「……ずるい……」
 戻ってきた瞬間、アウルがこう告げる。
「なんで、ステラが……」
 キラを機体に乗せてこの間に戻ってきただけではなく、膝枕でねているんだよ! と彼は言いたいらしい。
「お帰り、アウル」
 しかし、その怒りもキラの微笑みだけであっさりと霧散するあたり、なんと言えばいいのだろうか、とムウは思う。
「アウル達のおかげで、無事に帰ってこれたね」
 さらにキラがこう付け加えれば、それこそしっぽがあれば振り切れんばかりに降っているのではないか、と思われるほどだ。
「そう思うなら、俺も膝枕!」
 ね、いいだろう……と言いながら、アウルがキラに駆け寄っていく。
「膝枕は……ちょっと無理かな?」
 ステラが熟睡しているから、とキラは苦笑を浮かべる。
「なんだよ」
 起こせばいいじゃん……という彼に、キラの苦笑はますます深まった。
「でも、肩は空いているよ。それじゃ、だめ?」
 言葉と共に自分の隣を軽く手で叩く。
「……それでいいや」
 仕方がないから……と口にするものの、その表情が嬉しそうだ、と言うことをしっかりとムウは見て取っている。
「ったく」
「まぁ、キラが受け入れてくれているからさ。あれはあれでいいんじゃねぇの?」
 ステラもアウルも、それで安定をしているんだし……とスティングが笑った。
「人ごとのように言うんじゃねぇよ、お前も」
 そういう彼も、二人のように態度に出さないだけで結構、キラに依存していることは事実だ。それでも、二人のように素直に態度に出せないのは、彼の性格だからだろう。
「……あいつらほどオコサマじゃないからな、俺は」
 キラを見ているだけで、それでいいのだ……と彼は口にした。それに、彼はいつでも惜しみなく感謝の言葉をくれるから、とも。
「やせ我慢にならないようにな」
 ともかく、キラの側にいろ……とムウは口にする。
「シンもいるし、そもそもこの艦の中では心配いらない、とは思うが……万が一と言うこともあるからな」
 その時は、任せた……と言えばスティングは頷いてみせる。
「本当は、ゆりかごに入った方がいいんだろうがな、お前らは」
 戦闘を終えたばかりだし……とムウは呟く。
「もうしばらくなら、大丈夫だろう。先に用事を済ませてくればいい」
 そして、キラの側にいられるようになってからでも間に合うだろうという彼の頭を、ムウはぽんと叩く。
「体調がおかしくなったら、遠慮なく言えよ」
 こう言い残すと、ムウは部屋を出る。その瞬間、こちらに向かってきているらしいラクスとカガリの姿が確認できた。

「私は……何をしていたのだろうな」
 デュランダルはこう呟く。
「ギル」
 それを耳にしたのだろう。レイが不安そうに声をかけてきた。しかし、それに言葉を返すことができない。
「あの子をこの手に取り戻すことを……そして、私が望む世界を作ること……そのために動いてきたのに……」
 それは全て間違っていたのだろうか。
 いや、それよりも、自分が《ヴィア》に恋をしたこと自体が間違っていたのか。そして、彼女の血をひく子供を欲しい、と思ってしまったことが。
 いや、思うだけならば良かったのかもしれない。それだけならば少年の日の片恋で終わったのだろう。
 だが、自分にはその願いを叶えるだけの材料があった。
 その結果、ヴィアを失い、そして、我が子を腕に抱くこともできなくなった。
 しかも、それを行ったのが自分の実の《父》だったとは。
 自分の気持ちを彼が快く思っていなかったことは知っていた。だからといって、そこまでするはずがない……と思っていたこともまた事実。
 しかし、その考えは甘かったのだ、とあの光景が教えてくれた。
 無惨に破壊されたあの場所で、自分は何度、彼女と出会っただろう。そして、何度、生まれたばかりのあの子の微笑みを目にすることができたか。
「全ては、夢だった……と思うべき、なのか」
 それとも……と呟いたときだ。
「それでも……ギルは、俺を助けてくれました」
 あそこから……とレイが口にする。
「それが、キラさんの代わりだったとしても……それでも、俺を救ってくれたのは、事実です」
 それに、自分に向けられるデュランダルの感情が嬉しかった……とレイは付け加える。
「……ギルは……キラさんが、自分の《息子》じゃないと、だめなんですか?」
 自分が自分であるように、キラをキラ個人として見られないのか。レイはさらにこう問いかけてきた。
「それが、わからないのだよ」
 自分にとってキラはずっと《息子》という存在だったのだから。今更、それを他の別の存在に置き換えることができるか、と言われてもぴんと来ないのだ。
「あの子自身が、好ましい存在だ……と言うことはわかっているがね」
 それでも……とため息をついてしまう。
「……ギル……」
 そんな彼に向かって、レイは何かを口にしようとする。しかし、言葉を飲み込んでしまった彼に、デュランダルはかまわないよ、と微笑みかけた。
「キラさんだって、多分、とまどっているんじゃないかと……だから、まずは親しくなることを優先した方がいいのではないか、と……」
 思うのだ、とレイは告げる。
「そうだね」
 そうするのが一番なのだろう。
 だが、まだ諦めきれない自分がいることに、デュランダルは気づいていた。