まさか、ラウが乱入してくるとは思わなかったのだろうか。
 今まで一糸乱れぬフォーメーションを見せていた地球軍のジンに隙ができる。
「ミゲル!」
 こう呼びかければ、彼も心得たものだ。即座にそのうちの一機にとりついた。一対一であれば、彼が負けるはずはない。
 ならば、自分は残りを引き受けるべきか。
 そう考えながら、ラウはまず、手近にいた一機にとりつく。
「……すまないな……」
 別段、相手に恨みがあるわけではない。むしろ、そのあり方には同情すら覚えると言っていいだろう。一歩間違えば、自分もまた彼等と同じ立場だったかもしれないのだから。
 だが、今の自分には守るべきものも、戦うべき理由もある。
 それだけでも、自分が幸せなのだ、とラウは思う。
 何よりも、彼が自分を慕ってくれている。その気持ちが、どれだけ自分を救ってくれているか、本人は知らないだろう。
 それでいいのだ。
 彼は、最後までそれを知らないままでいい。
「ただ、あの子を悲しませるわけにはいかないのでね」
 自分が傷つくわけにはいかないのだ。そのために、相手の命を奪っても……とラウは心の中で呟く。
 そのまま、相手の機体をロックする。
 そして無造作に引き金を引いた。
 一息に離脱をすれば、その背後で大きな炎の花が開く。その花は消え去り、残りはそのまま飛散していくだろう。
「いずれは、同じ運命をたどるかもしれぬが」
 それは今ではない……と呟くと、ラウは次の獲物めがけてシグーを移動させていった。

 目の前の三機は、連携が取れているのかいないのか。それがよくわからない、とカナードは思う。
 それでも、厄介なことは間違いがない。
「……そういう風に、意識が操作されているのか?」
 無意識下でも、お互いを傷つけないよう、そしてそれなりに協調するように条件付けがされているのかもしれない。
 そうなのだとするならば、かなり厄介だ……としか言いようがない。
 もちろん、自分以外の三人をあてにしていないと言うことではないのだ。
 ただ、彼等と自分の動きの間に微妙なずれがある。それが、カナードにはしゃくに障るのだ。
「今まで一人だったからな」
 だから、誰かと共に戦うと言うことになれていないだけなのだろう、自分が。
 彼等の責任ではないのだ、とカナードは思い直す。
「……それにしても、どうするか、だな」
 下手に撃破すれば、プラントに衝撃を与えることになる。最悪、崩壊を招くことになるだろう。そうなれば、キラの命がどうなるか。考えなくてもわかってしまう。
 かといって、動きだけを止めることも難しい。
「一瞬でもいい。あいつらの動きを止めることができればな」
 そうすれば、勝機はあるのだ。
 それが見えないからこそ、あるいは自分はいらついているのかもしれない。
 あるいは、キラ達の様子が伝わってこないからか。
 もっとも、後者に関しては心配していない。
 ムウが側にいる以上、どのようなことをしたとしてもキラのことだけは守るはずだ。
 と言うことは、やはり目の前の機体の動きを止められない自分にいらついているのだ、とカナードは結論づける。
「ともかく、こいつらをあそこから引き離さないと」
 終わって出てきても、そこをねらわれてしまうかもしれない。
 こいつらにキラを殺す石はないとしても、少しでも危険は遠ざけておきたい、と思う。
「アウル、スティング!」
 こいつらを少し引き離すぞ! とカナードは声をかけた。
『わかった!』
『……ムウに言われているからな』
 それぞれの口調で彼等はカナードに言葉を返す。
 二人の言葉に、カナードは苦笑を浮かべた。そのまま、相手の機体に強引に組み付く。そして、そのままこの場から少しでも離れようとバーニアをふかした。

「……つまらない……」
 ステラは思わずこう呟いてしまう。だが、自分がここから移動することでキラとムウに危険が及ぶかもしれない……と言われては、勝手に戦闘に参加をするわけにもいかないだろう。
「早く帰ってくればいいのに」
 そうすれば、自分にもできることがあるに決まっている。
 こんな事を考えたときだ。
 彼等が入った入り口から人影が駆けだしてくる。
「キラ?」
 そう思って、モニターを調整した。しかし、そこに映し出されているのは紅いパイロットスーツだ。
「……違う……」
 つまらない、とステラは視線を移そうとした。だが、すぐに思い直す。
 彼等はキラと一緒に行ったメンバーだ。その彼等が出てきた、と言うことは、中での作業が終わった、と言うことだろうか。
「出てきたから、キラも来る?」
 だといいな、と彼女は心の中で呟く。
 そうすれば、自分が彼等を守ってやるのだ。
 カナードにも『そうしろ』と言われたのだし。そんなことを考えていたときだ。
『状況はどうなっている?』
 通信機から声が聞こえてくる。それが《アスラン》というキラの幼なじみの声だ、とステラは即座に認識した。だから、教えても大丈夫だ、とも。
「上で交戦中」
 言葉と共に、データーを送信する。
『ありがとう。みなはすぐに出てくる。後を頼んでかまわないか?』
「わかった」
 この言葉にステラはすぐに頷き返す。それを確認して、二人が乗り込んだうちの一機――紅い方が三人の援護のために動き出す。そして、もう一機が警戒態勢を取った。
 ステラもまた同じように警戒のために機体の位置を変える。
 そんな彼女の視界に、今度こそキラとムウの姿が映し出された。