「……見ていられんな」 敵と互角に戦えているのがミゲルだけ、という状況は……とクルーゼはため息をつく。 「経験の差、と言うべきなのか」 それとも別の理由なのか。どちらにしても、彼等では荷が重かった……と言うことだろうか。 どちらにしても、放っておくわけにはいかないだろう。 「……彼等のバッテリー残量はどうなっている?」 一番先に確認しておかなければならないことはそれだ。 「ミゲル機は、まだしばらく大丈夫かと……」 つまり、他の機体はバッテリーの残量が問題なのか、とCICからの報告で判断をする。だとするなら、適時バッテリーの充填をさせなければいけないだろう。 そのためには、やはり自分が出なければいけないか。 「アデス、後を頼む」 そう考えてラウはきびすを返す。 「この状況では仕方がありませんな。お気を付けて」 後はお任せください、という彼に頷くとそのままブリッジを出る。 「……キラにだけは、近づけさせん」 既に、内部に敵が侵入していることは連絡が来ていた。だが、あちらにはムウとカナード、それにアスランもいる。心配はいらない、と思う。 だが、こちらはどうだろうか。 「予想外の事態は、いつでも起こりえるものだ」 だから、いくつも手を打っておく必要があるのだが……とラウは呟く。だが、今回だけは後手に回ってしまったな、と。そう思うのだ。 地球軍からあちらに増援が来る可能性は考えていた。 しかし、それがまさか彼等によって作り出された《戦闘用コーディネイター》だとは思わなかった、というのは事実である。 「……どちらにしても、たいした問題ではあるまい」 修正が可能なランクだ……とラウは自分に言い聞かせた。 そうなるように、自分の実力を磨いてきたのだから、とも。 「私には天使が付いているしな」 ぽつりと呟かれた言葉の意味を知る人間はいないだろう。もちろん、誰に聞かれるつもりもなかったが。 そうしているうちに、MSデッキにたどり着く。 「クルーゼ隊長! 出撃準備はできております。パイロットスーツは……」 「必要ない」 一言言い返すと、ラウはシグーのコクピットに滑り込んだ。 そのまま、手早く機体を起動させる。 「出撃許可を」 即座にブリッジに許可を求めた。 『了解です。発進シークエンスを開始します』 間髪入れず返ってきた言葉に、ラウは頷き返す。そして、久々の実戦に意識を集中させた。 「……終わったよ」 こう言いながら、キラは最後のデーターカードを抜き取る。 「とりあえず、ここのマザーにある全てのデーターはバックアップしたから」 整理は他の場所でもできる、とキラは宣言した。 「そうか」 ならば、こちらは撤収してもかまわないな……とムウは口にする。そのまま、彼は背後を振り返った。 「こちらは終わりましたが……どうなさいますか?」 後はあちらの判断次第だ、とムウは言外に告げている。 「そうか……ここの施設を、再び封印する事は可能かね?」 それにタッドがこう聞き返してきた。 「……キラとカガリがここから出れば、再び元の状況に戻るはずです。少なくとも、このまま何もしなければ、ですが」 「そうか。では……戦いが終わるまでは、このまま誰の目にも触れさせぬ方がいいのだろうな、ここは」 本来であれば、全てを持って帰りたい。それが彼の本音だろう。 だが、これだけの施設を搬出するには大がかりな準備が必要だ。何よりも、現在は外で戦闘がおこわなれている状況でもあるし。そう判断したのだろう。 「では、そのように。アスラン?」 「わかっていますよ。俺とディアッカが先に行きます」 そして、自分たちの機体で出れば、連中を引きつけることが可能だろう、とアスランが言葉を返してくる。 「後は……その隙に脱出してください」 言外に、ムウとレイは戦わずにキラ達の護衛に付け、と彼は続ける。 「……それが一番、確実だろうな」 悔しいが……と言い返したのはムウだ。 「兄さん?」 「お前に作ってもらったOSでそれなりに動かせるけどな。戦闘となると、まだまだ足手まといだ……というだけだ」 悔しいが……とムウは口にするものの、その表情からはそう思えない。それは、彼もキラを優先しているからなのだろうか。 「……何故、俺が……待機、なのですか?」 そんなことを考えていたキラの耳に、レイの声が届く。 「俺はまた……キラさんとギルを連れて、逃げるかもしれませんよ?」 さらに続けられた言葉に、誰もが苦笑を返す。 「君はもう、そんなことをしないよ」 違う、と問いかけたのはキラだ。 「キラ?」 「キラさん?」 驚いている周囲の者達の中で、キラに近しい者達は当然だ、と言うような表情を作っている。 「君は、もう、自分が何をすべきなのか……知っているでしょう?」 この場で、と微笑むキラに、レイは困ったような微笑みを返す。そんな彼等を、デュランダルだけが複雑な視線で見つめていた。 |