ディアッカの様子がおかしい。
もっとも、彼がおかしいのは以前からだとも言える。だが、ここ数日の様子はその範疇を超えているのだ。
「まったく、あいつは……」
前の大戦時に彼が取った行動に関しては確かに非難の声もあった。だが、結果的には彼等の行動が終戦を導いたのだ、と言うことでおとがめはないと言われていたのに、何故かそれまで身に纏っていた《紅》ではなく緑の軍服に袖を通している。しかも、だ。パイロットしてのそれではなく一般兵のそれだ。
それが彼なりのけじめだったとはわかっている。
しかし、面白くないと思ってしまったことも事実だ。それでも、それはあくまでも彼自身が決めることだ、と思う。何よりも、今はともにいるのだから、妥協すべきではないのか、とも考えていたことも本音だ。
その時と今の態度がよく似ているような気がする。
「いったい、何を考えているんだ、あいつは」
というよりも、何をしようとしているのか……と言った方が正しいのかもしれない。
「一人でこそこそとしおって!」
何故自分に相談をしない! とそう付け加える。
「……相談したらしたで、大騒ぎをするだろう、お前」
いったいいつから自分の様子を見ていたというのか。そうも考えてしまう。
「……誰が大騒ぎをすると言うんだ、お前は」
だが、口から出たのはこんなセリフだった。
「お前」
しかし、ディアッカはあっさりとこう言い返してくる。
「ディアッカ!」
「……ともかく付き合え」
誰が通るかわからない場所でできる話ではない、と真剣な表情で彼は口にした。
「わかった」
ここまで言うのであれば、そうなのだろう。その内容次第では、自分も手助けをするのはやぶさかではない、とも考えながら、二人は手近な部屋へと入り込んだ。
「それで?」
ドアをロックしながら、イザークはディアッカに言葉を促す。
「キラが行方不明なんだと」
それも、誰かに拉致されたらしい……とディアッカはさりげなく付け加える。
「……ブルーコスモスか?」
彼の戦闘能力を欲しがるものは多い。その中でももっとも有力なのはあいつらではないか。そう思いながらイザークは言葉を口にする。
「いや……違うらしい」
しかし、ディアッカは何故か口ごもった。
「違う?」
「……まだ確定じゃないけどな……どうやら、ザフトの誰かが関わっているらしいんだよな」
もちろん主流派とは限らない。未だにザラ派がザフト内では大きなウェートを占めているのも事実なのだ。
「だから、俺にも協力要請が来たんだよ」
とは言っても、さすがにおおっぴらにはできないだろう、とディアッカは苦笑を浮かべる。
「お前に言ったら、おおっぴらに捜査をしかねない。そうなったら、キラの命に危険が及ぶ可能性がある。そう思ったんだって」
あいつに死んで欲しくないんだ、と付け加えられた言葉にはイザークとしても頷かないわけにはいかない。
「そう言うことだから、ちょーっとばかり見逃してもらえるとありがたいかなって思うんだけどな」
そうすれば、自分たちが気づいていることを知られずにすむ、と彼は付け加える。
「さすがに、隊長自身が動けば目立つでしょ?」
ここまで言われてしまえば、頷かないわけにはいかない。
「……報告だけはよこせ」
状況だけは知っておきたい、と言外に告げる。
「了解」
隊長さん、と笑う彼の頭をイザークは軽くこづく。そして、そのままドアのロックを外す。
「それと、あまり無理はするなよ」
自分たちは間違いなく監視の対象なのだ。そう考えれば、あまり無理はできないだろう、と思う。
「わかっているって」
動いているのは自分だけじゃないしな……と彼は笑い返してきた。
「元バルトフェルド隊の連中も、クライン派の人たちも動いてくれている」
歌姫の影響力はさすがだな、と彼は付け加える。
「仕方があるまい。あの方がいらっしゃったからこそ、我々はナチュラルを滅ぼすという最悪の選択をしないですんだのだからな」
そして、彼女の元にキラをはじめとする者達が集まったからこそ、二つの種族は取りあえず同じ未来を目指して歩き出すことになったのだ。イザークはそう考えていた。
「そうなんだけどな」
だが、とディアッカは口にする。
「実質、その出会いを導いたのがキラだからなぁ」
逆に言えば、キラがいなければラクスはカガリ達の援助を受けられなかったかもしれない。そうなれば、今世界はどうなっていただろう、とディアッカは眉を寄せる。
「だからこそ、あいつを見つけ出さなければならないのだろうが」
せいぜい努力をしろ、とイザークが口にしたときだ。
「隊長、ここにおいででしたか?」
自分を探していたらしい隊員の一人に声をかけられた。
「どうかしたのか?」
「議長が、新しいプラントの建設予定地の視察をなされるとかで……先ほどL−4にご出発なさいました。我々は、その間、本国近辺の警戒を、とのことです」
一息にこう言ってくる彼は、先日配属されてきたばかりの相手だ。
「そうか」
それにしても、段取りが悪すぎる、とイザークは心の中で呟く。
「あのな。そう言うときは艦内放送で呼び出せって」
それが一番手っ取り早いだろう、とディアッカが苦笑じりで口にしている。それにしゃちほこばって頷いている彼を横目に、イザークはさっさとブリッジへ向けて歩き出していた。
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