「……この沈黙は……どのような意味を持っているのだろうな」 こう呟きながら、デュランダルはヴェサリウスを見つめる。 「もっとも、何があっても私には既に打つ手を持っておらぬのだが」 艦内の者達は決してヴェサリウスと戦うことはしないだろう。一人、それをしてくれたかもしれない存在は既にそばにはいない。 「……デュランダル様」 そんな彼の耳にタリアの声が届く。彼女であればもっと別の呼び方をされてもかまわないのだが、周囲を気遣ってのことだろう、と判断をする。 「何だね?」 「エルスマン議員よりの通信です。お出になりますか?」 この問いかけに、デュランダルはすぐに頷き返す。というよりも、でないわけにはいかないだろう。相手が最高評議会に名を連ねている相手であれば、なおさらだ。 しかし、何故彼が……とは思う。 てっきり、この場に顔を出すのはパトリックかシーゲルだろう、と思っていたのだ。 それなのに何故、彼なのか。 いや、まったく心当たりがないわけではない。 あの一件が伝わっているのであれば、彼が一番適任だ、といえる。しかし、それは《彼》の出生の秘密が最高評議会には知られている、ということになる。 では、それはどこから伝わったのだろうか。 「……でないわけにはいかないだろうね」 自分には拒否する権利がないのだ、とデュランダルはため息をついてみせる。それができる立場を得るまで、全てを我慢すれば良かったのだろうか。だが、それでは《我が子》を手元に置くことは不可能になってしまったかもしれない。そうも思う。 「わかりました」 言葉と共にタリアは部下に指示を出す。即座にモニターにタッドの姿が現れた。 『久しぶりだね』 この言葉に、デュランダルは姿勢を正す。 「今回は、どのような御用務なのでしょうか」 自分を捕縛するだけなら、クルーゼに命じるだけで十分だろう、と思う。それとも、別の理由からなのだろうか。 『おや? 君はもう聞いていると思っていたが……』 この言葉をどう受け止めればいいのだろうか。 『オーブから失われていた技術を提供してくれる……と連絡があったのだそうだ。そのためにオーブの姫ともう一人の少年が足を運んでくれたのだと聞いているのだが?』 この言葉の裏に隠されている意味は何なのだろう。 そして、彼は本当に何も知らされていないのか。 知ってはいるが、それを表に出していないだけなのか。 そのどちらなのか、判断が付かない。それがまた不気味だ、とも言える。 『君の専門は遺伝子だったね。立ち会って頂けるとありがたいものだな』 「……わかりました」 どちらにしても、自分には拒否権はない。そう判断して、デュランダルはこう告げた。 「……地球軍の機体か」 もちろん、ガモフにも自分たちが奪取してきたそれらがある。しかし、ヴェサリウスにはアスランが奪取してきた一機の他にさらに四機置かれているのだ。しかも、自分たちのものとは違いパイロットは元地球軍のメンバーのままらしい。 「本当に、手強かったですよね」 先日戦ったときのことを思い出したのか。自分たちを出迎えに来てくれていたニコルがこう言葉を返す。 「あぁ……まぁ、今は味方だって言うからいいんじゃね?」 戦わなくてすむし……とディアッカが笑う。 「そうだな」 そんな連中を信頼していいのか、とイザークは思う。だが、クルーゼがそう判断したのであれば、何か根拠があるのだろうか……と考え直した。 「……あれ、アスランか?」 不意にミゲルがこう口にする。 「そうですね。キラさんがあれのOSをナチュラルでも扱えるように改良するとおっしゃっていましたから」 その作業中なのだろう、とニコルはあっさりと答えを口にした。 「多分、ラスティも一緒にいると思いますよ。後、オーブの方々ですか」 このセリフをイザークは最後まで聞かない。それよりも早く床を蹴ると彼らがいる場所へと移動を開始したのだ。 「イザーク!」 「ったく、しょうがねぇな」 こうなれば、付き合うしかないんじゃないのか……と口にするディアッカの言葉はつきあいが長いからでたのだろうか。そんなことを考えつつも、イザークは流れるような仕草でアスランの隣へと降り立った。 「……イザーク……」 それに気づいたのだろう。アスランが嫌そうな表情を作る。 「あれだけの騒ぎを起こして保護してきた奴がどんな奴なのか、興味を持って当然だろうが」 しかも、誰も紹介してくれないのだから……とイザークは言い返す。 「隊長の許可が出ていないのにか?」 そうすれば、彼はこの言葉と共にイザークをにらみ付けてくる。 「第一、お前らは隊長に呼び出されていたのではないのか?」 こんなところで寄り道していていいのか……とアスランがさらに付け加えたのは、残りのメンバーもここに集まってきたからだろうか。 「まぁ、いいじゃん。顔ぐらいは拝みたいかなって」 そう思っただけだ、というミゲルに、アスランは嫌そうな表情を作る。それでも拒まないのは、彼の方が立場が上だ、と認識しているからかもしれない。 「……顔だけだぞ」 ただでさえ、雑音が多いんだからと言う表情からすれば、ひょっとして何かあったのかもしれない。そんなことを考えながら、そっとコクピットの中をのぞき込む。そうすれば、フラガの隣に小さな人影が確認できた。 「マジ、あれ?」 可愛いじゃん……というディアッカの批評をどう受け止めればいいのか。 「凄いな。ひょっとして、実力だけなら整備陣より上?」 ためらうことなく動く指に、ミゲルが感心したように呟く。それはイザークも同じだと言っていい。 MSのOSは構築が一番難しいと言っていいだろう。しかも、今彼が作っているのは《ナチュラル》のためのシステムだと聞いた。さらに難易度が上がっているはず。 しかし、その指は流れるような動きでキーボードを叩いている。 それは既に脳内に全てのプログラムができあがっていると言うことではないのか。 「……これだけの才能……地球軍に利用されなくて良かったな……」 他にもいろいろと理由があるらしい。だが、これだけでも目の前の少年を助け出して良かったのではないか。 イザークはこんな事を考えていた。 |