「そうか」
 カナードの言葉を聞いて、ムウは難しい表情を作る。その隣でラウは困ったような表情を浮かべていた。
「あの子の推察力はたいしたものだな」
 言葉と共にラウは小さなため息をつく。
「この手に取り戻せば……戦いに関わらせることなどない……とそう思っていたのだが……」
 そうもいかないというのが悔しいな、とラウは続けた。
「結局は、俺らの力不足って事か」
 いやだね……とムウが軽い口調で言う。しかし、その表情は厳しいものだ。おそらく、この場で戦うための《道具》があっても使えないのが彼だけなのだからだろう。
 だから、キラの言葉は渡りに船だとは言えるのだろうが、それを素直に受け入れるのには彼の矜持が邪魔をしているのか。
 守るべき存在の力を借りなければ守るための力を手にできない……というのは確かに悔しいのかもしれない。
「というより……キラの才能が突出しているだけだ……と思うのですが」
 少なくとも、プログラミングに関しては……とカナードは口にした。それだからこそ、自分の機体も彼にOSの構築を頼んだのだ。もっとも、基本的な部分だけではあるが。
「キラも、ムウ兄さんを守りたいのですよ」
 そして自分たちもだ、とカナードは彼の瞳を見つめる。守られるだけでいいとするような人間にしたくなかったから、そう教育したのだ、と付け加えれば兄たち二人は苦笑を浮かべる。
「それでも、お前が一番、過保護だよな」
「……まぁ、アスランなり誰なり、そばに付けておけば……雑音はシャットアウトできるか」
 少なくとも、そちらに関しては……と言うラウの言葉の意味は何なのだろうか。
「その前に、カガリに会わせなければいけないだろうな、キラを」
 しかし、その答えをムウがあっさりと教えてくれる。
「それは仕方がないことでしょう。あの日からあったことはない、とはいえ、あの二人は姉弟だ。とぎれてしまった絆をまた結び直させてやらないと」
 元の形にすることはできなくても、別の絆ならこれから作っていけるのではないか。そして、彼等にとってはそれが一番いいのかもしれない、とカナードは思う。
 あの日別れてしまった道は交差することはあっても同じになることはない。それを強要することが彼等にとっていいとは思えない、とそう口にする。
「立場が違いすぎるからな。だが……お互いの支えにはなれるかもな」
 友人という立場でも十分だろう……とムウも頷く。
「では、そちらは問題がない……と言うことでいいな?」
 ラウが結論づけるようにこう口にした。
「というより、会わせないとまずいだろう? ここまで巻き込んでしまえば」
 キラにも教えてあるんだろうし……という言葉にはカナードが頷く。
「それに……今後のこともあるしな」
 それを条件にあちらの協力を得たのだ。反故にするわけにはいかないだろう……というムウの言葉は、珍しく正論に聞こえる。もっとも、それを本人に告げるわけにいかないこともわかっていた。
「では、どちらも許可と言うことでいいのだな?」
「そう言うことになるだろう。カナード?」
 ラウの言葉に頷いた後、ムウは視線をカナードへと向けてくる。その意図がわからないはずがない。
「二人が動けない分、俺がキラの側にいればいいのでしょう?」
 今までのように……と告げれば二人は頷いてみせる。
「キラが起きるまでは、何もしませんけどね」
 この言葉には、二人も反対をしない。むしろ、ゆっくり休ませろという彼等に、カナードは自然と微笑んでいた。

 かなり疲労しているようだから、対面は相手が体調を整えてからにして欲しい。その言葉にはカガリも納得できる。
「それでも……顔ぐらいは拝ませてくれてもいいと思うんだが」
 声をかけなければ、相手に負担にならないのではないか。だから……と呟いたときだ。
「ですが、それではキラ様がごゆっくりおやすみになれないかもしれませんわよ」
 春風のようだ、と以前口にしたことがある声が彼女の耳に届いた。
「ラクス」
 そう言えば、彼女もここにいたのだったな、と今更ながらにカガリは思い出す。
「あら……私ではご不満ですか?」
 カガリの反応で彼女が何を考えているのかわかったのだろう。ラクスがからかうようにこう問いかけてくる。
「いや、そういうわけじゃないんだ」
 ただ……とカガリは言葉を続けた。
「いったい、どんな奴なんだろうな……って思ったんだ。私の片割れだ、という奴は」
 顔は似ているのか。性格は……というのを知りたいから……と付け加えれば、ラクスはふわりと微笑んだ。そのまま、カガリの隣に腰を下ろす。
 いや、彼女だけではない。
 おそらく、彼女の警護を任されたのだろう。同じくらいの年代の少年がすぐ側まで寄ってきた。
「ニコル様?」
「僕も興味がありますから……ご迷惑でなければお聞かせ頂けますか?」
 アスランの話を聞いていたから……と微笑む彼は、とても軍人とは思えない。
「カガリ、かまいません?」
「あぁ」
 別段、話を聞くぐらいならばかまわない。それに、他の人間がどう感じるかも知りたいし……とそう思うのだ。
「ありがとうございます」
 この言葉と共に彼は少し離れた場所に腰を下ろす。それを確認してから、ラクスが口を開く。
「キラ様は、お優しい方ですわ。そして、強い方」
 どのようなときでも、周囲の方に対する気遣いを忘れなかった。それは、コーディネイターだけではなくナチュラルに対しても同じだった……とラクスは告げる。
「お顔立ちは、カガリに似ているような気がしますわ」
 ただ、キラの方が優しく感じられる……と付け加える彼女に、カガリはかすかに眉を寄せた。
「何が言いたいんだ、ラクス」
「別に他意はありませんわ。カガリの気のせいではありませんの?」
 ころころと鈴を鳴らしたような笑い声をラクスは漏らす。それが逆にカガリの精神を逆撫でした。しかし、彼女はまったく気にしない。
「ただ、私はあの方が好きですわ。きっと、カガリも好きになりましてよ」
 そしてニコルも……と言う言葉は真実なのだろう。
「なら、いいがな」
 姉弟とは思えない。それでも、同じ血をひいているのであれば、親しくなりたい……と思う気持ちだけは間違いないものだった。