「……レイ?」
 何を……と口にしながらもキラは自分の身の上に起きていることがどこか遠い場所で怒っているもののように思えてならない。
「どうしてお前は……」
 それでも、レイが泣いているような気がして、キラはそっと手を持ち上げる。そして、彼の頬に触れた。
「何が、悲しいの?」
 そして、こう問いかける。
「……悲しい? 俺が?」
 しかし、それはレイが予想していなかった言葉だったらしい。
 その顔に驚愕を浮かべるとこう呟く。
「違うの?」
 だとしたなら、自分は間違えたのだろうか。そう思いながらキラは彼を見上げる。そうすれば、記憶の中に刻まれた彼のものよりも微妙に淡い色の瞳に自分の姿が映し出されているのがわかった。
「俺は……」
 レイが自分の気持ちを確かめるように言葉を口にし始める。
「……俺は、多分――いや、怒っているんだ」
 こう言いながら、レイはキラののど元に手を当ててきた。
 と言うことは、彼は決めたのだろうか。
 自分をこの世界から消す、ということを。
 それならばそれでかまわない、とキラは思う。むしろ、遅すぎたのではないか。そうも考えていたのだ。
 ただ、心残りがあるとするならば、あれをまとめきれなかったことかもしれない。
 あれができれば、彼に未来を渡せたのに。あの人には間に合わなかったが、目の前の彼ならば……とも思っていた。
 しかし、とも思う。
 彼等にはきっと、その命を守ろうとしてくれた《人》がいる。それも、間違いなく専門の知識を持った人が、だ。
 その人であれば、自分が何をしようとしていたのかを理解し、あれを完成させてくれるだろう。
 なら……と思いながらキラは目を閉じる。
「……何で、貴方は……」
 そんなキラの頬に、何か暖かなものが当たった。
「何で貴方は、あの人じゃなく、俺を見てくれないんですか!」
 そして、叫ぶようにレイがこう口にする。
「レイ君?」
 いったい何を……とキラは言い返す。
 自分は彼に恨まれていたのではないか。しかし、今の彼の態度は《憎悪》とは微妙に違うような気がしてならない。むしろ、守ると約束したのに守れなかった《彼女》に似ていると思えるのは錯覚だろうか。そうは思っても、その理由がわからないのだ。
「貴方は、確かに俺とラウを別の存在として捕らえている。でも、それは……それは貴方がラウだけしか見ていないからだ!」
 だから……と彼は付け加える。
「……レイ君」
「だから、俺は……」
 言葉とともに、彼はキラの衣服をはぎ取り始めた。
「レイ君!」
 何をするのか……とキラは口にしながらも、未だに自分の身に降りかかっている事実が現実だとは思えない。ただ呆然と、彼の行動を受け止めているだけだ。
「俺は貴方に……」
 それでも、のしかかってきた彼の体の重みだけは、妙に現実的だった。

 自分の下でキラが苦しげに顔をゆがめている。
 しかし、それすらもレイを煽ってくれるものだった。
「ラウも、ここまではしていないでしょう」
 くすりと笑いながら、レイは腰を揺すり上げる。
「ひっ……ひぁっ!」
 次の瞬間、キラの唇から苦しげな声が飛び出した。
 それも無理はないだろう。
 強引に事を運んだせいで、レイを受け入れている場所は傷ついている。しかし、その事実が逆にレイの動きをスムーズにしてくれているのは皮肉かもしれない。
「これで……貴方は俺を見てくれますよね」
 小さな笑いとともにレイはキラの唇に自分のそれを重ねる。
 だが、キラはそれを拒むかのように顔を背けようとした。しかし、レイはそれを許さない。
「貴方に拒む自由はないんですよ」
 言葉とともにレイはキラのあごを掴む。そして、そのまま自分の方をむき直させた。
「貴方は、生まれる前から俺に償わなければならない理由を持っているでしょう?」
 だから、自分を受け入れろ……とレイは付け加える。
 普段のレイであれば決して言わないようなセリフだ。しかし、このときは怒りと、キラの体が与えてくれる快感に酔っていたと言っていい。
「貴方は、その髪の毛の一筋まで、俺のものです」
 すぐ間近でこう囁くと、そっと唇を重ねる。今度はキラも拒もうとはしない。
「……貴方は、ずっと俺の側にいればいい」
 一度唇を離すと、レイはこう言い切る。
「もっとも……逃げだそうとしても放しませんけどね」
 言葉とともに、レイはキラの奥へと自分の欲望をたたきつけた。