キラ達がいる部屋まであと一息、と言うところでカナードは見知った顔を見つけた。
「あいつ……」
 即座にアウルが忌々しそうな呟きを漏らす。
 そのまま、相手に殴りかかりそうな表情を彼に、カナードは視線を向けることで制止の意を伝える。
「どうして?」
 理由がわからない、とステラが問いかけて来た。
「ドアにロックがかけられているはずだ。なら、あいつに開けてもらえばいいだろう」
 処分するのはその後でもできる、とカナートは淡々とした口調で説明をする。
「なるほど」
 確かにその方が楽だよな……とアウルもそれで納得したらしい。身に纏っていたまずい雰囲気があっさりと霧散する。
 もっとも、処分なんてする気はない。
 キラが気づいているかどうかはわからないが、彼はあのころの《彼》によく似ている。そして、ある可能性があることをカナードは知っているのだ。
 だから、できればそれも確かめたい。
「それに……キラはまだ、あいつのことが気になっているらしいしな……」
 何故、こんな事をしたのか。側にいてくれたときの、あの言動は全て嘘だったのか。それを知りたがっていたはず。そして、それをするにはあの男が邪魔だ、と思っていることもカナードにはわかっていた。
「じゃ、あれも持ち帰り?」
「可能ならな」
 優先順位は下がる、と言えば二人はそれ以上問いかけてこようとはしない。そう言うところも、ムウのしつけなのだろうか。
「失礼します」
 そう考えているうちに、レイはキラ達がいる部屋のロックをはずした。そして、そのまま中に入っていく。カナード達もその後を追ったのだが……
「やるじゃん、あいつら」
「キラ、凄い」
 あっさりレイを昏倒させると手際よく縛り上げていく三人の姿がカナード達の視界に飛び込んできた。
「どうやら、ちゃんと脱出の方法を考えていた、と言うことか」
 まぁ、そうでなければ後でイヤミの一つや二つ、言ってやろうとは考えていたが……とカナードは心の中だけで呟く。
「あれ、持ってくの?」
 どうやら彼等もそのつもりだったらしい。しかも、シンはキラに他人を傷つけさせないようにとあれこれ気を配っているらしいことも伝わってきた。
「まぁ……合格点か」
 カナードは目の前の会話を耳にしてこう呟く。
 そのまま、彼は部屋の中に足を踏み入れた。
「大丈夫です。銃の使い方も教えてもらっていますから」
 それだけじゃないだろう、とカナードは思う。もっと他のことも身につけているはずだ。しかし、それをこの場で指摘する気にならない。
「そうだな。その方が俺も安心だ」
 その代わりにこう声をかければ、はじかれたようにキラが視線を上げた。そして、次の瞬間、嬉しそうな表情を作る。
「カナード兄さん!」
 この言葉に、カナードは頷いて見せた。そうすれば、キラはもう大丈夫だというような表情を作る。
「俺たちもいるぞ」
「キラ、ステラ、助けに来た」
 カナードの背後にいた二人がこう言って自分をアピールした。そうすれば、キラが目を丸くする。
「大丈夫なの?」
 ここにいて……とキラは付け加えた。それは、こいつらが《地球軍》の一員だったことに関係しているのだろう。
「かまわんだろう。この二人を送り込んできたのは兄さん達だ」
 それに、とカナードは表情を和らげた。
「ムウ兄さんは、本来の立場に戻ったし、こいつらはそんな兄さんに付いてきたから、大丈夫だろう」
 詳しいことは、後でだ……と言えばキラは小さく頷いてみせる。
「では、戻るぞ」
 あちらに、と言えば、全員が動き出した。
「先頭はアウルが、キラとラクス嬢の両脇をシンとステラが固めろ。後ろは俺が責任を持つ」
 もし誰か来たら、遠慮なく昏倒させろ、と命じる。
「殺さなくていいのか?」
 その方が後腐れなくていいだろう……とアウルが言う。
「殺せば、逃げ出すのが難しくなる」
 気絶させている間に逃げ出した方が、センサーに引っかからないだろう、と言えば、彼はそれで納得をしたらしい。
「殺さないですむなら、殺さないでくれた方が……いいな」
 キラはキラで呟くようにこう口にする。
「キラがいやなら、殺さない」
「ステラも、約束する」
 その言葉を耳にした瞬間、二人がこういった。その事実に、カナードは苦笑を浮かべるしかない。
「では、急ぐぞ」
 この人数であれば、船体に接触させてあるシャトルで戻れるはずだ。後は、ラウ達のフォローに期待するしかないな……と心の中で呟くと、カナードは子供達を行動に移させた。

「ムウ」
 あの二人が出かけて言ってから、じっと端末を見つめていたスティングが、初めて行動を見せた。
「どうやら、無事に連れ出せたようだな」
 しかし、とムウは思う。現在、外は戦闘中だ。カナードの実力を疑うわけではないが、非武装に近いシャトルでは、万が一の時の対処ができないだろう。
 しかし、ラウの所のパイロット達は既に戦闘状態だ。
 そして、自分の機体はこの場にはない。それは、三人に必要なあれを持ち込むために仕方がないことだったとはいえ、少し口惜しいとムウは思う。
「スティング、迎えに行ってやれ」
 そのために残っていたんだろう、と言えばスティングはすぐに頷いてみせる。
「地球軍のMSは? 撃破していいのか?」
「……できるだけ避けろ」
 スティングの問いかけに、ムウは即座にこう言い返す。
「俺たちの目的は、相手を倒す事じゃなく、キラ達を取り戻すことだからな」
 そうだろう、と問いかければスティングは頷いて見せた。
「じゃ、任せたぞ」
「わかっている。ちゃんと無事に連れて帰ってくるさ。そのために、俺はここに残ったんだからな」
 こう言って笑うスティングの肩をムウは軽く叩いてやる。
「頼んだぞ」
 ムウの言葉に、スティングは嬉しそうに笑って見せた。