レイからのメールに、彼は満足そうに微笑む。
「どうやら、あの子も本懐を遂げたようだね」
 もっとも、君とは百八十度方向性が違っているが……と呟く。
 その方法が……とギルバートは付け加える。
「同じ遺伝子を持って生まれても、やはり育ち方が違えば、性格も思考も違う、と言うことか」
 その感情が向かう相手、というのが同一であったとしてもだ。
「彼の方もまんざらではないらしいしね」
 いや、そうではないのかもしれない。
 だがレイの言動を受け止めている、というのであれば同じ事だろう、と思う。
「どのような始まりであれ、結果が結果であるのなら、ね」
 幸せな始まり方をしても、最悪の結果で終わる関係もある。ならば、その反対のことがあってもおかしくはないのではないか。そう思うのだ。
「君はどうだったのかわからないが、私は一応、あの子を可愛いと思っているのだよ」
 自分が育てたのだから……とギルバートは口にする。
「それに……彼の存在は、間違いなく《切り札》になる」
 どこに対して、とは言わない。だが《キラ・ヤマト》という存在がプラントにとって有益なものになるのは間違いないはずだ。
 そして、ユーレン・ヒビキの遺産が手にはいるならば、だ。
 どこにあるかはわかっていた。
 だが、どうしてもその中身を確認することができなかったのだ。
 キラがどれだけ有能な頭脳を持っているかもこれでわかったのではないか、とギルバートは思う。
「……あるいは、彼自身が《ユーレン・ヒビキ》のデーターボックスなのかもしれないね」
 ひょっとしたら、キラの脳の中にユーレンの研究成果が隠されているのかもしれない。それを今、彼は徐々に表に出しているのではないだろうか。
 ならば、自分が今一番知りたいと考えていることの答えを彼が持っているかもしれない。
「どちらにしても、彼をここに呼び寄せてから、だね」
 そのための準備も終わった。
 後は、自分が迎えに行くだけだ。
「……内密に事を進めなければいけないかな」
 彼等が行方不明になった《キラ》を探し出すために手を尽くしていることは知っている。
 それだけならば無視をしてもかまわないのだが……とギルバートはため息をつく。
「何故、連中が動いているのか」
 それがわからない、とも付け加える。
「だからといって、連中に渡すわけにはいかないことは事実だがね」
 言葉とともにギルバートは立ち上がった。そのまま歩き出す。
「今日の予定さえ終われば、しばらく、自由な時間が取れるはずだから、迎えに行こうか」
 それから後のことは、それから決めればいい。ギルバートは口元に笑みを浮かべながら、そんなことを考えていた。

「ブルーコスモスも、キラの居場所を掴んでいない?」
 その情報に、アスランだけではなくラクスも驚愕を隠せない。
「そうだ。むしろ、今、必死になって探し回っているそうだ」
 理由は言わなくても想像が付くがな……とカガリはため息をつく。それはアスランも同じだ、と言っていい。
「カガリ」
 不意にラクスが彼女の名を呼んだ。その言葉の裏にどのような意味が含まれているのか、カガリにもわかったのだろう。
「……信頼できる相手の報告だ」
 だから、嘘ではない。きっぱりと彼女は口にする。
「そうか」
 カガリがそこまで言うのであれば嘘ではないだろう。というよりも、信じるしかないと言った方が正しいのか。
 だが、それならばそれで厄介な事態になったとしかいいようがない。
「そうなれば……やはりプラントにいるのかもしれませんね、キラは」
 ラクスがふっと呟くように口にする。
「どうして、そう思うのですか?」
「……あの戦争の後、見捨てられてしまったプラントがいくつあるか、ご存じですか?」
 アスランの問いかけに直接答えを返してくる代わりに、ラクスは言葉を口にし始めた。
「その中には、今でも居住可能なものも存在しています」
 放置されたのは、単にすむべき人の数が減ったからだ……と彼女は言葉を重ねる。
「キラは、世界から姿を消してしまいたい、と思っていらっしゃいました。ですから、ご自分でここから立ち去られたのであれば、そのような場所に向かったとしてもおかしくはないのではありませんか?」
 そして、キラであればデーターベースから自分の痕跡を消し去ることも可能だろう。ラクスのこの言葉は、確かに納得できるかもしれない。
 それでも、だ。
「だからといって、私たちに何も言わずに……」
「言えば、お止めになりましたでしょう?」
 もちろん、自分もそうだが……と彼女は口にする。
「当然だろう、キラは……私の姉弟だ」
「ですが、キラは貴方ではありませんわ」
 だからこそ、何も話すことができずに姿を消したのかもしれない。その言葉に、アスランはいらだたしさを覚える。
「ですが、ラクス」
「真実から目を背けることはできませんわ。そのせいで、キラを永遠に失ってしまうかもしれません」
 それに比べれば、多少のことは妥協するしかないのではないか。彼女はそう口にした。
「……そうかもしれません」
 大切なのは、キラを取り戻すことだ、とアスランは自分に言い聞かせた。