んでいるかもしれん。確認しに行ってくる。貴様は……』
「って、それこそ、俺の役目でしょうが、それは」
 隊長さんに何かあったらどうなるわけ? と言い返してしまう。
『……うるさい!』
 それに対して戻ってきたのはこんなセリフだった。
「はいはい……要するに、ストレス発散したいわけね」
 暴れて、と付け加えれば、
『黙っていろ!』
 といいかえされる。それで完全に図星だとわかってしまった。こう言うところは、やっぱりイザークだよなぁと心の中で呟くものの、決して口に出すことはしない。これ以上彼にすねられては後がこまるのだ。
「そう言うことなら付き合うけどな」
 その代わりにこう言い返す。
「俺としても、ちょっと気になってたんだよ、ここ」
 昔から、と付け加えれば、何かを察したのだろうか。
『仕方がない! 邪魔はするなよ』
 と言い返される。
「はいはい」
 あいつの手がかりがあればいいんだが……と呟いた言葉はイザークの耳に届いただろうか。そんなことを考えながら、ディアッカは手早くシートベルトを外した。