「……地球軍、だと?」
 突然襲いかかってきたMSの存在に驚愕を隠せないのは、デュランダルだけではないらしい。おそらく、ヴェサリウスも同じであろう。
「何故……」
 呆然とした表情でタリアがこう呟く。
「キラ・ヤマト……は、優秀すぎたのだよ。そして、ムウ・ラ・フラガの義弟だ。地球軍に嫌悪を持っていない、と推測された」
 利用するにはうってつけの人材だ、と判断されたのだろう……とデュランダルは呟くように口にする。もちろん、心の中は嫌悪と怒りで満たされていた。
 愛しい人の面影を色濃く移したあの子を手元に置きたいだけなのに、どうしてこうも邪魔が入るのか。
「ムウ・ラ・フラガとカナード・バルスに関しては……わかるのだがな」
 あの二人が、どれだけ《キラ》を慈しんでいたか。それはレイの報告からもよくわかっていた。そして、その二人が各方面でそれぞれ名をなしていることも、だ。だから、彼等が最大の障壁になるだろう、と言うことも推測していた。
 しかし、とデュランダルは心の中で呟く。
 どれだけ手を尽くしても、キラのもう一人の《兄》の行方が未だにつかめないのだ。
 キラが生まれた頃、たまたま目にしたときの様子などから判断して、ムウ・ラ・フラガよりも彼の方が厄介なように思える。
 しかもだ。
 キラ達が月に移動してから、彼の痕跡が《ヤマト家》から完全に消え去っている。
 だが、彼が完全にキラ達との関係を絶ったわけではないはずだ。
 それなのに、いっさい痕跡が見られない……と言うことはよほどうまく立ち回っているからだろう。その手管は見事だとしか言いようがない。
 あるいは、ムウ・ラ・フラガと役割を分担していたのか。
 ムウの方が目立つように動き、もう一人の方がその陰に隠れていたのか。
「……まぁ、いい……今は、それよりもどうこの危機を切り抜けるか、だな」
 今はクルーゼ隊と地球軍がぶつかっている。
 その隙をつけば逃げられるのではないか。
 しかし、それをこの艦に乗っている者達が認めてくれるかどうか。
 これが、武装していない普通のシャトルであれば、クルーが軍人であろうとも即座に逃げ出しただろう。デュランダルとラクス、それにキラ達民間人が乗り込んでいる以上、その身柄を保護するのが最優先だから、だ。
 しかし、困ったことにこの艦はヴェサリウスと同じくザフトでも最新鋭の艦だ。彼等のプライドにかけて撤退するとは言い出さないだろう。
 それに、とデュランダルは心の中で付け加える。
 もし、この場を離れて本国に戻れば間違いなくキラと引き離されるだろう。オーブが出てきた以上、それは確実だとしか言いようがない。最悪、自分が今まで積み上げてきたものが全て取り上げられるという可能性もある。
 しかし、キラと彼が生まれたときのデーターがあればどうだろう。
 それが自分の手元にあれば、キラを完全に手に入れることができる。そして、自分の権限はさらに大きくなるはずだ。
 そのためには、どのようなことがあってもここから離れるわけにはいかない。
 デュランダルがこう心の中で呟いたときだ。
「……ギル……」
 背後から聞き慣れた声が届く。
「戦闘ですか?」
「あぁ……彼等は?」
 彼のことだから、きちんとしてきたとは思うのだが……と心の中で呟きながらこう問いかけた。
「貴賓室に。一応、外からロックしてきましたので……俺でなければ開けられない、と思います」
 出ないで欲しいとも頼んできたから大丈夫なのではないか、とレイは口にする。
「何があったのか、キラさんが気になさっていたので……ですが、これでは……」
 真実を伝えられないような気がする、と眉を寄せる彼に、デュランダルは小さく微笑む。
「大丈夫だ。彼等はエースだしね。それに、いざとなれば、この艦には君もホークもいる」
 ここまで言葉を口にしたところで、デュランダルはあることに気が付いた。
「そうか。君が出撃してしまうと……彼等の護衛を任せられる者がいないな……」
 それはそれで問題かもしれない。
 どうするべきか。
 デュランダルは打開策を探り始めた。