新しく届けられた報告書にアスランは手早く目を通す。
 だが、それもまた今までと同じように《キラ》の行方が『わからない』と伝えてくれるものでしかない。
「カガリが……またあれるな」
 アスランはこう呟く。
 今ですら、キラの行方がつかめなくてぴりぴりしているのに、と思う。
「辛いのは、あいつだけじゃないんだがな」
 それでも、カガリが先に爆発してくれているから、自分たちはまだ冷静でいられるのかもしれない。
 冷静でなければ、他の誰かが見つけられなかったキラの痕跡をかぎ取ることはできないだろう。
 そうできると信じているからこそ、自分は全てのデーターを回してもらっているのだ。
「……船も飛行機にもそれらしき記録がない……と言うことは、やはり、自力だろうな」
 あのころの自分たちが取った行動と同じように、とアスランは付け加える。
 それでも、どこかにその痕跡が残されているはずだ。
「……キラが持っていたというファイルの内容がわかっていれば、あるいはヒントぐらいにはなったのかもしれないな」
 あの日、キラ本人とともに消えたというファイル。
 それがどのようなものなのか、アスランも覚えている。少なくとも、外見だけは、だ。
 あれの中身がなんなのか。
 一度気になって問いかけたことがある。だが、その瞬間、キラが今にも泣き出しそうな表情を作った。だから、それ以上、問いかけることができなかったのだ。
 しかし、と思う。
 あれがキラが連れ去られた原因の一部だとするなら、どれだけ彼を悲しませても確認すべきだったのではないか。そうも考えてしまう。
「もう、遅いがな」
 今更、過去のことを言っても仕方がない。
 それはわかっていても、どうしても考えてしまうのだ。
 もし、自分がずっとキラの側にいられたら、こんなことにはならなかったのだろうか。
 キラの側にいて、ずっと抱きしめていられたら、彼は全てを話してくれたのかもしれない。
「でも……まだ遅くないはずだ……」
 キラさえこの腕の中に取り戻すことができれば、きっと、昔のような関係を築き直すことができる。アスランは、そう信じていた。
 だから、と心の中で呟きながら、また視線を報告書に落とす。
 今は、その足取りを掴むことが先決だ、とそう思う。
「……キラ……」
 この呟きは、彼の耳には届かない。だがきっと……とアスランは心の中で呟いていた。

 キラが戻ってこない。
 また作業に夢中になっているのだろうか。
 そう考えて、いつもの場所に足を運んだのだが、その姿はそこにはなかった。
「……いったい、どこに……」
 かすかに眉を寄せると足音も荒くきびすを返す。
「どうしてあいつは……」
 人の心をここまでかき乱すのか。
 放っておけばいいのだろうが、それもできない。だからといって、優しくしてやれないというのも事実。
 好きなのに、憎い。
 憎いのに好き、というこの感情を、もてあましているだけでも厄介なのに、とレイは心の中で呟く。
 何よりも悔しいのは、未だにキラが自分をまっすぐに見てくれないと言うことだろうか。
 自分たちの間には、いつでも《ラウ》がいる。
 キラが自分と彼を混同しているわけではない。それでも、面白くないというのは事実だ。
「……俺だけを見ていればいいんだ……」
 思わず、レイはこう呟いてしまう。
 それとも、自分だけを見つめるようにさせるか、だ。たとえ、多少強引でも……と拳を握りしめる。
「ともかく……キラを捜さなければ、な」
 それでなければ、何も進まない。
 そんなことを考えながら、レイは周囲を見つめる。
 うっすらとつもった埃の上に、キラの足跡を見つけてレイはそちらへと歩き出した。
「……どうして、キラは……」
 この先にあるものが何であるのかを思い出して、思わずこう呟く。
 彼にとって、あれは辛いものではないのか。いや、あれ自体はそうでもないかもしれないが、その周囲にあるものは、間違いなくキラの心を傷つけているはず。
 直接関係はない自分だって、あれを見るのはいやだ、と思う。
 それなのに、どうして……と考えながら、レイはキラの足跡をたどっていった。
 予想どおり、と言うべきか。
 キラの足跡は一番奥――人工子宮がある部屋まで続いていた。
「キラ、いるのか?」
 呼びかけながらそこに足を踏み入れる。
 そうすれば、その端で呆然と座り込んでいた彼の姿が確認できた。
「……キラ……」
 ゆっくりと近づけば、その腕に何かが抱きしめられているのがわかる。それは一体何なのだろうか。
「ここにいたのか。食事だ」
 こう言いながら、キラの肩に手を置く。その刺激に、キラはレイを振り仰いだ。
 その瞬間、キラが抱きしめていたものが見える。
 それは、ラウが付けていた仮面だ。
 どうしてキラがそれを……と思うよりも先に、レイの中で感情が爆発をする。そのまま、彼はそれに身を任せた。