「……内部に進むのは、カガリ嬢とキラ、それにエルスマン議員、デュランダル氏だ。護衛の役に付く者に関しては、後で告げる」 ラウのこの言葉を聞きながら、ディアッカは小さくため息をついた。 まさか、ここに父が来ているとは思わなかったのだ。 「ただ、地球軍がどのような動きをするかわからない以上、護衛は最小限の者だけになるがな」 それだけに厳選させてもらおう……とラウは続ける。 「……彼等が、このままおとなしく引き下がってくれるとは思えないのでね。さらに増援が来られては、三隻だけでは対処が難しいかもしれん」 そうである以上、人員を振り分けるのは仕方がないだろう……と彼は口にした。それはもっともな判断だ、とは思う。ただ、問題なのは、誰が残って誰が行くか、ではないか。 しかし、ラウはまだそれを口にしようとはしない。 「問題の施設には、コーディネイターの未来につながる研究が隠されているそうだ。地球軍はそれを我々に渡すまいとすることは目に見えている。どちらに振り分けられようとかなり厄介な状況が待っているだろう、と言うことは想像ができる。 「カガリ嬢とキラを伴うのは……その施設に入るために二人の存在が必要だから、と言うことだよ」 そして、そのためにはオーブからの護衛陣には来てもらうことになるだろう……とラウは付け加えた。 「あの三人は、どちらになるのですか?」 ふっと興味を覚えてこう問いかける。ムウが残るのであればいいが、そうでないのならば一緒にいるのはごめんだ、とも思うのだ。 はっきり言って――と言っても実際に顔をつきあわせたのは数回だけだが――あの三人はムウの命令がなれば何もしない。いや、ニコル達の話を総合すれば、キラの言うことは例外的に耳を貸すらしいのだが、彼もあちらの向かうメンバーの一人である以上、頭数には入れられないだろう。 「彼等は……中で待機だ」 君達と一緒に行動はしないから安心したまえ……と低い笑いと共に告げられる。それはひょっとしてからかわれているのだろうか、とディアッカは考えてしまう。 「ともかく、我々の行動次第では全てが失われることになるかもしれない。その事実だけは覚えておくように」 この言葉に誰もが無言で頷く。 そもそも、自分たちはそのために戦ってきたのだ。 もし、未来をこの手でつかめるならそれ以上のことはないだろう。 ディアッカはそう考えていた。 「俺たちは一緒に行けないのか?」 憮然とした様子でスティングがムウに問いかけている。 「お前らは、施設の外で待機だ。カナードと一緒にな」 あいつらが来るかもしれないだろう、とムウは言葉を返す。その時、対処できるのはお前らだけだ……という言葉も、ある意味嬉しいものだ。 「……でも、俺はキラと一緒がいいな」 アウルはぼそっと本音を口にする。 「ステラも」 あいつは一緒なんだろう……と視線を向けた先にいるのはシンだ。 「……お前らはMSが使える。彼はできない。その差だな」 キラの護衛なら大丈夫だが、そのほかとなれば難しい……とムウは口にする。それができるのはお前達だけだ、とも。 「いいのか? もしお前らが付いてきたせいで……キラがまた拉致されたなんて言うことになるかもしれないぞ」 さらに脅かすようにこう言ってくる。 「そしたら、キラと一緒に、いられなくなる?」 ステラが泣きそうな表情でムウに問いかけた。それに彼は苦笑を浮かべながらも、それでもしっかりと首を縦に振って見せた。 「ここの連中もオーブの人たちも、キラと俺たちの人権を守ってくれているだろう? だから、会いたいときにはいつでもキラに会えた。だが、あいつらがそうしてくれるとは思わない」 それを一番よく知っているのはお前らだろう……という言葉にステラは小さく頷いてみせる。 「……ここの連中は、ずいぶんとまた俺たちには寛容だったよな、そういや」 ふらふらと出歩いていても何も言われなかった、とスティングは頷く。自分たちがどのような存在であるか、彼等が知らないはずはないのに……とも付け加える。 「あっちにいた頃よりは、確かに居心地がいいよな。キラもいるし」 それに関しては、アウルも認めないわけにはいかない。しかし、それとこれとは違いのではないか、とも思うのだ。 「それとも、ラウの指示の方がいいか?」 それでもいいぞ……と言われて、アウルは思わず首を横に振ってしまう。 彼が嫌いだというわけではない。 それでも、どちらかを選べと言うのであれば、カナードの方がいいかもしれない……と思えるのは、好みの問題なのだろうか。それとも、別の理由からなのか。 アウルにそれを判断しろ、というのは難しいことだった。 「ともかく、キラのためには外で見張ってろ……って言うんだな、ムウは」 スティングは話をまとめるかのようにこう口にする。 「そう言うことだ。お前らが外で見張っていてくれれば、俺たちとしては安心して中の探索をできる、と言うわけだよ」 信頼している相手でなければ背中を任せる気になれない。 だからといって、ラウには外でザフトの艦を指揮をしてもらわなければいけない。そう考えれば、彼に『付き合え』とは言えないだろう。 それならば、同じくらい信頼しているお前らとカナードにいて欲しいのだ。 「……わかったよ……その代わり、終わったら、キラの側にずっといていいんだよな?」 これだけは譲らない……とアウルは言い切る。 「キラがいいって言ったらな」 それだけは譲れない……とムウは口にした。疲れているかもしれないしな、と。 「……わかった。その時は我慢する」 「ステラも……我慢する」 こういうアウル達にスティングはため息をつき、ムウは苦笑を深めた。 「……あそこが、僕たちが生まれた場所……」 目の前に広がるコロニーを見つめながら、キラはこう呟く。 自分は、あの優しい両親の子供として生まれたのだ。そう信じていたのは事実。 しかし、それは違った。それどころか、人の胎内で育ったわけでもないらしい。それを聞かされてショックを感じなかった……と言えば嘘だろう。 「それでも、あそこは楽園だったんだよな」 俺たちにとっては……と声をかけてきたのはカナードだった。 あるいは、彼がいてくれたからこそ、自分はまだ冷静でいられたのかもしれない。自分と同じ所から生まれた《兄》がいてくれるなら、自分は一人ではない、と思えるのだ。 「……そう、なんだ」 キラは小さな呟きを漏らす。 「いつか……そうだな、この一件が終わったら、俺が覚えていることは全部教えてやるよ」 キラがどれだけ《母》に愛されていたかを……といいながら、彼はそっと頭を自分の肩へと引き寄せる。 「うん……」 お願い……とキラは囁き返す。 「それこそ、兄さん達が喜んで教えてくれるだろうけどな」 というより、話し出したら止まらないと思うぞ……という彼にキラは苦笑を浮かべてしまった。 |