「それは本当なの?」 何事か報告を受けていたタリアが驚愕の声を上げる。 「どうかしたのかね?」 その態度に何か不安を感じて、デュランダルが問いかけの言葉を投げかけた。 「……先ほど本艦から、所属不明のシャトルが離脱したそうです……そして、確認したところラクス・クライン以下三名の所在が不明になっております」 おそらく、そのシャトルで脱出したのだろう、と彼女は付け加える。 「……レイは……」 どうしたのか、と思う。彼がいて、そんなことをさせるだろうか、と。 「彼の所在もつかめません……ただ、室内に破られたカーテンが残っておりましたので、あるいは拉致されたのかもしれない、という報告が」 つまり、自分がここにキラを連れてきたことと逆をされた、と言うことなのか。 だが、どうして彼等は《レイ》を連れて行ったのだろう。自分に何か影響を及ぼせると考えているのだろうか。 それとも、別の理由なのか、とデュランダルは考える。 だが、考えてみれば彼等が《レイ》を連れて行ってくれたのはこちらにとって都合がいいことなのかもしれない。 「あの子が、私を裏切るはずがないのにな」 そうなるようにしつけたのだ。だから、チャンスがあれば《キラ》を連れて戻るだろう。デュランダルはそう考える。 「問題は、こちらの方か」 目の前の戦闘にどう関わるか。 「レイが見つからない……というと、こちらに残っているパイロットはホークだけか?」 「そう言うことになります」 さて、どうしたものか、とデュランダルは悩む。 クルーゼ隊のパイロット達と彼女は同期だったはず。だが、実戦経験から言えば比べものにならないのだ。 そう考えれば、下手に出撃を命じることも難しいだろう。 「敵艦の動きを封じるくらいか……」 自分たちにできることは……と呟けば、 「そうかもしれません」 タリアが即座に言葉を返してくる。 その程度であれば、ブリッジのメンバーで十分だろうと彼女は付け加えた。ここのメンバーはそれなりに実戦経験を積んでいるし……とも。 「なら、君の判断に任せよう」 実戦での判断は彼女の方があるのだから、とデュランダルは告げる。 「では、そちらに関してはお任せ頂きます」 きっぱりというタリアにデュランダルは頷き返した。 これで、自分はこれからのことを考える余裕ができる。デュランダルはそう思う。 だが……と心の中で呟く。 キラが手元から失われてしまった以上、どこまで彼等に影響を及ぼすことができるだろうか。 何よりも心配なのは、最高評議会の面々が出てくることかもしれない。彼等が出てくれば、いくらタリアでも自分に協力を続けていいものかどうかを悩むに決まっている。 それにしても、今回の手際の良さには感心するしかないのか。 「どうやら……彼等を侮っていたようだな、私は」 三人だけで脱出できるわけがない。 となれば、キラの兄たちの誰かが艦内に侵入していたのではないか。そして、レイと共に彼等を連れ去ったのだろう。 あるいは《レイ》の秘密にも気づいているのだろうか。 だとすれば、自分に残されているカードは何のだろう。 デュランダルは少しでも自分に有利な状況を作り出すことを念頭に考えを巡らせる。自分の命があれば、まだまだ失地回復が望めるはずだ。 しかし、その時にキラとレイが自分の手元にいるか。 それがわからない……と彼は心の中ではき出していた。 「大丈夫だな?」 ゆっくりとシャトルに近づきながら、スティングはこう声をかける。 『スティング?』 そうすれば言葉を返してくれたのはキラだった。その声から判断すれば、連れ去られたときとそう変わらない状態なのではないか、と思う。 「あぁ。迎えに来たぞ」 ムウも待っている、と続ける。 『みんなに迷惑をかけちゃったね」 そうすれば、キラの口から出たのはこんなセリフだった。 「そんなことねぇって。無事に帰ってきてくれればそれでいいんだよ、俺たちは」 慌ててこう言うと、側にいるはずの二人にフォローを求める。 『キラ、無事で嬉しい』 『助けに行ったのは、俺たちの勝手。だから、気にしなくていいって』 そうすれば彼等も何か言わなければ行けない、と思っていたらしい彼等が自分たちの言葉でキラに呼びかけ始めた。これならば大丈夫だろうか、とスティングは思う。 「ともかく、詳しい話は戻ってからだ。それでかまわないよな?」 今も戦闘が続いているのだ。 カオスに乗り込んでいる自分はともかく、キラ達のシャトルでは対処の選択が思い切り狭いはずだ。それよりは、さっさと戻って安全な艦内に押し込んでしまった方がいい。 『それがいいだろう』 耳にしたことがない声が通信機から漏れる。 おそらく、これがムウの言っていた《弟》なのだろう。その声の落ち着きぶりから、ムウ達と同じくらいに信用してもいいのではないか、と判断をする。 「では、そう言うことで」 周囲のことは自分が何とかするから……とスティングは口にした。 『向こうに着いたら、抱きしめてもいいんだよな、キラ』 『一緒に、お昼寝……しよ?』 しかし、通信機から響いて来るこのセリフにはちょっと頭痛がしてくる。しかも、あの二人だけではないのだ。 『あら、ずるいですわ。私もご一緒させてくださいませ』 『俺だって、キラさんの側にいたいって!』 さらに二人分のセリフが耳に届く。 『あのね、みんな……』 その後に続いたキラのセリフが何か哀れに感じられる。 しかし、向こうに着いたら着いたで絶対にまた一騒動あるんだよな……と言うセリフはあえて口に出さないでおくスティングだった。 |