「……見張っていなくても……俺は逃げ出せないと思うが?」 レイが呟くようにこう言ってくる。それがシンには気に入らない。 「見張ってるわけじゃねぇよ」 思わず声にそれが出てしまう。 「キラさんに言われたんだ。レイが馬鹿なことをしないかどうか、確認していてくれって。それに、一人じゃつまらないだろうからともな」 こう言えば、レイは複雑な表情を作る。 それも無理はないのだろう。 自分だって、そう言われたときはどう反応していいのかわからなかったのだ。 だが、そういうのが《キラ》だよな……とすぐに思い直したこともまた事実である。そういう人間だからこそ、みんなに好かれているんだろう、とも。 「……あの人は……」 同じ事を考えたのだろうか。レイは何かを言いかけて言葉を飲み込む。 「後から来るっていっていたからな、キラさん」 その時に何を言うか考えておけ、とそんなレイに向かってシンは言う。でなければ、本気であの人は心配するぞ、とも。 「……俺のことなんか……見捨てれば楽だろうに……」 苦しげにレイが呟く。 「それができる人なのかどうか。お前だって、わかっているだろうが」 キラという人間は、とシンはレイをにらみ付ける。 「わかってはいるが……俺は、あの人を裏切った人間だからな」 そういう人間であれば……と思っただけだ、とレイは言い返してくる。だが、シンには、むしろレイが『そうして欲しい』と思っているように感じられた。 それはどうしてなのだろうか。 「……キラさんの事情は、一緒に聞かせてもらったけどな……お前のは知らないんだな、そういや」 それが関係しているのだろうか、とシンは思いながらこういった。 「俺の事情なんて……」 くだらないことだ……とレイが切り捨てようとするように口にする。 「そう言っているからだめなんだろうが!」 自分の中にだけあれこれため込もうとするから……とシンは叫ぶ。だから、いつまで経ってもそんな風に他人と一線を画す事になるんだ、とも。 「こっちが一生懸命、歩み寄ろうって言うのに、お前の方で拒絶しているんだぞ!」 もう少し考えろ、と思わず怒鳴りつける。 「……そう、かもしれないが……しかし……」 「今更、何を言われても驚くかよ! お前はお前だろうが!」 キラの事も、同じような意味で納得したんだから! と続けた。 そう。キラが自分の知っている《キラ》であればかまわない。目の前の人物が変わらないならそれで十分だろう、とシンは思っていた。 それはある意味、レイにも同じ事が言えるのか。 少なくとも、キラはそう思っているはず。 そして、彼がその機であるのなら、自分もかまわない……と思える。 「そう考えている人間もいるんだって事を、少しは自覚しろ!」 だから、シンはこう言い切った。それにレイは何も言い返してこない。それはそれでかまわない。だから、きっちりと考えろ……とシンは心の中で呟いた。 「……イザークさんとディアッカさんとミゲルさん……でいいんですよね?」 小首をかしげながらキラはそう問いかける。それに三人はそれぞれの態度で同意を示してきた。 「で、何かご用でしょうか」 それとも、何か失敗をしたのか……と思いながら、キラはさらに言葉を重ねる。 「……オーブの連中からの伝言を預かっていただけだ」 そうすれば、イザークがこう言い返してきた。 「みんなから?」 なんだろう、とキラは思う。彼等は無事にオーブに帰ったとカガリからは聞いていたが、それでも何か言わなければならない、と思ったことがあったのだろうか。あるいは文句かもしれない……と思いながらこう聞き返す。 「無事にオーブに戻ってきたら連絡を寄越せ。一緒に食べ歩きをしよう、だそうだ」 いい友人だな……という言葉にキラはふわりと微笑む。しかし、それは意外な言葉だったのか、アスラン達は目を丸くしていた。 「一つ聞いてもかまわないか?」 それを無視して、イザークはさらに言葉を重ねてくる。 「僕に答えられることでしょうか」 ならばいいのだが……と思いつつこう聞き返した。そんなキラの周囲に、さりげなくアウル達が寄ってきたのはどうしてだろう。そして、アスランもまたイザークの背後に移動している。 「コーディネイターとナチュラル。違いは何だ?」 その言葉の意味が、キラにはすぐわからない。 「……違いは、ないと思います」 だが、すぐにこう言い返した。 「確かに、コーディネイターの方が丈夫で知識をためておく容量が大きいかもしれません。でも、努力しなければ、それは宝の持ち腐れですよね。ナチュラルにだって、コーディネイターより優秀な人はいますし……だから、それはどうでもいいことだ、と僕は思っています」 大切なのは、相手の《人間性》だ、とキラは言い切る。 それで尊敬できるかどうかを決めるだけだ、と言う言葉に、イザークは目をすがめて見せた。 「僕はオーブの人間ですから。それに、ナチュラルがどうのこうのと言えば、兄さん達にどんな態度を取ればいいんですか?」 ムウはナチュラルだし、そしてカガリや友人達もそうだ。 そんな彼等を《ナチュラル》だからといって切り捨てたくない、とキラは思う。 「……そうか」 しばらくして、イザークは淡い笑みと共にこう言い返してくる。 「いろいろな考え方があって当然だからな。俺とは異なるものでも、お前にとってそれが真実だというならかまわないだろう」 それに、と彼は付け加えた。 「お前のような考えをする奴がいるからこそ、オーブではコーディネイターを受け入れてくれるものがいる、と言うことだろうしな」 ならば、否定する気にはならない……と言うイザークの言葉に、キラは微笑みを返す。 「そうですね……みんな、そう考えてくれればいいのでしょうけど……」 難しいから、戦争なんて起きるのだろうか。それとも、そうしたい《誰か》がいるのだろうか。その答えはキラにもわからない。 「まぁ、そう言うことは後で考えればいい。お前にもできることが必ずあるはずだからな」 こう言ってイザークが笑った瞬間だ。 「どうしたんですか、あれ……」 「……悪いものを食ったってわけじゃないだろうしな」 「ディアッカ、知っているか?」 「なんで俺に聞く」 彼の背後からこんな会話が聞こえてくる。 「貴様ら! 何が言いたい!」 即座にイザークが怒鳴り散らす。そんな彼等の関係が、とても仲がよさそうに感じられたキラだった。 |