家の前まで戻れば、ラウとカナードが心配そうな表情で出迎えてくれた。 「ありがとうございました」 中まで入らずに、アスランが足を止める。 「アスラン?」 どうして、とキラは視線を向けた。いつもは、レノアが帰ってくるまで一緒にいるのに、とそう思ったのだ。 「僕は、これで帰るよ」 その方がいいだろう、と口にする彼が、ムウを気にしているのだと言うことはキラにもわかる。だが、とも思うのだ。 「母上には連絡済みだぞ」 そんな彼に向かって、カナードが声をかける。 「迎えにいらっしゃるまでは預かる、と約束したのだがな」 俺に、レノアとの約束を破れ……というのか? とカナードはまじめな口調でアスランに問いかけた。 「そう言うわけでは……」 「では、どういう意味だ、アスラン」 はっきり言え、と告げる言葉は、相変わらずぶっきらぼうと言えるものだ。だが、知っている者はその口調が柔らかいと理解できる。もちろん、その中にはアスランも含まれていた。 「せっかくの家族の再会を……僕が邪魔をしては申し訳ないですから」 そんなことはないのに、とキラは思う。だが、それをなんと言えばアスランにわかってもらえるのかがキラにはわからなかった。だから、救いを求めるかのようにカナードとその背後にいるラウに視線を向ける。 「そう考えているのであれば、学校にいるときのキラの様子を教えてくれないかな?」 心配いらないと視線で答えを返してくれると、ラウは口を開く。 「家にいるときの様子はカナードから聞けるが、学校の話はそう言うわけにはいかないからね」 キラは、絶対に自分の失敗は教えてくれないから……と笑いをふくませながら、彼はさらに言葉を重ねた。 「そうだよな。どうせ、おねしょをいつまでしていたかなんて、教えてないんだろう?」 さらに、ムウがからかうような口調で参戦をする。 「ムウ兄さん!」 何でアスランの前でそんなことを……とキラは彼をにらみつけた。しかし、それが彼の言葉を止められない事はキラもわかっていた。 「そういうがなキラ……一番被害を受けたのは、俺なんだぞ」 何回、洪水の後始末をさせられたと思っているんだ、と付け加えられては、もう黙るしかない。 「と言うわけで、こいつの小さい頃の話もしてやるからさ。興味があるなら、あがっていってくれ」 自分以外は皆コーディネイターだし……とムウは気軽な口調で告げる。 「……わかりました……」 ムウに対する複雑な感情は完全に消せないのだろう。それはきっと、彼が《地球軍》の《中尉》という地位を持っているからだと言うこともわかる。 でも、自分の大好きな《兄》だから、アスランも嫌わないで欲しい。 こう考えてしまうことはわがままなのだろうか。キラはムウの腕の中からアスランの頭を見下ろしながらこんな事を考えていた。 ムウの膝に小さな頭が二つ乗っかっている。 なんだかんだ言っても、子供を相手にするのはキラでなれている彼だ。最終的にはアスランの警戒心も薄めることができたと言うことだろう。 そんな彼等の様子を、ラウはほほえましいと思いつつも手放しで喜べないと考えてしまう。 「……ラウ……」 どうかしたのか、とムウが低い声で問いかけてくる。 「あぁ……」 言葉とともにラウは眉を寄せた。 「あるいは……ここにキラをおいておくのも、難しいかもしれん」 今回のことを調べているうちに、厄介な情報に行き着いたのだ、とラウはあっさりと口にする。隠しておいても、いいことなど何もないのだから、こういう事はさっさと情報を共有し、打開策を探すに限る、とそう判断したのだ。 「それでか……カリダさんとハルマさんが、急遽、マルキオさまに呼び出されたのは」 あちらでも、それなりの情報を掴んでいる、と言うことだろう。いや、オーブ軍の情報局を使えるだけ、自分たちよりも詳細なものを掴んでいる可能性がある。 「あるいは……どこかで情報が漏れている、とわかったか、かもしれないですよ」 さりげなくムウとラウの前にはアルコールを、自分用にはコーヒーを置いていすに座りながらカナードが口を開く。 「キラが……我が家のメールサーバーに不正アクセスをしようとしている奴がいるみたいだ、と言っていましたからね」 家のセキュリティシステムを作ったのは、ハルマとキラだ。そして、日常的に管理をしているのがキラなのだ、と言うことを聞いてラウは苦笑を浮かべる。 「基本を教えた人間としては、喜ばしいと言うべきなのかな」 その技量の伸びには、と付け加えながら、ムウを見つめた。 「俺には、とてもじゃないができないけどな」 そっち方面は早々にあきらめた……と言い返してくる彼も、必要があればそれなりにできることを自分たちは知っている。ただ、彼は面倒くさがってやらないだけなのだ。あるいは、上に目をつけられないようにしているだけなのかもしれない。 「どちらにしても、情報だけは少しでも多く入手できるようにしておくべきだろうな」 どう転んでも、対処ができるように……とムウは口にする。 「それに関しては、当然のことだろう」 情報さえ事前に入手できていれば、どうにかなるのだ。 「まぁ、俺も今年中に月面に移動になる予定だし……そうすれば、もっとちょくちょく顔を出せるか」 そうなれば、フォローもしやすくなるだろう、笑うムウに、ラウは小さく頷いてみせる。 「そうしてもらえるとありがたい。私は、どうしても一番遠い場所にいなければならなくないからな」 プラントは遠い。 今はまだ、こうしてここに来ることも可能だが、それもいつまで続くかわからないのだ。 そうなれば、ムウやカナードに任せるしかないだろう。 確かに、それは辛い。しかし、自分がプラントにいなければならないこともラウは理解していた。 「お前があちらにいてくれるから、俺はある意味、安心していられるんだがな」 それに、少なくとも彼等はこう言ってくれる。 だから、十分だ。 「……キラが寂しがっていますけどね」 それだけが問題だ、と苦笑を浮かべながらカナードが告げた。 「私も、キラの側にいられないことは寂しいが……今の情勢を考えれば、な」 それでも、いつかまた、一緒に暮らせる日が来るだろう。 「一番重要なのは、キラを守ること。そして、悲しませないこと……だからな」 だから、いつかはかならず一緒に暮らそう。ムウがこう告げる。 「その前に、お前の場合、身を固めなければいけないんじゃないのか?」 小さな笑いとともにラウはこう言い返す。 「そうだな……キラのことを認めてくれて、俺と同じくらいにかわいがってくれる相手がいれば、考えてもいいかもな」 それは何か違うのではないか。第一、それでは相手もキラにめろめろにならなければ行けないと言うことではないだろうか。 結婚相手としてそれはどうなのかとも思う。 しかし、自分たちの家族構成を考えればそれも仕方がないのかもしれない。こう考えることにしたラウだった。 |