なにやら、プラントから誰か来たのだという。だが、それはキラ達には関係のないことだった。
「……キラさん……」
 レイの元に顔を出せば、彼は困ったような表情を作る。
「迷惑だった?」
 そんな彼に向かって、キラはこう問いかけた。そうすれば、彼は即座に首を首を横に振ってみせる。
「良かった」
 こう言ってキラが微笑んだときだ。スティングがレイの側に寄ってくる。そして、その手を戒めていた枷をはずした。
「……許可は取ってある……俺たち三人がいれば、お前をそう簡単に逃がすはずがないしな」
 三対一なら、という言葉にキラは彼等の矜持を感じる。それでも、一対一とまでは言わないところは、ムウの教育のせいかなのだろうか。どちらにしても、自分を過大評価しないことはいいことだ……と考えるのは、カナードの言葉があったからだろうか。
「……礼は言わない」
 そんな彼等に向かって、レイはこう口にする。
「お前な……」
 話を聞いていたシンがあきれたように彼に詰め寄ろうとした。
「いいって。別段、気にしてねぇし」
「……キラが、ほめてくれるなら、いい」
 しかし、アウルとステラがこう言ってくるのを聞いてはそれ以上、行動に移すのはやめたらしい。その事実に、キラはとりあえず安堵に胸をなで下ろす。
「……ともかく、どうかしたんですか? ストライク、でしたっけ? あれのOSの調整をされていた、と聞きましたが」
 シンが話題を変えるかのようにこう問いかけてきた。
「プラントから、偉い人が来たんだって。その人と……デュランダルさんとカガリ……、が話し合いをするから、兄さん達は同席しなきゃいけないんだって言っていた。だから、その間、仕事ができないから」
 レイの顔を見に来たのだ、とキラは微笑む。心配だったし……と付け加えれば、レイがそれこそ困ったような表情を作った。
「……俺は……キラさんに心配して頂く権利を……」
 手放した人間だ……とレイは口にする。
「どうして?」
 そんな彼に対し、キラは小首をかしげて見せた。
「レイ君を心配するのは、僕の勝手だよ? それなのに、どうしてそう言うことを言うのかな」
 それとも迷惑だったのだろうか。キラは視線を落とすとこう呟く。
「そんなことはありません!」
 次の瞬間、レイが叫ぶようにこう口にする。
「なら、それを素直に態度にだしゃいいじゃん」
 あきれたようにアウルがこう告げた。そして、まるでレイに見せつけるかのようにキラに抱きついてくる。
「ずるい」
 そうすれば、負けじとステラも同じように抱きついてきた。アウルはともかく、ステラはちょっと困るかな……とキラは心の中で呟く。本人にそんな意志はないとはわかっていても、女性だし、と思う。
「まぁ、ここまでやれ……とは言わないけどさ。もう少し素直になれば、お前」
 その方が幸せじゃねぇ、と付け加えたのはスティングだ。
「キラさんをまだ好きだって言うなら、そのくらいはかまわないだろう。少なくとも、ここではそれを利用しようって言う人間はいないんだしさ」
 違うのか、とシンも彼に向かって声を投げつけている。
「……俺の……キラさんへの好意を利用?」
 そんなことをする人間がいるのか……とレイは首をひねっていた。それにシンはさらに言葉を投げつけようとしている。
「シン君……いいから」
 そんな彼に向かって、キラはこう声をかけた。レイが気づいていないなら、そのままにしておいた方がいいのではないか。そう思ったのだ。
「それよりも……僕は、レイ君の本音が聞きたいな」
 いろいろと、とキラは微笑む。そんなキラの表情に、彼は困ったというような表情を作っていた。

 重苦しい雰囲気だな……とムウは心の中で呟く。もっとも、それも仕方はないのかもしれないが……とも。
「どうしても、君は《彼》が自分の息子だ、というのかね?」
 この場に《カガリ》がいなくて良かった……と思う。それ以上に《キラ》の存在がないことが、だ。とてもではないが、こんな事を聞かせられない、と思う。
「それが事実だ、と信じて生きてきましたから」
 いけないのか、とデュランダルが言い返す。その様子は、どう見ても小さい子がただをこねているようだ。
「……だが、その結果、この地を危険にさらすことになったのかもしれないがね」
 君がそう言い続けてきた結果……とタッドがさらに言葉を重ねた。
「何を……おっしゃりたいのでしょうか……」
 さすがに、これには何かを感じ取ったのだろう。デュランダルが表情をこわばらせる。
「知っているかね? コーディネイターの問題はコーディネイターが解消すべきだ、と君の父君が主張していたことを」
 知らないはずがないな、とその言葉を耳にして、ムウは心の中で呟く。彼が一番近くにいたはずなのだ、と。自分たちがあの子達の一番近いところにいたように……と付け加えた。
「それは……知っておりますが……」
 さすがに否定できなかったのだろう。デュランダルは素直に同意を見せる。
「では、これは知っているかな?」
 できれば、これは伝えたくなかったのだが……とタッドが小さなため息を漏らす。それでも君は聞かなければ納得しないだろう、とも。
「彼がヒビキ博士の研究を快く思っていなかった……いや。ここでごまかしても意味はないな。不要だ、と思っていたことを、君は知っているのかね?」
 そして、その結果生まれた存在もそう思っていた、という事実を……と彼は続ける。
「もっとも、我々がそれを望んでいたことも、彼は知っている。だから、自分が手を下すのはできない……とも思っていたようだったがね」
 まさか、と言う考えがデュランダルの表情を横切っていく。しかし、彼としてはそれを認めるわけにはいかないのだろう。必死にそれを押し殺している。
「ですから、何をおっしゃりたいのですか?」
 そして、気丈にもこう言い返してきた。
 ここで引き下がっていれば、あるいは知らずにすんだことを聞かなくてもすんだのに、とムウは思う。いや、事実を知っている他の者も同じだったのではないだろうか。
「メンデルで行われていた実験――特に人工子宮に関するものをブルーコスモスに伝えたのは、君の父上だった……と言うことだよ」
 その結果、ヒビキ博士夫妻はもちろんあれで生まれたカナードやキラがブルーコスモスのテロの標的になったのだ。タッドはそう言いきる。
「……まさか……」
「残念だが、既に証拠が挙がっているのだよ」
 それを知らせずにすませたかったのだが……と告げるタッドの瞳に憐憫の情が浮かんでいた。
 それも当然だろう……とムウは思う。
 どのようにゆがんだ気持ちだったとはいえ、自分の恋しい相手を死に追いやったのが自分の父だと知って落ち着いていられるはずがない。
 しかし、だからといって同情する気にもならないことは事実だった。
「この事実、周囲に知られるわけにはいかないのではないかね?」
 コーディネイターの未来をつぶしかねなかったという事実を、とタッドは淡々とした口調で続ける。それにデュランダルは返すべき言葉を見つけられないようだった。