「兄さん?」
 キラの問いかけに、ムウは首を横に振る。
「そこは、ダミーだ」
 でなきゃ、あの時に壊されているだろうが……という言葉にキラはそうなのか、と思う。
「ダミーかね?」
 タッドが問いかけてきた。
「一応、それらしい施設はあります。ここは、コーディネイト施設がありますので」
 しかし、一番重要な施設ではない、とムウは口にする。
「ブルーコスモスに区別が付いたかどうかはわからないですが、ね」
 中を確認しますか? とムウは周囲に問いかけた。
「……いや、いい」
 一瞬のためらいの後にタッドはこう告げる。
「なら、目的の施設への入り口はどこに?」
 アスランの問いかけに、ムウはさらに奥へと進んだ。そして、ある場所で立ち止まるとなにやら操作をしている。次の瞬間、何もなかったはずの壁の一部が不意に開いた。
「……こんな所に……」
 継ぎ目も何もなかったのに……とディアッカが呟く。
「知らない人間は見逃すだろう?」
 それが狙いだったみたいだが……と言いながら、ムウがそこに体を滑り込ませる。もちろん、他の者も次々とその後に続いていく。
「何か……執念みたいなものを感じるのは……気のせいか?」
 カガリがこんなセリフを口にする。
「執念……って言うよりは、自分たちの研究を守りたいだけじゃないのかな」
 それで生まれてくるはずだった子供とか……とキラは言い返す。
「あぁ、そう言うことなら、納得だな」
 子供を守ろうとするのは、女性としては当然の本能だしな……という言葉にキラは小首をかしげてしまう。自分が男だからだろうか。その気持ちはぴんと来ないのだ。
「どちらにしても、ここは被害が少ない。と言うことは、その人達の願いは叶えられたと言うことかな」
 ゆっくりと階段を下りながら、カガリはさらに言葉を口にした。
「そうだろうね。ここにこんな通路があるなんて、誰も思わないだろうし」
 だが、そうであるのならば、自分たちがここに来なくても良かったのではないか……とふっとキラは思う。ムウやラウが全てを知っているのではないか、とも。
 それとも、ここの先に自分たちが必要とされる何かあるのだろうか。
 問いかけなくても、いずれわかることだ……と思うものの、キラは不安を感じてしまう。
 あるいは、それはこの場に関係していることではないのかもしれない。
 それがなんだと聞かれても困るのだが……とキラは心の中で呟く。
 だが、このまますんなりとラウ達の元へ帰れないのではないか。そんな気がするのだ。
 それでも、カナード達もいてくれるのだから、大丈夫に決まっている。キラは自分にそう言い聞かせていた。

「……戦闘用コーディネイター……か」
 目の前に現れた者達を見て、ナタルは複雑な表情を作る。
「本来、それが正しい姿でしょ?」
 こう言ってきたのは、フレイだ。
「私たちの役に立つために生まれてくるのがコーディネイターなら、あいつらと戦うためにこいつらが生まれたとしても、おかしくはない、ってパパが言っていましたわ」
 その言葉は正しいのだろうか。
 だが、とは思う。
 ザフトと戦うために人為的に能力を向上させた結果、他人が身体を管理してやらなければ正常な日常を遅れないものや、目の前の存在のように意識を縛られたコーディネイターを使わなければならないのか。
 その事実が悔しい……とも思う。
 目の前のような存在を使わなくても、自分たちの存在だけで勝てればいいのに、と。
 しかし、現実問題としてそれができないからこそ、この者達の力を借りなければいけないのか、とナタルは唇をかむ。
「……ともかく、お前達は外にいるザフトの相手をしろ。その間に、あの三人を内部に侵入させればいいからな」
 そして、戦闘がないのであれば、あの三人の活動時間も増えるだろう。
「撃破しろとは言わない。少しでも長い時間、奴らを引きつけておけ」
 この命令に、目の前の者達は表情を変えることなく頷いてみせる。その様子が気持ち悪い、とナタルは思う。
 確かに、道具としてはこの方がいいのかもしれない。
 しかし、これらよりもプラントのコーディネイターの方が『生きて』いると感じられるのは錯覚ではないだろう。
「……キラが、こんな風になるのは……ちょっといやかも……」
 どうやら、フレイも同じ気持ちらしい。
「なら、がんばって説得するんだな」
 自分から協力してくれれば、こんな風にしなくてすむぞ……とナタルは声をかける。
「そうよね。キラは優しいもの」
 だから、大丈夫。
 こう言って微笑むフレイを、ナタルは複雑な表情で見つめていた。

「このまま、何事もなく終わってくれれば、一番いいのだろうがな」
 それが不可能だ、とラウにはわかっていた。
 実際、地球軍のものらしい機体が先ほどセンサーに捕らえられたのだ。
「……隊長」
「わかっている。ゼルマンとグラディス艦長に、警戒を強めるよう伝えてくれ」
 そして、内部にいる者達にも……とラウは命じる。
「やはり、戦闘になりますか」
 その命令に、アデスがため息をつく。
「奴らにしてみれば、我々がこのまま独自に発展していくのはいやだろうからな」
 自分たちの手の中で踊っているのであればともかく……という言葉に、彼は静かに頷いてみせる。
「だから、ヒビキ博士夫妻の遺産は、消し去りたいのだろう。そして、有能な人材を取り込みたい、と考えているはずだ」
 それで目を付けられたのが《キラ》でなければ、ここまで真剣に動かなかったかもしれないな、という言葉をラウは飲み込む。
「増援が着いたと言うことは、二手に分かれて行動をすると考えていいだろう」  そうさせないようにしなければいけないのだが。こう付け加えるクルーゼに、アデスはしっかりと頷いて見せた。
「即座に手配を行います」
 そのまま彼はブリッジ内のものに指示を出し始める。
「……どのようなことになろうとも、彼らだけは守らなければいけないのだがな」
 その様子を見つめながら、ラウはこう呟いていた。