「どうして」
 気に入らないというようにフレイが叫ぶ。
「あんた達、そんなんでいいわけ?」
 そう言いながら視線を向けた先には三人の少年達が興味を持っていない、と言うようなそぶりで思い思いの体勢を作っていた。
「あんた達より、あの三人の方が使えるって事じゃない」
 あの機体に乗っていたのはあの連中だと言い切れない。だが、フレイはそうに決まっている、と思っていた。
 つまり、あちらの連中はあの三人を処分しないで使うという選択に出た、と言うことになる。
 それは何故か。
 あの三人は利用できるから。
 目の前の三人のように、ある意味時間制限がないのだ、と彼女は聞いていた。それでそう判断させたのだろう。
 だが、この三人ではそうはいかないはずだ。
 自分たちにとって有利だと言えるその一面が、今回はマイナスとなっている。
「あいつらだったら、今頃、キラもここにいたのかしら」
 そうだったら楽しいのに……とフレイが何気なく付け加えたときだ。
「ウゼェ!」
「……邪魔」
「戦闘になれば、俺たちの方が強い」
 憮然とした表情で三人はこう言い返す。
「でも、キラをここに連れてこられないじゃない!」
 この三人をさらに有効に使うためにもキラの存在は必要になるのではないか。フレイはそんなことすら考えていた。
「一番の目的を達成できないんじゃ、強さなんて関係ないわ!」
 強いだけではだめ。
 必要なのは結果なのだ。
 それも、自分たちに有益な結果をもたらしてくれるもの。
 そうでなければいけない。
 逆に言えば、それさえ与えてくれるのであればどんな忌まわしい存在でも認めることができる、とフレイは思っていた。
 それに……と彼女は心の中で呟く。
 自分が知っている《キラ・ヤマト》は他の連中とは違う。困っているものがどちらの陣営に属していても関係なく手をのさしのべる。そんな性格だったのだ。
 だからこそ、父をはじめとしたものは利用できると判断したのだろう。
 しかし、フレイの気持ちは微妙に違っていた。
「それに……」
 ふっと表情を和らげるとフレイは言葉を口にする。
「キラは誰の存在も否定しないもの。あんた達だって受け入れるわ。あの三人ですら、キラは普通に接していたもの」
 あんた達だってそう思ってくれるかもしれないわ……と続ければ、三人は初めて興味を示した、と言うような視線を向けてくる。
「そう言えば、あの三人はキラになついていたものね」
 もちろん、絶対者としてのムウの存在があったからかもしれない。
 だが、それだけではないだろう、とフレイは思う。
「キラの側は居心地がいいもの」
 だから、絶対に欲しいの。あの存在が……フレイはこう呟いていた。

「そうか……キラ君達を無事に保護したか」
 報告を聞いて、パトリックは安堵のため息をつく。そのままいすに背を預けながら視線を移動させた。
「お聞きの通りです」
 そうすればシーゲルとともにいた盲目の人物が安堵のため息を漏らしたのがわかる。
「ご協力、ありがとうございます」
 そして、彼はそのまま頭を下げる。それは、あの子供の後見人としての立場から出た言葉なのか。それとも……と思いながらパトリックは小さく首を横に振る。
「当然のことをしたまでです」
 今はいない二人の友人達に彼等の《息子》達を守ると約束したのは自分なのだ。だから、当然の事をしたまでだ、と思っている。
「しかし……まだ終わったわけではあるまい」
 こう口にしたのはシーゲルだ。
「……あの男か……」
 彼が心配しているのは《ギルバート・デュランダル》の事だろう。
「データー上は、彼とキラは何の関係もないことになっています。それが、彼女の希望でしたので……しかし、それで諦めてくれるような人物ではないのでしょうし」
 そのくらいで諦めるような人物なら、こちらから連絡を取ったときにおとなしくしたがっていただろう。
「気持ちは、わからなくもないがな」
 小さなため息と共にシーゲルはこう呟く。
「自分と愛しいと思った相手の遺伝子――後に、それに手を加えることになってもだ――を持った子供を欲しいと思うからこそ、我らは子を得たのだしな」
 ただ、と彼は続ける。
 あの男の場合、望んではいけない相手を求めてしまったのだ。そして、それが現在の執着につながっている……とすれば何とかしないわけにはいかないだろう。
「だからこそ、エルスマンに頼んだのだがな」
 自分たちであればデュランダルも耳を貸さないだろう。しかし、彼であればどうだろうか。
 何よりも、あそこにある施設の有効性を一番的確に判断できるのは間違いなくタッドだけだろう。
「彼に与えた切り札は……使われぬ事を祈っているよ」
 それが使われたとき、デュランダルはどのような行動を取るだろうか。それが怖い、とパトリックは心の中で呟いていた。