長い話になる。
 こう切り出すとムウは言葉を口にし始めた。
「コーディネイターの出産率の低下は……第二世代が誕生した頃から囁かれていたことだ。それを何とかしよう……と思ったのがお前の実の父であるユーレン・ヒビキだった。彼はナチュラルだったが、コーディネイターにも負けない才能を持っていた……と俺は思っている」
 こう切り出した彼の言葉は、キラの予想を遙かに超えた話だったと言っていい。
「僕は……」
 ただの実験体だったのか。
 思わずこう呟いたキラの体を四本の腕が抱きしめてくれる。
「それは違う。だったら、俺はどうするんだ?」
 こう囁いてくれたのはカナードだ。
「確かに、他人とは違う生まれ方をしたかもしれないが……お前は、みんなに愛されていたよ。そして、俺たちは今でも愛しているって。それに、実験に関して言うなら、俺たちも同じだからな」
 ここにいないラウも同じセリフを口にするはずだ、とムウもキラを抱きしめる腕に力をこめる。
「キラさんがどんな風に生まれたか、なんて関係ありません! 俺にとっては、今俺の目の前にいるキラさんが重要なんです」
 二人がキラを抱きしめているから遠慮しているのだろうか。少し離れた場所にいるシンが叫ぶように言葉を口にした。
 それだけなら、まだ自分を気遣ってくれたのかと思えたのだろう。
「そうですわ、キラ様……それに、キラ様のお言葉を借りれば、私も実験体、と言うことになりましてよ」
 さらにとラクスが爆弾発言をしてくれる。
「ラクスさん?」
「……キラ様ともうお一方がお受けになった処置……卵子の分割の結果私は生まれたのだそうですわ。そう考えれば、私もキラ様達と同じだ、と言うことになりますわよね」
 ころころと笑う彼女に、キラは自分の中で芽生えかけていた考えが、ものすごくばかばかしいもののように思えてしまう。
 ふっとからだが持ち上げられる。そう思った次の瞬間、キラはムウの膝の上にいた。それをカナードも止める気配を見せない。家族の前でだったらともかく、人前ではさすがにちょっと恥ずかしいかも……とキラは思う。しかし、ムウは気にする様子を見せていない。
「……まぁ、それに関してはまた後で話し合うとして、だ。続きを話してもいいか?」
 そして、こう問いかけてくる。その真剣な瞳に、キラは思わず頷いてしまった。
「お前の遺伝子上の父親が誰であるのか、それを知っていたのはお前の実の両親だけだろう。だから、もう確かめるすべはない。まぁ、確かめなくてもいいと思うぞ、俺は」
 血のつながりよりももっとしっかりとした絆をキラは持っているのだから。違うか……と彼は確認の言葉を口にする。
「僕の家族は兄さん達だけだよ」
 キラも同じ事を考えていたから、即座にこう言い返す。そうすれば、彼は満足そうな笑みと共にさらに言葉を重ね始めた。
「……お前達の生まれ方を快く思っていない連中がいた。だから、お前の実のご両親は亡くなられたのだし、お前達姉弟は別れて暮らさなければならなかった。だが、それだけで完全に安全だ、と言いきれるわけじゃない。だったら、少しでもお前達を守るための力が欲しかった、とマルキオ様に相談したんだ」
 その結果、軍にはいることになったのだ、とムウは苦笑を浮かべる。
「俺が本来属しているのは地球軍じゃなく、オーブ軍なんだよな。オフレコだが、ラウも同じだ」
 だから、これは本来の姿だ、とムウが口にした瞬間だ。
「マジ?」
 不意にシンがこう叫ぶ。
「マジだ。ついでに、俺は三佐だからな」
 にやりと笑った彼の表情にシンは表情をこわばらせている。
「どうしたの?」
 ムウがオーブ軍の三佐だからといって、それがシンとどう関係があるのか。キラには今ひとつわからない。
「それに、この艦には《カガリ・ユラ・アスハ》と《レドニル・キサカ一佐》がいるからな」
 さらにムウは、キラにはわからないセリフを口にする。だが、それを耳にしてシンは完全に固まってしまった。
「カガリ……については後で紹介してやる」
 そいつが、お前の片割れだ……とカナードが囁いてくる。
「そう、なの?」
 自分の片割れと言われても……どのような表情をして会えばいいのだろうか。キラにはそれもわからない。
「難しく考えるな。いいこだからな」
 でないと、ああなるぞ……と彼はシンを指さす。
「兄さん、それは……」
 その言葉に、キラはますます首をかしげてしまった。

「隊長!」
 キラ達がいるであろう私室に向かっていたラウの耳に、アスランの声が届く。その髪がまだ濡れているところを見ると、戦闘後にシャワーだけは浴びたものの乾かさずに来たらしい。
「慌てずとも、キラなら無事だよ」
 そう言えば、昔から彼はキラのこととなるとこうだったな……と思いながら、ラウは声をかけた。
「わかっていますが……でも……」
 少しでも早く彼に会いたかったのだ……とアスランは口にする。でなければ、他のメンバーが押しかけてくるかもしれないから、とも。
「あぁ……その可能性があったな」
 彼等にも、いずれ会わせなければいけないとは思う。しかし、それは今ではない方がいい。キラはまだ、混乱のさなかにあるはずなのだ。
「では、その前に入りたまえ」
 アスランであれば、キラも安心するだろう。そう判断すると彼に声をかける。
 そのまま端末を操作してロックをはずした。
「キラ? ラクス様も、ご無事ですな?」
 そして声をかけながら中に滑りこむ。その後をアスランが付いてきた。
「ラウ兄さん」
 ムウの膝の上で複雑な表情をしたキラが即座に呼びかけてくる。
「……話を聞いたのだな?」
 その表情から判断して問いかければ、彼は小さく頷いて見せた。
「そのようなこと、些細な事実だ。私たちの間では。そうであろう?」
 かすかに苦笑を滲ませてこう告げれば、キラはしっかりと首を縦に振った。
「お前が、ここに帰ってくてくれて、嬉しいよ」
 そんな彼の頬に手を触れれば、キラはふんわりと微笑んでみせる。その微笑みに、ラウも知らず知らずのうちに笑みを浮かべていた。
「キラ」
 周囲の様子から自分が口を挟んでも大丈夫だ、と思ったのだろう。アスランがラウの背後からキラに向かって声をかける。
「……アスラン……」
 それに答えを返すキラの声に複雑な色が見え隠れしているのは、きっと、自分の中でまだ全てが消化できていないからだろうか。
 本当であれば、彼に何も知らせずにいたかった。だが、それができなかった以上、後は自分たちが支えてやるしかない。ラウはそう思う。
「ほら。久々の再会だろう?」
 ゆっくりと話をしてこい、とムウはキラの体をアスランの方へと押しやる。その仕草から、あるいは何か話し合わなければいけないことがあるのだろう。
 その思いのまま、ラウは視線でムウとカナードを部屋の反対側にあるデスクへと誘った。